《【書籍化】學園無雙の勝利中毒者 ─世界最強の『勝ち観』で學園の天才たちを─分からせる─【コミカライズ決定!】》第18話 勝負に怯える負け犬の目

講義を開くに際した諸々の手続きにより、霧生がリューナに技能を指導するのは結局翌日のこととなった。

學長が実技講義のためにと霧生にあてがったのは、魔區にある第三訓練場だ。模擬戦や決闘、催し事での試合に使われる闘技場に対し、學園にいくつか點在する訓練場はその名の通り訓練するための場である。

広さは闘技場の十分の一程で、見用のアリーナ席もない。土のグラウンドを高さ數メートルの打ちっ放しのコンクリートが囲む殺風景な空間だ。

しかし位置、風水、場の魔力濃度共に質の良い研鑽を積める場所となっている。

流石にここを常時貸し切りとまではいかないが、空いている時間は獨占的に使っていいとのお達しを霧生は學長からけた。そのせいで道場破りは斷念せざるを得なくなってしまったのだが。

そんな第三訓練場に、霧生とリューナ、そしてリューナがった青髪の小柄なが向かい合っていた。

「はじめまして……レイラです」

青髪のが強張った表で名乗る。レイラと名乗った彼は気弱さを全面に押し出した風貌だった。

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リューナのやや後ろを歩いて登場し、両手は前で半端に絡ませている。容姿は整っているが、常にし俯いているので暗い印象をけてしまう。

しかしその俯き合が車椅子に座っている霧生には丁度良かった。

杖霧生。よろしく」

「よ、よろしくお願いします……」

「そんなに張することないわ。こいつ頭はおかしいけど、良い奴だから。多分」

言って、リューナがレイラの張をほぐそうとする。彼は一見リューナとは反りが合わなそうに思えるが、どういう経緯で関係を築くに至ったのだろうか。

霧生はを前に倒し、レイラの顔を下から覗いて試してみる。

「っ……」

視線が合い、レイラは一歩後ずさる。

「なるほど」

再び車椅子に背を預け、霧生は腕を組んだ。

その人間の人となり。正面から目を合わせれば大の事は分かる。すぐに視線を反らしたレイラに霧生は告げる。

「勝負に怯える負け犬の目だ」

「初対面でなんてこと言うのよ」

リューナが霧生の後頭部を軽くはたいた。

「ごめんね。実力は確かだから」

「い、いえ、いいんです。あの、霧生さんは同じ新生ですよね?」

「ああ、そうだな。技能の世界はかなり長いが」

レイラの質問は、新生なのになぜこのような好待遇をけることができるのか、ということを暗に尋ねたものだろう。訓練場の獨占使用が認められ、講義をけ持つ新生など、類を見ない例だ。霧生はこの第三訓練場とは別に、座學用に空いている講義室の使用も許可されている。

とはいえ『勝利學』の講義が始まるのは一週間後の話だ。

「そうよ。學長と繋がりがあったなんて」

リューナがレイラの意図を汲んで言う。

「そんなんじゃなくて、あっちが一方的に俺のことを知ってたんだよ。そんなことよりほら、始めるぞ」

霧生がパンと手を叩くと、レイラは気を引き締めるように姿勢を正し、リューナも開きかけていた口を閉じた。

「さて、教えるのは《転移》からで良いんだよな?」

「うん」

頷くリューナ。彼達が転移を教わりたいのは、講義を妨害されたからに他ならない。

しかし結果としてそれは正しい方向に事が進んだと霧生は考えている。

「じゃあまず言わせてもらうが、二人とも見たじ、まだ《転移》を學ぶ域に達していない。初っ端からこんな高難度の魔を習得しようだなんて、はっきり言って無謀だ」

リューナは不満げな顔をしたが、話が違う、とは言って來なかった。それが分かった上で學ぼうとしているのだから、霧生の言葉はれるしかない。

そして、訓練場の地面に描かれた無數の紋様式が、これから始まる壯絶な特訓を彼等に想像させた。これらは霧生が事前に組んでおいた式だ。

霧生は片手を數多の紋様式に向ける。

「転移魔は知っての通り、式の構築と魔力の通し方、その維持が難しい。失敗したら壁の中に生き埋め、なんてこともザラだ。だからこそ……」

「まさかアンタいきなり転移を実踐させる気じゃ……」

リューナが引きつった顔で尋ねてくる。それをけ、霧生ははぁと溜息を一つ吐いた。

危険を伴う訓練が効率的な場合もあるが、リスクがある時點で除外される。なくとも人に教えるにあたっては。

そういうことはある程度長し、個人でやるものだ。

「んなわけあるか。ここにある式は全て最終的に魔が発しないように組んである。君達にはここにある式に魔力を通してもらおう。要するに魔の素振りみたいなもんだな。

多分しばらくはそれだけの訓練になる」

言うと、リューナはどこか拍子抜けした様子だ。

「これはどういう訓練なの?」

「魔力を通しても式を安定した狀態で維持できるようにする訓練」

「なんか、思ってたより普通ね……」

「なんだ。俺からてっとり早く習得できる方法でも聞けると思ったのか?」

これでもかなり過程を省いてる、と霧生。

「ええ。だって霧生はその歳で習得してる訳なんだし」

リューナは軽く言うが、霧生の技能はい頃からの地獄のような特訓があってこそなのである。しかしそれを普段の霧生の振る舞いから察するのは難しいだろう。

才能があればすぐに習得できる、とリューナが過信してしまうのは多仕方ない面もある。

霧生がそれに反論しようとした時、リューナはすでに紋様式の方に進んでいた。レイラもそれに続く。

達が訓練を始め出すと、霧生は第三訓練場からし離れた所に経つ建に視線を向ける。

その建の屋上には數人の男。

上級生らしき彼らは手すりに肘を付き、こちら……否リューナとレイラを靜かに見下ろしていた。

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