俺とヴァルトルーネ皇は現在レシュフェルト王國の王城へと向かっていた。

婚約破棄の後始末。

ユーリス王子と正式に縁を切るためである。

士學校の卒業式で、ヴァルトルーネ皇とユーリス王子は完全に対立姿勢を見せたが、それだけでは王族と皇族の婚姻が完全に破棄されるわけではない。

前世の彼は、ユーリス王子との関係を曖昧なままズルズルと続けてしまい、その結果ヴァルカン帝國での立ち位置も固まらず、皇帝への道を逃してしまったという。

──彼のみを葉えるための第一歩。足を踏み外すことがないようにやれるだけのことをしよう。

「アルディア、婚約破棄に関しては問題なく手続きが済むと思うけど、萬が一……非常事態が起こったら、その時はよろしくね」

俺はヴァルトルーネ皇に渡されたとあるを握りしめて頷いた。

大丈夫。

全ては上手くいくはずだ。何故なら、ヴァルトルーネ皇は、一度した失敗を繰り返さないように同じような狀況に陥った時の対策をちゃんと立てる人間だから。

不測の事態も考慮して、婚約破棄の手続きの場に俺を同行させてくれている。

「はい、ヴァルトルーネ皇殿下の計畫通りにいてみせます」

「ありがとう。とても頼もしいわ」

心構えも済んだ。

俺とヴァルトルーネ皇は、王城の門をくぐり抜け、その先にあるであろう宿敵の元へと歩みを進めた。

▼▼▼

王城部は豪華絢爛な造りであった。

本來、平民の俺なんかがれるような場所ではない。だが、今回だけは例外。

ヴァルトルーネ皇の護衛役という名目で登城を許された。

そして、今目の前には、ヴァルトルーネ皇にとって一番嫌悪を抱いているであろう人がいる。

「ふっ、よく來たな。ヴァルトルーネ=フォン=フェルシュドルフ。てっきり、ここには來ないと思っていたぞ」

ユーリス王子は見下すような視線をヴァルトルーネ皇に向け、表を変えない彼を嘲笑った。

「託は結構です。もう一度問いますが、本當に婚約破棄をしてよろしいのですね？」

「何を今更なことを……お前は俺に捨てられたのだ。が思い上がるなよ！」

ユーリス王子は本當に愚かなようだな。

仮にも彼はヴァルカン帝國の皇。

ユーリス王子は、ヴァルトルーネ皇と自分が対等な存在であるという自覚に欠けている。外関係など考えていないみたいである。

馬鹿丸出しのユーリス王子から、節のない言葉を浴びせられながらも、ヴァルトルーネ皇は顔一つ変えずに淡々と語る。

「そうですか。では、國王陛下承諾のもと正式にこの婚約を破棄して頂きましょう」

彼からしたら、この婚約破棄は痛くもくもないものである。

ユーリス王子は思っていた反応じゃなかったからか、次第に青筋を立てながら顔を悪くした。

そして、その怒りの矛先は偶然目に留まったであろう俺に向けられる。

「それで、さっきからお前の橫にいる男は何なんだ？　見たところ卑しい分のしょうもない男に思えるんだが」

ユーリス王子は俺のことを知らない。

平民だから、直接何か関わり合う機會が無かったからだ。だからこそ、俺が貴族でないと彼は理解していた。

「彼は、私の護衛です」

「ほー、ヴァルカン帝國の皇であるお前は、護衛にそんなひょろっちい下級民を據えているのか。ははっ、帝國の程度というものが知れるな！」

「はぁ……」

煽る煽るユーリス王子。

だが、ヴァルトルーネ皇はもはやユーリス王子に視線すら向けていない。

ただため息を吐き、彼を無視して國王陛下の方へと歩いていく。

俺もそれに従い、ヴァルトルーネ皇の背後にピタリと付き従う。

「おい、待てよっ！」

ユーリス王子が強引にヴァルトルーネ皇の肩を摑もうとする。俺はそれを見逃さずに、彼の手がヴァルトルーネ皇の肩にれる直前でしっかりと止めた。

王族に対して無禮な行い。けれども、今の俺はヴァルトルーネ皇の護衛という名目を得ている。

「このっ、平民風が俺にれるとは……っ！」

ユーリス王子は顔を真っ赤に染め上げ、今にも毆りかかってきそうなくらいに怒り心頭であったが、遠慮なんて絶対しない。

「皇殿下にるなっ！」

「────っ！」

「王族だろうと、なんだろうと……彼に害を及ぼす愚か者を彼に近付けさせはしない」

「貴様ッ！」

激昂するユーリス王子。

俺だって募る気持ちはあった。

恩人であるヴァルトルーネ皇に対して數々の暴言、彼に言われて反論を我慢していたが、やはり苛立ちは確かに湧き上がってくる。

ユーリス王子から向けられる険しい視線に俺も、同じくギラついた睨みを効かせる。すると、ユーリス王子は呆気なく怯えたような顔になる。なんだ、そんなに怖かっただろうか。

ちょっとしてやったがあるな。

と、ユーリス王子の腕を抑えている手とは逆の手をヴァルトルーネ皇に握られた。振り向けば、彼はし困ったような顔をし、

「アルディア、今はダメ……」

そう諭される。

カッとなっていたのがヴァルトルーネ皇にはバレバレだったのだろう。俺は深呼吸をし、ユーリス王子の手を離す。手を離した瞬間、ユーリス王子は痛そうに俺に握られていた箇所をる。

「…………ただで済むと思うなよ？」

「…………」

「うっ……くそっ！」

おっと、今度は無意識に睨んでいたようだ。

ユーリス王子はまたしても、逃げ出すようにその場を立ち去った。

「アルディア、貴方って怒ると怖いのね。し意外」

……その言葉ちょっと心に効きましたよ。

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