《【書籍化】學園無雙の勝利中毒者 ─世界最強の『勝ち観』で學園の天才たちを─分からせる─【コミカライズ決定!】》第2話 「オォおおおおおおおおッッ! う、うぐあああああああああ!?!?」

テーブルの上のグラスに勢い良く手をばし、中のそれを勢い良く飲み干す。

二人の挙はほぼ同時。重なりあうきの中で、お互い視線は一切逸らさなかった。

口の中に甘苦い風味が広がる。口當たりが良く、一度に飲み干すことに不快は無かった。

味いな」

「うん」

言いつつも、霧生は早速視界の端が歪んでいくのをじていた。

異常なほど巡りの早い酒に驚かざるを得ない。流石は天上生ブレンドの薬といったところか。

《抵抗》の有無に関わらず、霧生は有害な毒に対して様々な抗を持つ。しかしこの薬はそう言った毒とはジャンルが違う。

これは魔による付與効果が施されたあらゆる酒を、一點に秀でるよう複數配合されたものだ。そもそも《抵抗》無しに人が耐えられるような作りになっていない。

目の前でポーカーフェイスを続けるユクシアにも當然効果があるに決まっている。

近づいてきた唯華により、空いたグラスに再び薬が波々と注がれる。

「二杯目。これを飲めば記録と並びます」

二杯目にして最高記録。

このような勝負を行う者がそうそういないだけなのだろうが、それにしても宮殿名と言っていたのはなんだったのか。

とは言え、この勝負は薬を何杯飲むかではなく、いつまで理を保っていられるかなのだ。

薬が一層回ってきて、判斷力が鈍っていく。思考停止は悪手だ。

「ああ、なるほど、へえ……」

「うん」

試されるのは自制心、、メンタル。襲い來る衝をいかにしてすか。

霧生は歪んでいく視界の中、眉間をつまんで言った。

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心臓が強く脈打ち、が火照っていく。

「……クソ、効くな」

「……うん」

だがそれはそれ。

霧生は新たに注がれた薬に手をばした。同様にユクシアもグラスを摑む。

酒の効果は十分。競い合うに相応しい威力。

そして負ける気が全くしない。

ユクシアからも拠の無い自信の気配がじ取れる。

しかし追い詰められた時、やメンタルがものを言うこの勝負においては霧生に絶対的な分があるはずだ。

弱な面を持つユクシアには難易度の高い勝負だろう。

霧生はユクシアに意地の悪い笑みを向けながら、二杯目の薬を飲み干した。

の方も澄ました顔で悠然と二杯目を空ける。

すかさず唯華がグラスに薬を注ぎ直し、霧生とユクシアは間髪れずにそれを空にする。

「記録更新です!」

小さく拍手が起こる。

技能の研鑽には何の糧にもならない薬の飲み比べを、天上生達がこぞって真剣に観戦しているのが面白い。

霧生は一度息をついた。再び満杯にされたグラスをユクシアが持ち上げれば、勿論それに応えるつもりだったが、彼きは無かった。

こちらにペースを合わせる作戦で來るらしい。

歪んでいく景に対して、ユクシアだけがどんどんクリアになっていく。

視線を逸らさないユクシアに目を合わせていると、泉を思わせる瞳の中に吸い込まれそうになる。このままを委ねてみたいとも思う。

霧生は今一度深く息を吐き、目を閉じた。

「……すまん、休憩させてくれ」

「ん、いいよ」

──《過域》

澄み渡る湖面に巖石が放り込まれたかのような怒濤の《気》が立ち昇ると、それはまたたく間に頂點へ達し、霧生目掛けて降り落ちた。

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ストン。靜やかな湖面が戻る。

しく、それでいて力強さもある《過域》にギャラリーは一度ざわめき、そしてなぜ今その技能を? と、遅れて気づいた異変に二度ざわついた。

酒を妨げる技能は止でも、促進させるものはルール違反でもなんでもないだろ?」

「えっと……まあ、はい」

心臓を起點に、流に従ってを巡る《気》もしくは《魔力》は、當然それに作用する酒の効果をよりハッキリと得られる。

つまり、薬の回りが早くなる。

これくらいの趣があってもいい。

そんな意味を込めた挑発として《過域》を行った霧生だが、

「面白い試みだね」

ユクシアも既に《過域》に至っていた。

の技能に気づいた者がこの場に何人いただろうか。霧生ですら、しっかりと目に捉えていなければ気付けなかったかもしれない。

霧生の発的な行使の影でユクシアは見惚れるほど粛として《過域》に及んでいたのだ。

「流石に、流石だな」

「だって、私の方が上だもん」

「あ?」

霧生が眉を顰めると、ユクシアがグラスが手元に引き寄せる。不意を突かれたが、霧生も追いついて同時に胃に注ぎ込んだ。

グラスをテーブルに打ち付けると、先程連続で飲み込んだ薬が一気に回ってきた。

《過域》も不味い。維持をすることには何ら問題は無いが、呼吸をしでも早めると、《気》だけではなくの循環も加速する。

まだ一杯目から時間も経っていない。

これは飲み比べだが、より多く飲んだ方が勝ちとされるかは分からないし、この薬は朦朧としたり意識を失うような代でもない。

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健康を害さないのだ。

故に、勝利の定義が決まっていない以上、先に敗北を抱いた者が負ける。

「長引くぞ。ゆっくりやろう」

霧生は唯華によって新たに注がれた薬に口を付けながらそう言った。

同じく勝負の本質を理解している様子のユクシアはグラスを口にしながら快く頷く。

「長引かないと思うけど。キリューに合わせるよ」

お互い半分ほど飲むと、霧生はグラス片手に席にもたれかかって足を組み、ユクシアはテーブルにグラスを落ち著けて両肘をついた。

ここで爭っても勝利に繋がらない。霧生は張り合うかどうかを考えて、控えめに首をかしげる。

「OK。じゃあ話すか?」

「うん、楽しそう」

ユクシアの屈託の無い笑みにややクラリと來る。彼は勝負を抜きにして、霧生と話したいという本心から嬉しそうにした。

なるほど、薬だ。

普段の霧生の頭にはなどほとんど生まれない。生まれたとしても霧生は常に勝負のことを考えているので、それが優先されることはあり得なかった。

だが今は、これまで微だにしなかった天秤が揺れている。

面白い。振り切れていたはずなのに、俄然勝ち気が溢れてくる。

勝負に関すること以外にときめく覚も新鮮だが、せる。まだまだ理せる。

とは霧生の勝利に対する念の厚さであり、その強度の証明だ。

燃えてきた。

「私に見惚れるのはいいけど、何か話してくれないの」

「見惚れてないし、お前が話せよ」

「お前、か。キリューって、私のことあんまり名前で呼んでくれないよね」

「…………」

會話は止まる。というよりは、霧生が言葉に詰まった。

この會話が周りに聞かれているのか。と、そんなことをなんとなく意識してしまい、その弱な思考に激しく苛立ってしまったのだ。

霧生は自分像に拘りがある。こうあるべきだ、という自意識がある。故に、そうではない自分を見せることに恥をじてしまう。

、こんなことを考えている時點で自分らしくないのだ。

考えを打ち切り、ユクシアに押された形となったが、リセットするための間を置いて、霧生は薬をクイッと飲み干す。合わせて彼が飲み干すと、霧生は改めて口を開いた。

「そういえばお前」

「またお前って言った」

霧生は顔をしかめる。

そういう切り口で來たか。

も相當薬が回っていないとおかしいのだが、振る舞いに変化が無い。

強いて言えば、目元が若干とろんとしていて頬が僅かに紅しているくらいか。

とにかく平常心を保つことで、平常を保てなくなったら負け、とでも言いたげな対決のベースを作ろうとしている。

いいだろう。けて立つ。

片手に持つグラスには唯華が勝手に薬を注ぐ。

話している間にたっぷりと注がれた酒をに流し込み、霧生は肩を竦めた。

「ユクシア。これでいいんだろ?」

「ううん、ユクって呼んで」

間髪れずにそんな言葉が返ってくる。

不意を突かれた霧生はとうとうを真一文字に結んだ。

「困るとそうする癖、昔から変わってないね」

ユクシアにはお見通しのようだった。

これは霧生の一時最終防衛ライン。思考退化である。

邪念のない期に心を戻して敗北を跳ね返す。

「私のことばっかり言うけど、キリューも意外とメンタルが弱いんじゃない?」

「……イヤ俺はサイキョウだ」

「私に中々會いにこなかった癖に。恥ずかしがって」

「……」

「あ、黙って逃げた」

綺麗な聲が頭に心地良く響く。

こんな生意気で、強いのにどこか脆く見えて、霧生のことをよく理解し、顔が可いだけのがやけに魅力的に見える。

ユクシアの聲を聞けば聞くほどユクシアのことしか考えられなくなっていく。

「ふふ、顔真っ赤だよ」

どうやら思考退化による神防衛は失敗だ。こいつに喋らせてはいけない。

早い段階でそのことに気づいた霧生はスパンと思考を切り替え、攻めに転じることにした。

ユクシアの言う通り、この勝負は長引かない。

心臓の高鳴りは抑えられないし、《過域》のせいもあるが溫の上昇が止まらない。

悠長に話をしている暇など無く、急がなければ薬の効果による理喪失が近づいて來る一方だ。

ユクシアは依然平常心を保ったまま。

それだけユクシアの理が強いのだろうか。

においてはユクシアに──

ッ!?

今、何を考えようとした?

の気が引いていくことで、一気に現実へと引き戻される。

ユクシアはこちらの心が掌握しているかのように終始ニヤニヤしていた。

意地でも焦りは表に出さない。

霧生は杯を空けて誤魔化すことにした。

「だぁァッ……!」

この際多無理があっても関係ない。グイと煽り、無理矢理仕切り直したを演出する。

ユクシアは何も言わずそのままグラスを空けた。

は周りの目など一切気にせずに霧生との勝負を楽しんでいる。

一方霧生は本調子が出せずにいた。それは相手がユクシアだからだ。薬を飲まずとも彼が前に立てば、あらゆるが思いもよらぬ方向に舵を切ったりしてしまう。

それが勝負に良いと、これまでは俯瞰で考えていたが、対面してみるとなんともしがたい。

それにしても霧生とユクシアに的な差は無いはずなのに、薬の効能に差があり過ぎる。

もう耐が付き始めている、という説はいくらユクシアでも現実味が無い。酒に対して抗を得るのは、常用でもしない限りはあり得ないからだ。

仮に、もしそうだとしたら霧生は別の勝ち筋を探さねばならなくなるだろう。

「……お前、本當に薬効いてるのか?」

不安になった霧生は尋ねてみた。

「どうだろう、ただこれを飲んだ所で……霧生に対する想いはあんまり変わらないみたい」

ユクシアは視線を逸らし、ほんのしだけ恥ずかしそうに言った。

「……ッ!?」

想定を超える最悪のケース。

源的に、薬が意味を為していないというパターンである。

それがブラフにしても、今の言葉は霧生のハートを掠めた。

霧生は心臓を押さえ、その場にうずくまる。手放されたグラスはとっさに付與された《強度》によって、割れずに付近を転がった。

「ハァ……ハァ……ぐぅ……、ぅぅぅおおおお!」

たかが酒。たかが薬。

こんなもので勝利の念が崩れて良いはずがない。

しかし分かった。認めよう。

分が悪かったのが自分であることと、己の分析に見誤りがあったことを認める。

どうやら霧生は事への耐が限りなく低いらしい。ユクシアのが別のものであったとしても、考えてること自が苦手だ。

「おあぁァァァァ!?」

霧生は自分で《強度》を付與した床に頭を打ち付けた。

ドン!

部屋に大きな振が響き渡り、霧生は転がっていくグラスを手に摑んで立ち上がった。

すかさず薬を注ぎに來た唯華から新しいボトルを奪い取り、それを傾けて口の中に注ぎ込んでいく。

飲み干すのには6秒の時間を用した。

「頭わる……」

ギャラリーの中からそんな聲が聞こえてきた。

「私にもボトルを」

「え、あっ、あの、々お待ちを!」

対抗するユクシアのため、唯華がキュリオにアイコンタクトすると、彼は猛スピードでどこかに走っていった。

しかし彼が戻る頃には勝負はついているだろう。

意識はハッキリとしているのに、グルグルと目が回っている。なのにその中心にユクシアがいる。

流石に一度の摂取が多すぎた。

霧生は力無く席に著く。

勝負でこれ程までに追い込まれるのはエルナスとのじゃんけん以來だ。

しかし勝つ。土壇場でも敗北など頭に無い。

ユクシア、俺はお前に勝つためならお前を傷つけることだって厭わないぜ。

できれば手をばしたくなかった最終手段に手をつける。

「それで、ユクって呼んでくれないの?」

煽ってくるユクシアに対し、霧生はふうと諦念をじさせる溜息を吐いた。

「……ユクシア。お前を尊敬している。俺は……勝利に心を痛めるお前のおかげで変われたんだ」

「……」

今度はユクシアが口を噤む。

何か話そうと口を開いたが、遅い。霧生は逆転の一手に打って出る。

これを克服しない限りは、これから先、お前が俺から勝利をもぎ取ることはないぞ。

俺はお前がどんな相手と勝負しても心から楽しめるようになってしい。

「でも……勝てないな……。お前に勝つビジョンが、まるで見えない……。本當はこの前、再會した時からそうだったんだ」

突き落とす。否、突き刺す。

意気揚々と言葉を返そうとしていたユクシアの表がピタリと固まり、その後ゆっくりと青ざめていく。

そして顔が絶に歪んでいき、取り繕うとしてもそれは敵わない。

「ぅ……、あぁ……、あああああ……っあああああ…………」

悲鳴にもならない聲を上げ、ユクシアは機にしがみつくようにして倒れ伏した。

心臓にナイフを刺されたかのような鋭い痛みが走る。しかしこれはユクシアのためを思ってのこと、引いては霧生の勝利に必要なことだ。

霧生は震える手を腕の下に隠し、ユクシアを見下し続ける。

の手から離れていたグラスが地に落ち、パリンと割れた。

ユクシアはだらりとよろめきながら、を小さく起こす。

目には溢れ出しそうなほど涙が溜まり、今にも泣き出しそうなのを必死にこらえている。

「……キ……キリューだけは……、キリューだけは、そんなこと……言わないと思ってた。

だ、だから私……ずっと……」

ふるふると震えるをきゅっと噛む。

ユクシアが言葉を止めると、ざわついていた辺りにも靜寂が訪れる。

霧生には何度も頭にハンマーを振り下ろされるような衝撃と痛みが繰り返されていた。

耐えろ、耐えろ、耐えろ。

俺が勝つ。俺が勝つんだ。突き通すためだ。しかし。

──本當に合ってるか?

勝利のため、相手のためとはいえ、深く傷つけると分かりきっている行為は。

「ち、違う! ユクシア、俺は!」

ガタンと席から立ち上がり、霧生は聲を荒らげた。

覇気の失せた顔。まるで生気のじられない瞳。

そんな姿のまま──ユクシアはペロっと舌を見せた。

「……うん、分かってるよ」

──あ、こいつ。

魔力が迸った。

霧生は目を見開き、辺りを見回す。

どういう訳か、膨大な魔力連絡が行われている。

「はぁ!? 待て、噓だろ!?」

そしてその自的に消費された魔力が、自傷魔の発に力を貸した。

馬鹿な。敗北をじた……? この俺が!?

否、これは誤作だ。決して敗北など無かった。俺はまだ負けてない。

幸いにも本來これが起こる時と違うのは、霧生が萬全であるということ。

ならば、耐えるッ……!

霧生は右足を後ろに下げて踏ん張りを効かせ、クロスした両手を前にバッと出す。

《抵抗》の使用は止。け流す……のは無理だ。

耐え切れる、か? いける。耐え切らねば負けだ。

その様子を見て一瞬怪訝な顔をしたユクシアだが、すぐに何が起きているのか理解し、笑みを向けてきた。

「"挑戦"はいつでも」

霧生周辺の空間がグニャリと歪んでいく。

自分でも意味の分からないくらい強い圧力が、抗う霧生の姿勢を捻じ曲げていき、《強度》が付與された床に右足が食い込んでいく。

ユクシアは背後の生徒達に手振りをし、避難させていた。

過去一のやつが來る。

「オォおおおおおおおおッッ! う、うぐあああああああああ!?!?」

そして発が訪れた。

バシュン。音速を超えた衝震。

姿勢は全く意味を為さず、霧生は吹き飛んだ。

ドゴォォン!

柱を突き砕いてぜた霧生は、結界の施された宮殿の壁にぶち當たることで推進力を失った。

「……ぐ、があ……」

崩れ落ちるボロボロの霧生。

何なんだこの魔は。訳が分からない。

を起こそうとしても無駄だった。

の骨は砕け、腱という腱が切れている。

《抵抗》で補強すれば立ち上がれるかもしれないが、ルール違反になる。

霞む視界に、遠方のユクシアが近づいてくるのが映っていた。

「私の勝ち」

余程言いたかったのだろう、まだ遠いうちからユクシアは宣言した。

霧生は悔しさにジタバタすることしかできない。

「うううあああ! あがぁぁぁあ!」

噓泣きも負けだろ!

そう聲を上げたいが、呼吸もままならない今、無理矢理手足を振り回して表現するのみに留まってしまう。

「言い訳言い訳」

目の前まで來たユクシアが優越に浸りきった顔で霧生を見下ろす。

「あぐああァァァ……!」

霧生は悔しさにを捩りながらけないび聲を上げるしかなかった。

「ふふ、うふふふふ」

足をパタパタと小躍りさせて笑うユクシア。

目をぎゅっと瞑ると、全の力が抜けていく。

「ふふふ。やっぱりキリューって頭おかしいよ」

その言葉を最後に、霧生はあえ無く意識を手放した。

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