フレーゲルの家を訪問した翌日。

慣れ親しんだ學舎で、苦楽を共にした大事な學友を呼び出し、俺は今──。

「…………騎竜、か」

大きく翼を広げて、咆哮を上げる騎竜を前に凄んでいた。

ヴァルカン帝國移のためとして、ヴァルトルーネ皇が騎竜兵數名と共に手配した騎竜は、人間よりも一回り大きい。

ヴァルカン帝國では騎竜の軍事利用が盛んに行われている。

前世では、騎竜兵とも戦ったが、空中から不規則に素早い移をしてくる騎竜には手こずらされたものだ。

「騎竜だ……すげぇ。俺初めて見たわ……」

目をキラキラと輝かせ、騎竜の方に手をばしているのは、スティアーノ。

おいおい、噛まれるぞ。

俺なら絶対に騎竜に軽々しくれようとは思わない。

彼の安易な行がしだけ心配だが、興味が出てくる気持ちも分かる。

戦爭が起これば、そこら中で騎竜を目撃していたが、平和な今の環境下では、レシュフェルト王國出で、平民であればそれを目にする機會なんてほとんどない。

こんな大きな生が大人しく人を背に乗せている景は、改めて見ても異様な景だ。

「帝國で最も、優秀な統を持つ騎竜です。ヴァルカン帝國では他にも多くの騎竜を飼育しておりますが、この種の騎竜は他とは比べにならないくらいの速力、知能、攻撃を備えているのよ」

ヴァルトルーネ皇は自慢気に語る。

「それにしても、不思議ですね。アルディアはどうして……ヴァルトルーネ皇様とベッタリくっついているんだろう……ね？」

ああ、本當に寒気が。

ヴァルトルーネ皇は俺の真橫に立っている。

そして、その様子をギラギラとした鋭い視線で見つめているのが若干険しい表を浮かべているペトラであった。

「ペトラ、あのな」

「ふんっ！」

言い訳の余地は……なさそうだな。

前世の縁とか言ったところで、信じてはもらえないだろう。俺だってそんなこと言われたら、馬鹿にされたのかと思い、腹を立てそうだし。

この場には、俺の學友が集まっている。

まあ、士學校にまだ通い続けるアディとトレディアはいないが、俺、スティアーノ、ペトラ、アンブロス、ミア、フレーゲルの六人が集まっており。

部外者枠というわけではないが、ヴァルトルーネ皇と彼の連れてきた騎竜兵數名が一堂に會している。

それなりに大所帯。

集合場所が人気の多い目立つ場所でなくて良かったなぁとしみじみ思った。

「皇殿下！　それで彼らは何者なのですか？」

騎竜兵の若い男の一人が聲を上げた。

俺たちのことが気になるのだろう。

「彼らは私の大切なお客様です。ヴァルカン帝國に招待するつもりですけど、何か問題がありますか？」

渋い顔のまま偉そうな騎竜兵は一歩引き下がる。

大方、貴族の令息とかだろう。

俺たちのことを何者かとヴァルトルーネ皇に聞きつつ、視線はフレーゲルに対して鋭く向けている。

フレーゲルは、レシュフェルト王國貴族であるマルグノイア子爵家の四男。ヴァルカン帝國の貴族からしたら、他國の貴族とヴァルトルーネ皇が親しくしているのが理解不能なことなのだろう。

多分、ヴァルトルーネ皇とユーリス王子の婚約破棄の容も帝國で出回っていることだろうし。

「……皇殿下。失禮を承知の上で申し上げますが、私は彼らが帝國領に足を踏みれるのに反対でございます」

案の定、その男は難を示し、俺たちのヴァルカン帝國りを認めたくないみたいだ。

「へぇ、それはどうしてかしら？」

「レシュフェルト王國との友好関係がどのようになっていくのか、皇殿下自もご理解されているはずです。それなのに、王國貴族を客人として招きれるなど、皇帝陛下が許すとお思いですか⁉︎」

まあ、妥當な容だな。

「お父様の許しを請おうなどとは思っていません。私の友人を國に招くことに何の問題があるというのですか？」

「百歩譲って、そこの王國貴族を帝國に招待するのは認めましょう。ですが、それ以外の者たちは平民ですよね？　彼らを客人として招くなど、皇殿下の品位を損なうかと」

ヴァルカン帝國は貴族至上主義の國であった。

戦爭中もそれらの影響が顕著に現れ、將は皆帝國貴族の令嬢、令息などが大多數を擔い、平民の將が臺頭してきたのは、ヴァルカン帝國が追い詰められた終戦間際のことであった。

騎竜兵の男が抱く平民への差別思想が大きいことは、不思議なことでも何でもない。當たり前のことなのだ。

「それは、私の目が節と言いたいのですか？」

「い、いえ！　決してそのような意図はなくて……」

「では、私が誰と親を深め、誰を客人として母國に招待しようとも、私の勝手ではありませんか？」

「そ、それは……」

ヴァルトルーネ皇の言葉を聞き、男は言葉を詰まらせる。

そして、歯を食いしばりながら俯いた。

「リーノス卿、彼らは私の大切なお客様です。失禮のない対応をお願いします」

「──っ！　申し訳ありませんが…………し、考える時間を頂きますっ！」

リーノス卿と呼ばれた騎竜兵の男は、自分で連れてきた騎竜にり、空中へと飛び立った。

その様子をポカンとした顔で見ている騎竜兵の人たち。

唯一、その行に聲を荒げたのは、

「おい、リーノスッ！　任務を放棄するのかっ！」

騎竜兵の中で一際屈強なを持つ、巨漢の男であった。