《【書籍化】學園無雙の勝利中毒者 ─世界最強の『勝ち観』で學園の天才たちを─分からせる─【コミカライズ決定!】》第14話 才者リューナの慢心

《天上宮殿》老練の間。

そこは草木が生い茂り、一面に田畑が広がる隔離空間。

この場所の時間は外とは違ってやや緩やかに流れており、大規模な魔で編み出された疑似太が夕暮れを過ぎても辺りを明るく照らす。

以前のように、霧生は金の痕跡を辿って歩いていく。畦道を抜け、多種多様な家屋を通り過ぎ、その先に続く丘を見上げながら進む。

上の方から濃い魔力の混じった冷たい風が勢い良く吹き抜けてきた。

二人の存在に強く突き刺さる。ユクシアはともかく、リューナのそれには驚きを隠せない。

──もうこの域まで來たか。

ユクシアの手に掛かれば、リューナのめられた才能などすぐに開花してしまうのは分かっていた。

が想定外の長を遂げることは想定である。

やがて二人の姿が見えてくると、霧生の接近に気づいていたユクシアがこちらを見て嬉しそうに手を振ってくる。

リューナは草原の上に佇み、式を維持しながら、靜かに瞑想していた。

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魔力放出維持の訓練だろう。

魔力を込めながらを発させず、魔力連絡への認識を高めるのと同時に、その制力を鍛える。霧生がリューナに施したものと似ている。

異なる點はそれに掛ける時間だ。

他の訓練によって辺りが荒んでいる形跡は無いので、一どれほどの時間をこうしているのか分からない。

そして中々ハードな訓練にも関わらず、リューナに呼吸のれは無く、微だにもしていなかった。

「…………」

にんまりと笑みを浮かべ、自慢げにリューナへと視線を流すユクシア。

リューナは集中しきっていて、霧生が気配を消していることもあるが、接近に気づく様子は微塵もない。

レイラに比べて研鑽に向ける意識が高すぎる。

霧生は思わず苦笑いを浮かべてしまった。

これこそ埋めようの無い差。

いくらレイラの方が《技能》における歴が長いと言っても、これでは勝ちの目が薄くなる一方である。

しかし今の霧生に出來ることは思いつかない。それもあって二人がどうしているのか見に來たのだ。

──いや、待てよ!?

突如、脳裏に閃きが走った霧生はその苦笑いに邪気を持たせた。

即座に霧生が何をしようとしているか察したユクシアが、し眉の両端を釣り上げて口元に人差し指を持ってくる。

その制止には取り合わず、リューナの背後に立った霧生は、

「ハァッ!!!」

と、全力の《気當たり》をぶつけた。

「あぅ!?」

ビクンとを震わせ、驚いたあまりその場にへたり込んでしまうリューナ。その後恐る恐る振り向いて、彼は安堵なのか呆れなのか分からない溜息を吐いた。

ユクシアはムッとした顔をしている。

「邪魔しに來たの、キリュー」

「いかにも」

腕を組み、全く悪びれずに霧生は宣言する。

リューナの方が早く長していくのなら、その長を止めればいい。邪魔をするのだ。そう、せめて霧生が関わる間だけでも。

それが霧生の閃きであった。

「嫌いになるよ」

冷ややかにそう言われ、霧生はしドキッとする。しかし非難されるいわれなどないと思い直す。

レイラが休んでいるのにリューナは修行をしているなんて、いくらなんでもずるすぎるだろう。逆なら良いにしても。

そしてこれも立派な勝利的策略なのである。

レイラがリューナに、引いては霧生がユクシアに勝つために、しでも出來ることがあるならそれを辭すことは無い。

「あァーん? なれるもんならなってみやがれ」

くいくいと指をかして煽ってみると、ユクシアは一層ご立腹の様子だ。

「なんでそんな酷いこと言うの。なってしくない癖に」

「なれない癖に」

「キリューのあほ」

ピリと彼から鋭い《気當たり》が発せられ、霧生はサッと腰の姿亡き刀に手を添える。ユクシアもまた、細剣の柄に親指を當てていた。

霧生の「邪魔」を防ぐためにはこうするしかないだろう。

つまり勝負、勝負だ。

「泣かす」

「負かす」

差する視線がバチバチと火花を散らす。

その目では霧生の《気當たり》をけて腰を抜かしたリューナが早くも立ち上がっていた。

リューナは2度深呼吸すると──パシン、霧生の頭を叩く。

「久しぶりね、霧生。やるなら今日の訓練が終わってからにしてくれない?」

「俺は邪魔しに來たん……ちょっと待て、なんで俺だけ叩いた。こいつも叩けよ!」

視線をユクシアから離さないよう努めていたが、構えを解いてリューナを見る。同時にビシッとユクシアを指差した。

「なんでそうなるの。アンタが悪いんじゃない」

「意味が分からねぇ! こいつも俺の邪魔をしたんだから不公平だろ!」

「子どもか。意味が分からないのはこっちの方よ」

またパシンと後頭部を叩かれた瞬間、霧生の脳に再起がかかった。

深く息を吐き出すことで冷靜さを取り戻す。

順を辿ると確かに意味不明な主張。どうもユクシアが近くにいると調子が狂ってしまう。

「まあ落ち著けよ、ユクシア」

ユクシアが肩を竦めて構えを解くと、霧生は改めてリューナに向き直った。

の周囲を歩き回り、頭の先から足の先に至るまでじっくりと観察を始める。

「……なるほど、へぇ?」

がどのような長を遂げているかはこうして見るだけで分かる。

學時、リューナは魔のみの研鑽を志していたが、ここでは武もある程度仕込まれているようだ。

「……ほう」

「どう? 私のリューナは」

「まあ、ぼちぼちやるみたいだが、俺のレイラの方が上だな」

こればっかりは虛勢である。自信を持てず、そのためか目を合わせることは憚(はばか)られた。

ユクシアが手をばし、頭をでようとしてきたのでそれを無造作に払う。

一方で、レイラという言葉に反応したリューナは眉を寄せていた。

「そういえばレイラをめてないでしょうね」

「俺がそんなことすると思うか?」

「だってあなた、レイラにだけなぜか厳しいじゃない。……たまにメッセージ送ってるんだけど、返信が遅いのよね。前はいつでもすぐに返ってきたのに」

それは四六時中霧生と過ごしているためである。

それはそうと、意外だった。霧生の知らない所で二人が連絡を取り合っていることもそうだが、レイラが今どんな生活を送っているのかをリューナは知らないようだ。

そんな報は、大方の狀況を察しているユクシアが伝えているか、地上と宮殿を行き來するレナーテがすっかり言いらしているものだとばかり思っていた。

何より、リューナの様子からして未だに本を隠し通しているらしいレイラにも驚きである。

「そりゃあそうだ。打倒リューナに向けて猛特訓させてるからな。端末イジってる時間なんかある訳ない」

レイラの本についてはれず、霧生はリューナにその事実を告げた。

「……レイラがそんなことを? また無理矢理やらせてるんじゃないの」

「まあその節はある」

そしてそれこそ悩みの種だ。

「でしょうね……やめなさいよ。あの子はそういうガラじゃないんだから」

「いいや、やめない。これは俺とあいつの勝負でもある」

自分を信じさせるだけの熱意を霧生が示せるか、レイラが意地を貫き続けるか。

やめ時は見極められるはずだ。霧生も、レイラも。

「あのね、レイラは気が弱いんだから無理に」

「無駄だよリューナ。馬鹿なキリューに何かをやめさせたいなら、負かすしかない」

食い下がるリューナが言い切る前に、ユクシアが助言を挾んだ。

その通りだと頷く。例えば霧生に向けられた意見がその者の絶対的な信條に基づくものなら一考の余地はある。

リューナのそれは哀れみにしかじられなかった。彼にとっては友なのだろうが。

「……それもそうね」

リューナは納得したように目をつむる。

「じゃあ霧生、ちょっと私と立ち合ってくれない?」

そして開いた目が、霧生を捉えた。

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