《ひねくれ領主の幸福譚 格が悪くても辺境開拓できますうぅ!【書籍化】》第13話 ジャガイモ収穫と実食
ロードベルク王國と西のランセル王國を隔てるベゼル大森林は幅も長さも広大だが、2國の國境の全てを覆っているわけではない。
南に進むほどに森林の幅は細くなり、やがて小さな森や低い山が點在する地帯になる。そうした場所は軍が通ることも十分に可能で、ここ數年は関係が悪化している両國の紛爭の場にもなっていた。
エドガーの住む村は、そんな場所にほど近い地點にあった。ベゼル大森林の南部の端を切り開くように作られた小さな村は、ある日、森を無理やり越えてきたランセル王國軍の襲撃をけた。
農民たちも抵抗するが、相手は正規軍だ。やがて実力の差で押し切られ、男は殺され子どもは売られるのは必至だった。
そんな中で、村長である父に命じられて、一部の村民たちを連れてエドガーは村を出した。
ベゼル大森林に沿うように歩いて北へ移する日々。ほとんど著の著のままで村から逃げたエドガーたち難民は、力のないものから力盡きていった。
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とはいえ、數十人もの難民をけれてくれる街も村もありはしない。どの場所でもほとんど門前払いのようなかたちで追い払われたエドガーたちは、ついに王國西部の北の端、レトヴィクと呼ばれる街まで流れ著くのだった。
・・・・・
「はーい、ついにアールクヴィスト領初の作の収穫式でーす」
この居住地で最初に開墾した自の畑の前に領民たちを集めたノエインは、上機嫌でそう言った。
ユーリたちがこの領に來て2か月、ノエインとマチルダが森にったときから數えるとおよそ3か月が経ち、最初に植えたジャガイモを収穫する日がやって來たのだ。
「おお、めでたいな」
「なんだよー、もっと盛り上がってくれてもいいじゃないか。記念すべき日だよ?」
「ノエイン様、私は心から喜んでいます。今日はアールクヴィスト領の歴史に殘る日です」
「ありがとうマチルダ。2人で森にってから3か月、ついにこの日が來たよ。喜ばしいねえ」
「はい、ノエイン様。本當に素晴らしいことです」
ユーリたちそっちのけで、ノエインはマチルダと慨深げに話し始めてしまった。
確かにめでたいことは間違いないし、領民として祝福する気持ちもあるが、収穫するのはノエイン所有の畑である。
ユーリたち自の畑ならもひとしおだろうが、今日のこのイベントについてはノエインやマチルダと同じだけ喜んで盛り上がるのは無理があるだろう。
ジャガイモという作が土の中でどのようにっているのか自は興味があるので、前口上はいいからとっとと収穫して見せてくれという気持ちもあった。
「めでたいとは思ってるし、ちゃんと祝ってやるから、早く掘り出してくれよ」
「分かったよ。じゃあちゃんとよく見ててよ?」
そう言いながら、ノエインは珍しくゴーレムではなく自の手で土を掘り起こす。
取り除かれた土の下からは、ゴロゴロとえたジャガイモがいくつも顔を出した。
周囲の土をあらかた取り除き、の元を摑んで引き抜くと、7、8個ほどのジャガイモがそこにぶら下がっている。
ノエインは慨深げにそれを見つめると、
「……うひひっ」
と妙な笑い聲を上げた。
「もっとまともな嘆の言葉はねえのかよ」
「喜び方くらい自由にさせてよ」
「まあ、好きにすりゃいいが……こんな風に生るんだな。植えたときの緑の塊とは隨分違うな」
芽がびた緑の塊だったときはとても口にれたくない見た目だったが、これなら食としてけれられる。
「これを日に當てておくと、が緑に変わって芽が出て、植えるのに適した狀態になるんだよ。逆に日に置いておけば、結構長く保存できるらしいよ?」
「そうか。なんというか……でかい豆ってじだな」
「見た目はそうだね。だけど実際はが栄養を蓄えて太ったような作らしいよ」
がこんな塊のようになる野菜など知らなかったが、植えたノエインが言うならそうなのだろう。
「これだけ簡単に増えてパンの代わりに主食にもなるんなら、『救國の作』なんて呼ばれるのも分かるかもな」
「でしょ? これをどんどん増やしていけば、うちの領に関しては飢の心配はなくなるね。にしても嬉しいなあ。アールクヴィスト領で最初に獲れた作だよ」
そう言いながらうっとりした顔でジャガイモの土をはらうノエイン。まるで自分の寶を見つめる子どもだ。
ひねくれた奴だが、こうして見ると年相応の可げもあるじゃないか、とユーリは思った。口には出さないが。
収穫式とやらを終えてユーリたちが自分の畑の作業に戻ってからも、ノエインは「うひっ」「うほおっ」などと変な聲を上げながら育ったジャガイモの収穫をマチルダと一緒に続けていた。
・・・・・
夜には、獲れたジャガイモを実際に食べてみようとノエインが提案してくる。
「食い方は普通の野菜と同じでいいんでさあ?」
「らしいよ。この芽の部分だけは食べたらお腹を壊したりするから取り除いて、後は茹でるなり焼くなりして熱を通せばいいんだってさ」
ナイフを片手に尋ねるペンスに、ノエインはそう答えた。
「分かりやした。バート、マイ、手伝ってくれ」
「はい」
「ええ」
3人は手際よくジャガイモの芽取りを終えると、ノエインの「次はこれを鍋で茹でるんだよ」という指示通り、水を張った鍋にジャガイモを放り込んでいった。
後は焚き火の上に鍋を置き、お湯が沸いてジャガイモが茹でられるのを待つだけらしい。
今回実食するジャガイモは1人あたり2つ、全部で14個だ。殘りの大半は次の作付けに使う。
ほどよいタイミング……といってもノエインも適切な調理時間までは知らなかったので勘だが、十分に中まで熱が通ったと思われるタイミングでジャガイモを引き上げてそれぞれの皿に盛り、真ん中からカットする。
「おお、味そうじゃないか」
「でしょ? 味しそうでしょ?」
「つって、お前も食ったことはないんだろうが」
「あはは、まあね」
かったジャガイモは熱が通ってホクホクとらかくなり、斷面からはどことなく香ばしい匂いとともに湯気が上ってきた。
「ノエイン様、こちらも焼きあがりました」
そう言いながらマチルダは、鉄板の上でジュウジュウと音を立てるグラトニーラビットのを人數分に切り分けている。
ジャガイモだけではさすがに味気ないし量も足りないだろうということで、ノエインがマチルダに焼かせていたものだ。
「ありがとうマチルダ。じゃあ早速食べよう」
それぞれの皿にジャガイモとグラトニーラビットの、そしてレトヴィクで買い置きしていた野菜の酢漬けが盛られる。
「まずはノエイン様からどうぞ」
ノエインの橫に座ったマチルダが言うと、ノエインは頷きながらジャガイモに手をばす。
初収穫を祝うために、贅沢にも高価な胡椒が振られた茹でジャガイモにかぶりついた。
「……ふふっ。んふふっ」
「また気悪い聲出してないで、想を言ったらどうだ?」
「味しいよ。すごい。なんていうか……ホカホカしてギッシリしてる。食べたことない覚だ。皆も食べてみてよ」
そう呼びかけるノエインに促されて、各々が自分の皿のジャガイモに手を出した。
「初めて食べる覚ですが、とても味しいです、ノエイン様」
「……確かに面白い食だな」
「パンともとも違いまさあ」
「へい、知らねえ味ですが味えです」
それぞれ言葉は様々だが、総じて「味い」という想だった。
「それに、食べごたえもあるし腹持ちもよさそうですよね」
バートの言葉通り、中がぎっしりと詰まっているので、しっかりと食べた気分になれる。主食にも十分なり得るというのも納得だ。
「茹でる以外にも調理方法はあるのかしら」
呟くように言ったマイに、ノエインが答えた。
「僕が読んだ南方の書では、こうして茹でたのをペースト狀に潰して食べたりもするらしいよ」
「へえ、丸ごと齧るよりも食べやすそうですね。そこに何かをれても味しそう」
「ああ、いいねそれ。今度やってみよう。後は……生のまま薄く切って、それを油でカリカリに揚げるような料理もあるんだって」
酒と合いそうだな、とその話を聞いたユーリは思った。
ジャガイモを味わい、調理方法や今後の栽培計畫などの話に興じながら夜は過ぎていく。
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