《《書籍化&コミカライズ決定!》レベルの概念がない世界で、俺だけが【全自レベルアップ】スキルで一秒ごとに強くなる 〜今の俺にとっては、一秒前の俺でさえただのザコ〜》貧乏人、Sランク冒険者を助ける

あ……ありのままいま起こったことを話すぞ。

無我夢中でブラックタイガーをぶん毆ったら、どういうわけか吹っ飛んでいった。

まるで超威力の大技でも喰らったかのように。

まるで超強力な魔法でも喰らったかのように。

……でも、ちゃんちゃらおかしいよな。

戦闘経験のない俺のパンチなんて、たかが知れているはずなのに。

「な……なんだなんだ?」

「あんた……いまなにやった……?」

意識の殘った冒険者たちが口々にそう呟いてくる。

正直俺が聞きたいくらいだが――いまは、それを考えてる場合じゃないな。

「だ……大丈夫ですか!?」

さっきの冒険者のもとへ、俺は急いで走り寄る。

あの様子を見るに、明らかに重傷だったからな。早急な手當てが必要だろう。

「う……ぁ……」

実際にも、冒険者は意識朦朧としている様子。

このままではあと何分と持たないだろう。

「失禮します……!」

俺は懐からエリクサーを取り出すと、そのままの口に流し込んだ。ゆっくり回復するポーションとは違って、エリクサーには即効があり――

これを飲めばきっと、即座に回復するはずだ。

「う……」

果たして冒険者はうっすらと目を開け……抱きかかえている俺と目が合った。

「あ……あなたは……?」

「よかった……。目覚めましたか……!」

さすがはエリクサー、といったところか。

そのぶん値段も張り、一般人には手が出せないくらい高級品ではあるのだが……旅立つ直前、ルリスが手渡してくれたのである。このへんはさすが王族だな。

「噓……。いまのは、エリクサーじゃないですか……!?」

狀況を察したらしい冒険者が、慌てたように上半を起こした。

「そうです。あなたが無事で……本當によかった……」

「そ、そんな……私なんかのために申し……」

「ギュアアアアアアアアアアアアアア!」

冒険者の聲は、響いてきたブラックタイガーの聲によってかき消された。

「っ……!」

相変わらず、すさまじいまでの威圧だな。

ド派手に吹き飛んでいったはずだが、ほとんど効いてないというか……

むしろ、怒らせてしまっただけかもしれないな。

――あいつは強い。強すぎる。

このまま普通に戦っても、きっと負けてしまうだろう。

「俺があいつと戦います。あなたはどうか……負傷者にこれを渡していただけませんか?」

そう言いつつ、俺はルリスから渡されたエリクサーをそのまま差し出した。

貰いではあるが、いまはそれどころじゃないしな。これで救える命があるのなら……出し惜しみしている場合じゃない。

「こ、こんなにたくさんのエリクサーを……!? あなた、いったい何者なんですか……!?」

冒険者が恐したように俺を見つめる。

「いえ……ただの貧乏人です」

「へっ? いやいや、それだけは絶対にないと思うんですが……」

びっくりしたように目を見開く冒険者。

いったいなにに驚いているんだろうか。

「ガァァァァァァァァァァァァァァァアア!!」

だが、いまは話し込んでいる場合ではない。

怒りに燃えたブラックタイガーが、刻一刻とこちらに迫ってきている。油を売ってる場合じゃない。

冒険者も、それはわかっているんだろう。エリクサーをけ取りながらも、ぼそりとそう呟いた。

「私も一緒に戦います……と言っても、邪魔ですよね……」

「はい……。ここは役割分擔したほうがいいでしょう」

俺も勝てるとは思っていないからな。

俺が時間を稼いでいる間に、冒険者に負傷者を癒してもらう……。それが一番手っ取り早いだろう。

「……わかりました。歯がゆいですが、ここはお任せします」

そう言いつつ、冒険者は去り際に俺をチラ見した。

「私の名前はエリ・ファーラス。Sランク冒険者です。――あなたの名前も、教えていただけないでしょうか」

「アルバート・ヴァレスタイン。貧乏人です」

「び、貧乏人……。あくまで本を隠すおつもりですね」

まだ納得いっていないのか、やや不満げな表を浮かべるエリ。

……っていうか、いま、エリはなんて言った?

Sランク冒険者?

「それでは、あなたの無事を心より祈っています。――どうか、生きて」

そう言って走り去っていくエリだった。

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