《【書籍化】學園無雙の勝利中毒者 ─世界最強の『勝ち観』で學園の天才たちを─分からせる─【コミカライズ決定!】》第15話 勝ったのにクソ雑魚みたいな捨て臺詞

霧生が目を丸くし、隣でユクシアが微笑を浮かべる。

「もし私が一本でも取れたら、レイラが嫌がることはやめてくれる?」

爛々とした瞳でリューナは言った。

霧生はその目を覗き込み、彼の真意を測ってみる。

この挑戦はレイラを思ってのことなのか、それとも──

──レイラを想って、ではないな。

霧生はリューナのその挑戦が全く違うところから來ていることを本能的に悟る。

これは──才の自覚だ。

圧倒的多數を凌駕する才能を、ユクシアとの研鑽でもう自覚したのだ。

他者との関わりがないこの環境で、おそらくひとりでに。

そんな彼は、自分の可能を試したくて試したくて仕方がないのだろう。

才ある者なら必ずと言っていい程陥る癥狀。あるいは、通るべき道である。

霧生が楽しみにしていたことでもあるが、こうも早く至るとは思わなかった。

しかし狀況的に霧生はそれを素直にれることができなかった。

なぜならユクシアもまた、リューナがそうなることを楽しみにしていたはずだからだ。

霧生は無言でうずきを抑え、今にも燃え上がりそうな勝負心を鎮火させようとしていた。

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的にもじるリューナの熱い視線。霧生が黙り込んでも、彼は一切目を逸らさない。

「…………」

挑戦されている以上決定権は霧生にあるが、ユクシアも熱意を持ってリューナを鍛えており、この機會をのままに奪っていいのかは慎重に考えなければならない。

ユクシアが関わっていなければ、霧生もこの狀況をここまで深刻に捉えたりはしなかっただろう。

なにせ彼は挑戦に飢えている。いつ勝手に飢え死にするか心配になる程に。

「いいでしょ、ユクシア」

先に許可を求めたのはリューナだった。

するとユクシアは躊躇うことなくコクリと頷いてみせた。

「本當にいいのか?」

存外気に留める様子のないユクシアに尋ねる。

の機會を奪うこともそうであるが、霧生はリューナの長を妨げることもまだ念頭に置いている。

その問いには「潰すつもりでかかってもいいのか?」という意味も含まれていた。

「いいよ」

その問いにも躊躇なく承知を示すユクシア。霧生は口元を吊り上げた。

「あとから文句言ってくるなよ」

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がそう言うなら遠慮は無用、リューナの自信を完なきまでに打ち砕く。

ここでどれだけの差があるかを思い知らせてやれば、彼の止めどない長に多の歯止めを利かせることができるだろう。

ユクシアがこの勝負に前向きな態度でいるのには疑問が殘るが、考えてみれば、彼の元にいるリューナは絶的なまでの力量差をじ取っている。だからこそ彼を侮って簡単に挑んだりはしないのかもしれない。

つまり、ユクシアにとっての機會はまだまだ先の話なのだ。

言い換えれば、ユクシアに比べて霧生は劣ると、リューナにそう認識されているということである。

「ふふふ、たった2週間で侮られたものだな……。素晴らしい。けて立とう」

すでにウォームアップを始めているリューナに言う。

「隨分と自信ありげね。まだ全然敵わないことは分かってるけど、それでも私は一本取るだけでいいのよ?」

甘く見られているようにじて、それが不服なのだろう。リューナは眉を寄せて勝利の條件を確かめてきた。

「ふむ」

言われてみると、確かにこれでは勝負にならない。

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がどれだけ目まぐるしい長を遂げていたとしても、霧生から一本取る、というのはあまりにも厳しい條件である。

それではつまらないし、リューナの自尊心に傷を付けるためにも、霧生は條件をさらに緩める事にした。

「なら俺をこの場所から一歩でもかせたらお前の勝ち、ってことにしようか」

「……言ってくれるわね。後悔することになるわよ」

100點満點の返答に、霧生の脳に歓喜のファンファーレが鳴り響いた。

やはり挑戦者はこうでなければならない。こう向こう見ずで、自分の勝利に確信を持っていなければ。

「俺は嬉しい! こんなにも早くお前が調子に乗ってくれて! さあ存分に準備しろ、そうしたらいつでもかかってこい!」

魔力の連絡を周囲に行い、散りばめられたそれらをに引き戻し、覚に問題が無いことを確かめるリューナ。

「もう十分。それじゃあ行くわよ!」

ダンと、彼は地面を蹴り出した。

宙に放り出されたそのは霧生へと向かってくるのではなく、大きく後退している。

才能に基づき、魔を主に置いているリューナは距離を取ることを選んだ。

そして霧生が一歩もけないのを良いことに、彼にとって最適な間合いを悠々と空けることが出來た。

リューナの膨大な魔力が辺りに広がる。彼が空けた30メートル程の距離を経ても、全く褪せない濃さの魔力が霧生のれる。

魔力はリューナの手によって自在に流していた。

これによって式への魔力連絡を瞬間的に行える。いくら使っても余りある魔力総量を持つ者の特権的戦略であった。

「《星降る黃昏(メ・ザ)》」

丘の上。し高い位置から霧生に向けた手を翳し、リューナはおそらく獨自言語で詠唱式を展開した。

短的な詠唱から魔力連絡を行うまでの僅かな時間。そこへ、リューナが気が付かないくらいの弱さで《気當たり》を差し込んだ。

遅れて式に対して怒濤の勢いで魔力連絡が行われる。

しかし、魔は発しない。

「……ッ!?」

霧生の《気當たり》により、魔力作に誤差が生じたのだ。

を発させるために必要な式とは、ガラスのように繊細なもの。発させるにはタイミング、量、速度など全てにおいて作が必要で、魔力がれるなど持っての他である。

最も正確な魔力作が必要な瞬間に《気當たり》を差し込めば、それが僅かなものであっても些細なブレが生まれてしまう。

そして集中しているからこそ、僅かな《気當たり》を経験の淺いリューナは知できない。

練度が低ければ魔の発などこうして簡単に妨げることができるのだ。

「だーっはっはっは!!」

リューナの驚いた顔を見て、霧生は堪えきれず高笑いした。

戦闘中の魔展開はリューナが思っているより難度が高い。

「これならどう!?」

リューナの判斷は早い。

《気當たり》には気づかなかったが、霧生に何かされたのだと瞬時に察したのだろう。

は魔力を凝させ、今度は多種多様な陣を形した。

數にして5つ。何をされたか分かっていないのに、良い判斷である。

紋様式は、詠唱式と比べて魔力連絡のタイミングを見極めるのが非常に難しいのだ。

しかしそれも無駄。

霧生はリューナが連続で行った魔力連絡全てに《気當たり》をぶつけ、魔を不発にさせた。

「どうして……!?」

さらに表を驚愕に染めるリューナ。

外に放出した魔力の機微、彼の僅かな挙に目を凝らせば、結局魔力連絡の阻害は容易なのである。

難しいと言ってもそれは客観的な話で、長年の研鑽を積んだ霧生にとっては造作もないことだった。

「どうしてなのッ!? いつもは出來るのにッ……!」

今の力量では當然だが、二度目の《気當たり》にも気づかなかったため、彼は不発の原因が自分にあると思ったのか、両手を見つめて嘆いた。

「がぁーっはははははははは!!」

おそらく発すれば目を瞠るようなものなのだろうが、霧生にそれを見てやるつもりはなかった。

けてみたい気持ちは大いにあるが、それでは手ぬるいのだ。リューナの自信を打ち砕くには足りない。

「魔も使えないのになんでそんなに遠くにいるんだァ!? リューナさんよォ!?」

顔面を蒼白にして焦るリューナを、煽りに煽る。

これには流石のユクシアもしらっとした目を向けていた。

「もしかして俺が怖いのか!? 本能的に畏怖してるから攻撃ができないんじゃないか!?」

高笑い紛れにび散らす霧生。

顔を上げたリューナはキッとした目でこちらを睨んだ。勿論、その目に畏怖などない。

ユクシアにけない姿を見せるわけにはいかないと、そう言わんばかりに魔を早々に諦めたリューナは構えをとった。

そうして再び地を蹴ると、今度は勢い良く距離を詰めてくる。

グンと土に足がめり込む程踏み込むと、背面から霧生の首元目掛けて手刀を這わせた。

しかし、またしても彼の攻撃が屆くことはなかった。

新たにリューナを阻んだのは霧生が全力で纏う強固な《抵抗》。それに強く打ち込んで、ダメージをけたのはリューナの方であった。

「っツゥ……!」

攻撃が通らないと知っても、リューナは何度も踏み込んでは打撃を放ってくる。

霧生は仁王立ちのままそれをけ続けた。そうしてこれ以上やるとリューナの手足のダメージが灑落にならなくなってくるという所でパシンと彼の後頭部に平手を打つ。

「あっ……!」

カクンと、一気に力が抜けたようにその場に倒れ伏すリューナ。

膝を立て、なんとか再び立ち上がろうとするが、またよろめいて地に伏せる。

それを見下ろし、霧生は言い放った。

砕。文句のつけようのない完全勝利」

「あほ」

決著を見て近づいてきたのはユクシアだ。

「文句は言わない約束だろ?」

と言ったが、彼の言いたいことは分かっていた。

徹底的にやると言っても、彼に実力を発揮させないのはユクシアとしても面白くないだろう。ユクシアはリューナの魔を全てけた上で、それを跳ね返してしかったのだ。

「でも、キリューだから仕方ないか」

しばらくムスッとしていたユクシアは小さく息を吐いて言う。

霧生は倒れ伏すリューナに目をやった。

軽い脳震盪を起こしているだけなので、そろそろ立ち上がってこないとおかしい。

──ちょっとやりすぎたか……?

そう思ってリューナに何か聲を掛けようすると、彼はゆっくりと立ち上がった。

は小刻みに震え、呼吸もれている。表を隠す薄茶の髪を、リューナはかき上げた。

「!」

その目を見て、霧生は驚いた。

ほんのりと涙が浮かぶ瞳からは、霧生との力量差に対する絶や失意などは全くじられず、ただ強さへの渇のみが爛々と燈っていたのだ。

「……完敗よ。……まだまだ敵わないわね」

リューナは小さくそう口にする。

「どう? 私のリューナは」

改めてユクシアが問うてきた。

今度は虛勢も張れない。ここまで打ち砕いて、自信を喪失するどころか、その逆を行ったのだ。

そしてユクシアもこうなることが分かっていたのだ。霧生がどんな方法でリューナを打ち砕こうとしても、こうした結果になると。

「ぐぬぬぬぬぬ……」

霧生は歯を食いしばる。こうなると認めざるを得なかった。

現狀においてはリューナとユクシアに、師弟揃って遅れをとっている。現狀においては、だが。

「凄いでしょ。リューナは」

ユクシアがそっと彼の頭をでると、リューナは袖でゴシゴシと目元をった。

「ごめんなさいユクシア。私、まだ全然駄目みたい」

「ううん、リューナは十分私の期待に応えてくれてる。焦らなくていいよ」

ユクシアはリューナの背中にそっと手をれ、優しくも力強く勵ました。

二人の良き師弟関係を目の當たりにして、霧生に衝撃が走る。

「あ、ああああ……ああああああああぁッ!」

一つの事実に気づき、霧生は膝から崩れ落ちてしまった。

霧生は懺悔するよう地面に何度も額を押し付けた。

「クソッ! クソッ! 俺は馬鹿かよッ!」

──褒めてない! 俺はあいつを褒めてないんだ!

頭に浮かぶのは食事の時間以外はいつも不機嫌そうなレイラのことだ。

霧生は彼を叱咤激勵するばかりで、まともに褒めたことなどほとんど、いや全く無かった。

の褒めるべき點が見つからないのも問題であるが、それを見い出せない霧生も問題である。

そもそも、レイラがしでも長すれば霧生は飛び上がりたい程嬉しくなるのに、それを言語化して伝えたことがないのだ。

「い、いきなりどうしたのよ」

「いつもの発作だから大丈夫。放っておいてあげて」

「ああ、そっか……」

好き勝手のたまう二人には文句を言う気にもなれない。むしろ気づかせてくれたことに謝せねばならなかった。

そしてこんな所で無駄に嘆いている場合でもないことに気づく。

ガバっと頭を上げ、霧生は老練の間の出口へ向けて駆け出した。

しかし思い立って振り返り、既に遠くに見えるユクシアとリューナに向かって喚き散らすのだった。

「お前らぁ! 覚えてろよォ!」

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