「マジで今朝のランニングがなかったら余裕で勝ってたんだって」

「はいはい。実質霧生の勝ちよ」

「いやそれは違う」

「それでは『抵抗基礎』の講義を始める。講師のベイルだ」

時計の針が一時を指した頃、大講義室の教壇にスーツ姿の男が立ち、よく通る聲でそう言った。

新生達で溢れかえる大講義室の喧騒はすぐに落ち著いて、誰もがベイルと名乗った講師に注目する。リューナに先程の愚癡を聞いてもらっていた霧生も口を閉じ、教壇の方を向いた。

「《抵抗（レジスト）》は魔、武関わらず、この學園で學ぶに當たって最も重要な技能だと言える」

簡単な自己紹介や前置きもなく、ベイルはさっそく講義の容にれていく。

「そしてそれを扱う為には《魔力》、もしくは《気》の緻なコントロールが必要になってくる。《魔力》や《気》についての説明はこの講義では省かせてもらう。現段階でそれをそれらを自分の中にじることができない者は、《抵抗》を扱う以前の問題なので、次回の講義まで各々予習しておいてくれ。さて、この講義では《魔力》と《気》の総稱として、エネルギーという言葉を使う」

ベイルは淡々と話した。隣のリューナはペンを構え、要點を聞き逃さないよう真剣な表をしている。

《魔力》と《気》は呼び方が違うだけで、同じエネルギーである。

武では《気》。魔では《魔力》。

近代ではどちらか片方を研鑽し、両方を扱う者は邪道とされていた為、長い歴史の中、派する者によって自ずと呼び方が分けられていた名殘が、魔も武も満遍なく學ぶことが珍しくなくなった今もけ継がれている。

「ではさっそくだが、解説しながら《抵抗》というものを実演して見せよう」

ベイルはそう言ってホワイトボードのけの上に置かれてあるイレーザーを掌の上に乗せた。

「《抵抗》は用途として防に使われることが多いが、イメージとしては"放出"だ。表の一部に凝したエネルギーを押し出す。このように」

彼の掌の上のイレーザーがふわりと浮ぶ。しかしそれはそう見えるだけであり、実際の所、イレーザーはしっかりと《抵抗》の上に乗っている。

とはいえあのように《抵抗》の上に安定してを置くのは達の技だ。ベイルの抵抗（レジスト）コントロールはこの學園で講師をしているだけあるものだった。

「皆も近くにあるでやってみようか」

《抵抗》の習得はまさに鍛錬あるのみ。

大抵の者は魔力や気を外に押し出すことに苦戦する。しかしこれができなくては技能者としては生きていけない。

戦闘において初の瞬発力は、《抵抗》による助けが必須と言っても過言ではない。

マスターすれば日常生活に置いてもかなり役に立つ技能だ。

《抵抗》を太の裏に纏えば椅子から楽に立ち上がることもできるし、高所からの著地もクッションするように調整すればなんなく行える。

ベイルは生徒にアドバイスを授けながら大講義室を練り歩く。

周囲で始まった抵抗の練習を、自分にもそんな時期があったなと、霧生は暖かい気持ちで眺める。

リューナはペンを使って抵抗に試みていた。彼の手の上のペンは、僅かに持ち上がっているが、プルプルと震えて安定しない。

「結構集中力いるわよね……これ……」

「最初はな。慣れれば使ってることを忘れてたりするようになるぞ」

霧生はリューナのペンを摘み上げて、その指をゆっくりと離す。ペンは一瞬だけ自由落下したかと思えば宙で止まる。

そして霧生の手の周りをくるくると縦橫無盡に回転しながら公転しはじめた。霧生のノーハンドペン回しである。

「凄すぎない？」

「俺、《抵抗》はかなり極めてる」

「……霧生って頭おかしいけど普通に達人クラスなのが腹立つわ」

霧生は得意気にサムズアップしてペンを返す。

そんな時、大講義室の後ろの方がドッと沸いたが。

「「「アハハ」」」

振り返ってみると、そこには抵抗で制服を膨らませ、風船のようになって周囲を笑わせる生徒がいた。その狀態を維持している辺り、初心者ではないらしい。

當然、霧生の他にも最初から抵抗を扱える者はいるようだ。

「思ってたのよ。服著てる所に抵抗を纏ったらああなるわよね。あの場合どうするの？」

「外から固めるように纏えばいい。今教わった、から外にエネルギーを押し出すやり方だとあれは防げないな。だいぶ難易度高いぞ。との著部分がないと制も難しくなってくるし」

「ふうん……」

部分的にしか纏えない上に大した厚みも出せない最初のはあまり必要ないが、そのうち抵抗を鎧のように全に纏うこともできるようになる。その時必要になる技だ。

「あの原理でガタイを良く見せてる奴もいるんだぜ」

「あー、……今私も思いついてた」

リューナは一瞬視線を下ろした。

しっかりと出るところが出ている彼には必要無さそうな裏技である。

「他には漫畫みたいに筋で服破くやつ……あの演出も《抵抗》で実現可能だ」

「そっちの方は実用皆無よね」

「いいや実はそうでもない。服を摑まれたりした時はそれで出できる」

風船のように膨らんだでおどけ、周囲を沸かせる年に霧生は再び視線を向ける。

「しかしあいつ目立ってるな……、ちょっと魅せてやるか……」

これは実用と言うわけではないが、服を弾き飛ばせばあの年より目立つことができるだろう。霧生はそう思って車椅子のハンドリムに手を掛けた。

「やめて」

何をするのか察したのか、リューナが全力で制止してきた。