《【書籍化】學園無雙の勝利中毒者 ─世界最強の『勝ち観』で學園の天才たちを─分からせる─【コミカライズ決定!】》第9話 対殺し屋に適任の人

「ハオだな?」

時刻は深夜。およそ一ヶ月前、霧生とかくれんぼをすることになった年、ハオ・ジアと思わしき生徒に、霧生は聲を掛ける。

「…………マジ?」

以前は年であったが、現在はの姿。気の質も呼吸の癖も、平均的な心拍數まで何もかも別人に擬態しており、霧生も見抜くには至らなかった。

だがそんな彼の反応で、霧生はがハオで間違いないことを確信し、まずは拳を握った。

「よぉぉぉうし!」

人気のない深夜の寮區畫に霧生の雄びが響き渡る。ハオは頭を抱えて嘆いた。

「うそだろぉ〜! 気の質も変えて今度ばかりは完璧だったはずだ! なんで分かったんだよ!」

「怪しい奴総當たり戦法だ。確信はなかった」

ほとんどの新生が出りする寮のり口に張り付くことかれこれ13時間。疑わしき生徒に片っ端から聲をかけて107人目。霧生はようやくハオを引き當てたのだった。

「そのやり方ずるいわ〜」

聲帯の太さを調整して聲質まで変えているのだから見事だとしか言いようがない。

「ま、俺の勝ちだよね」

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ハオの肩にぽんと手を乗せると、彼はだだをこねるようにその場にしゃがみ込んだ。

「いやずるいなぁ〜!? 寮の前にずっと張り込んでるのもずるいしさー!」

「しらばっくれたら良かったんだよ」

「くそ、確かに……! 前回完全に見抜かれてたから今度もそうかと……」

ストレートに見つけられない以上、ハオとのかくれんぼはリューナに接した者の中から絞り出す読み合いになるはずだった。

しかし、こうして強引に見つけ出したのには理由がある。

「まあぶっちゃけこの勝ち方は俺としても不本意でな……。ルールを改めて再戦してもいい……と言いたい所だか、その前に協力してしいことがある」

「……なんだよもー」

完全に意気消沈するハオはやるせなさそうにこちらを見上げてくる。

「學園に殺し屋が紛れ込んでる」

その言葉で纏う溫和な雰囲気はガラリと変わり、彼は目つきを変えて立ち上がった。

「あーやっぱりいるんだ。なーんかクズの臭いがした気がしたんだよね。何人?」

「確認したのは2人。雰囲気的に多くても4人ってところだな。手練だ」

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あれから個人での捜索を行っていた霧生だが、痕跡が見つからない狀況での追跡は発見に繋がらない。

他人に存在を気取られない、隠が重視される殺し屋という職業は、達人を相手にしても逃げ遂せられる程に、その分野に特化している。

限り無く接近すればその臭いをじとれることはあるが、敵も警戒している以上それには運も必要だ。

「そう。標的は?」

「天上生の誰かだ。まだ人死には出ていない。出る前に必ずカタをつけようと思ってる」

殺し屋の標的が天上生であることは、もはや確定的だろう。天上生に下界止令が敷かれてから、もう4日が経過している。

憾ではあるが、地上の生徒を數名殺す時間なら十分にあった。いくら優秀な講師達が警戒に當たり、霧生が寢る間も惜しんで地上の警らを行っていても、カバー出來ない部分はどうしても出てくる。

察知されたことには敵もすぐに気付いただろう。その上で、こちらの守りを固める前に仕事を片付けなかった、否、片付けられなかったことが、標的が天上生であることの裏付けとなる。

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だが、霧生が學園に來る以前は滅多に地上へ降りることはなかったと言う天上生。敵が事前に學園の事を細かに調べていれば、いい加減殺しの手筈が整っていてもおかしくない。こちらの警戒を計算にれた上でだ。

とは言っても《天上宮殿》の守りは盤石であるし、天上生達は殺し屋に狙われているかもしれない事実を學長から知らされている。殺し屋達にとっては好ましくない狀況だ。

事前に存在を察知されてしまったのは痛恨の極みであろう。

霧生が確認してみた所でも、手練と言えど安易に殺しが行える環境ではなかった。

この狀況を維持していれば、霧生ないし講師達がいずれ殺し屋を捉えられると考えている。しかし、犠牲者0を守りたい學園側がこの拮抗狀態を良しとするのは悪手だ。

敵が想像もつかない手法で殺しを行う可能を捨ててはならない。

「そういうことなら協力は一切惜しまない。僕に何ができる?」

しばらく考えて込んでいたハオが、意を決したように口を開いた。

「天上生に擬態してくれ。そのレベルの擬態ならまず見分けられる奴はいないだろうから、おびき寄せられるかもしれない」

「なるほど、それは良い案だね。僕のの安全がしも考慮されてないけど」

「殺し屋の一人や二人くらい軽くあしらえるだろお前は」

ハオの瞳を見據える。やけに爭いを嫌う目の前の年(現在は)が底知れぬ実力を隠し持っていることは、一目見た時から見抜いていた。

「……君、もしかして僕のこと知ってんの?」

「いいや」

については何も知らないが、霧生はなんとなく彼が自分に似ているようにじていた。

「ふーん。まあいいか。で、誰に化けたらいいの? そこまで標的は絞れてないんでしょ?」

「誰でもいい。まずは敵の狙いが天上生の中の誰かなのか、天上生を無作為に狙っているのか見極めるところだ」

後者ならきやすい。霧生が聞いた「天上生じゃない」といった言葉からして、その可能も十分にあるはずだ。

ーーー

「すごいなー。こんなふうになってたんだ《天上宮殿》って」

翌日。霧生はハオ(本來の姿)を宮殿へ連れてきていた。當然學長からの許可は得ている。

他人に完璧に擬態するなら、本人の協力も必要不可欠なので協力を得られる相手を探しに來たところであった。

「せっかくだから可い子に擬態したいなぁ……」

エントランスにある《転移回廊》は地上を繋ぐ複數の《転移回廊》を一つに束ねている。現在は地上にあるほとんどの回廊が一時的に遮斷されており、殺し屋の侵を防いでいる。

「というかみんな容姿も當たり前のように整ってるよね。流石は天が二も三も與えた天上生ってじ?」

などとハオが言っていると、よくえた豚のような天上生がタイミング良く目の前を通り過ぎた。彼はなぜか息が荒く、汗も酷い。両手にはよくわからないった試験管を持っている。かなり特徴的な天上生だ。

「…………」

「あいつでいこう。よく目立つ」

彼が通り過ぎてから霧生は言った。

「嫌だよ!」

即座に斷固拒否するハオ。あれなら標的としても丁度良いと思ったのだが、ハオは本當に擬態する相手を選り好みするつもりでいるらしい。

「そうだあの子がいいなぁ。一昨日中継テレビに出てたユクシアって子。ちょー可いよね」

「ハハハ。アレに化けるのは無理無理。やめとけ」

あの才覚を完全に真似るのはいくらハオでも無理があるだろう。それができる者がこの地球上に存在するのか、といったレベルだ。

「私のことアレ呼ばわりするんだ」

「のわぁっ!? びっくりしたァ!?」

唐突に響いた背後からの聲に驚き、ハオが前方に跳ねた。反して平靜を保っている霧生は余裕の表で振り返る。

そこには夜空のローブに金の粒子を纏わせた、ユクシア・ブランシェットが立っていた。

「な? 俺らの背後を容易くとってくるだ。ま、俺は反応できたが」

霧生はハオの方へ顔を向けながら肩を竦める。

「できてなかった」

しかし、そんなユクシアの言葉でピクリと肩を震わせた。

「ふざけんな、できてただろ」

「できてなかった」

「できてました。一々突っかかって來やがる」

「だってできてなかったし」

「…………」

霧生は苛立ちながらも毅然とした眼差しで彼を睨む。き通る泉を思わせる瞳がそれに応対した。

「んー、本當だ。これは擬態できそうにないね」

そんな中、飛び退いた所から戻ってきたハオがまじまじとユクシアを観察しながら呟いた。モニター越しではなく、実際に見る彼の才覚は比べにならないだろう。

擬態に関しては譲らなかったハオが、あっさりと手に余ることを認める。

「それに僕、強いはともかく、強すぎるにはちょっとトラウマがあるんだよね(笑)

だから無理。よし、他當たろう」

ユクシアが何気に傷つきそうな事を軽く言ってのけてハオは先を歩き始めた。

霧生がチラリと彼の方を見ると、案の定ユクシアの《気》に僅かなれが見えた。

「ハオ、先勝手に探しててくれ。俺はちょっとこいつに話がある」

「あーい」

霧生とユクシアの関係を特に言及する訳でもなく、ハオは持ち上げた手をひらひらと振りながら廊下の角を曲がって消えていった。

「…………」

「お前、意外とメンタル弱くないか?」

ハオの足音が遠ざかり、しばらくしてから霧生は口を開く。

弱いと言っても、かなり限定的な一面の指摘ではあるが。今はウィリアムとの立ち合いも、なからず影響しているのかもしれない。

「そんなこと…………、あるかも」

一瞬否定しようとして、彼は小さく頷いた。

「そこは正直なのかよ」

「キリューに隠すことじゃないし」

ユクシアは自分を他と隔てるような発言や行を嫌う。

それに気づけない者。気付いていても抗えない者。気付いた上で、それを強者の宿命として彼を擔ぎあげる者。

才ある彼は唯一、"人"に恵まれない。

「俺はお前が強すぎるとは思ってないから安心しろ」

言うと、ユクシアは微笑みを浮かべた。

「キリューより強いのは間違いないけどね」

それで出てくる言葉がこれだ。

霧生はスゥーと息を吸い込み、一度眉間を押さえてから腕まくりをした。

「表出るか?」

「嬉しいいだけど、私に話があるんでしょ」

「……ああ、そうだったな」

「言い辛いことなんだ」

霧生が聲のトーンを落としたので、ユクシアは察した。

霧生はこの話をユクシアに持ちかけるかどうか今まで悩んで來たが、やはり頼んでおいた方が対策としては堅固なのである。

そろそろ敵もいてくる頃合いだ。

「殺し屋のこと、聞いてるだろ」

意を決して、霧生はユクシアの目を見た。

「うん」

本來なら《天上宮殿》にも講師達の護衛がつくはずだったのだが、淺はかな天上生達のプライドがそれを許さず、尋常ではない反発にあった。

それ故に、もし殺し屋が宮殿に立ちってきた場合は彼らが対処することになってしまっている。

ユクシアが研鑽していた《老練の間》にはこの手の経験も積んでいそうな達人の気を複數じたが、彼らが出てきている気配はない。

それでも宮殿の守りは固く、天上生を一方的に殺せる狀況に持ち込むのは至難の業と言えるが、念には念をれたい。

「殺し屋がここにやってくるようなことがあったら、お前一人で対処してくれないか。天上生達への周知も頼む」

霧生は震える手を強く握った。

これはハオに協力を要請するのとは訳が全く違った。住む世界が違うユクシアに、殺しに掛かってくるかもしれない相手と戦えと言うのだ。

「そうするつもりだったよ」

真意はさておき、ユクシアは落ち著いた聲で答えた。

「そうか……それなら、頼む」

に汚れた経験を積ませるのが、霧生にとっては如何とも耐えがたい。しかし、他の誰かが相対して殺されるなら彼に任せた方が良いに決まっている。ユクシア一人に対処を任せるのが、他の誰が対応するよりも確実で安全だ。

勿論、大前提としてそうならないよう、地上で先手を打つつもりではいるのだが。

「ありがとね、キリュー」

「何がだよ」

ユクシアの素直な笑みから、霧生は目を逸らした。決して禮を言われることでは無いのだ。

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