アリシアの作ってくれた味しい料理をお腹いっぱい食べ、ぐっすり眠った翌朝。

「昨日は々ありがとう。それじゃあ行ってくるね」

「ええ。怪我にだけは気をつけて、一杯がんばってきてね！」

アリシアに見送られながら、僕はフェンとともに出発した。

指定された時間のし前にギルドの口へ到著すると、ルカ試験がちょこんとしゃがみ込んでいた。

こちらに気づき、ルカ試験がすくっと立ち上がる。

やっぱりこの人、見た目が若く見えるだけじゃなくて、僕と同い年ぐらいだよなぁ。

そんな若さで試験に抜擢されるぐらいなのだから、相當な実力者なのだろう。

「ディオさん、おはようございます。昨晩はちゃんと眠れましたか？」

「はい、すっかり疲れもとれました」

「そう」

「えっと……」

「……」

「出発します」

「あ、はい」

そっけない返事のあと、ルカ試験はぷいっと方向転換して歩き出した。

慌てて後を追いかける。

僕とフェンはかに顔を見合わせた。

何か怒らせるようなことを言ってしまっただろうか？

……でも今のあたりさわりないわずかな會話の中で……？

ルカ試験は無言でずんずん進んでいく。

……き、気まずい。

街の外れで依頼人と合流するまでまだ結構な距離がある。

こちらから何か話しかけてみようか？

そう考えはじめたとき、不意にルカ試験が立ち止まった。

「あの……先に伝えておきます。怒っているわけでも機嫌が悪いわけでもないです。どうしたらいいのかわからないだけです」

まさに今それを疑っていたところだったので、すぐ返事ができなかった。

「やはりあなたにも勘違いさせてしまっていたみたいですね。……私、毎回こうなのです」

「こう、というのは？」

「人と行するのが苦手で、パーティーを組むたび、その相手に不快な思いをさせてしまうのです……。決まったことを伝えるのならいいのですが、雑談が壊滅的に浮かんできません。何か話しかけなければと思って悩むほど仏頂面になってしまったり、相手から聲をかけられても、すぐ返事をしないとと焦って素っ気ない言葉しか言えなかったり……」

あれ、でも今は普通に會話が立してるよね？

そのことを指摘すると、ルカ試験は自分の服の裾をきゅっと摑んでから、たどたどしい説明を続けた。

「今日はディオさんにとって大事な試験日です。私の不愉快な態度でストレスを與え、足を引っ張ってしまうなんて絶対にあってはいけません。なので、こういう事態になったときに備えて、謝罪の言葉と言い訳を昨日、何度も練習してきました」

「謝罪の練習！？　真面目すぎません！？」

相手が試験だということも忘れて、素でつっこんでしまった。

「……そこがだめなのでしょうか？」

ルカ試験が、不安そうに瞳を揺らして問いかけてくる。

どうやら冷たそうだとじた第一印象は間違っていたようだ。

ギルドマスターがルカ試験のことを【氷の賢者】と表現したり、僕自も彼を人形のような人だと思ってしまったけれど、本當の彼はそんな人ではなかった。

今だって、控えめながら不安そうな表を浮かべているし、何より僕の合格が確定したときに見せてくれたあの不用な笑顔。

「真面目なのいいと思います。誤解させるようなことを言ってしまってすみません」

「真面目でも大丈夫なのですね……。ではやはり人付き合いが下手で冷たい人間なのがいけないのですね」

「冷たい人じゃないですよね、ルカ試験」

「……？　そんなことないです。私は平気で皆さんを不合格にしてきた人間なので」

「本當に平気だったら、不合格にしたことを冷たい人間の行いだなんて思わないんじゃないですか？」

「……そ、それは……」

「たしかにルカ試験ってめちゃくちゃ人なので、正直僕も最初は冷たい人なのかなとか失禮なことを考えてしまいました。ごめんなさい。でも、こうやって接してみたら、そんなことないってわかりましたよ」

「……っ」

だからあまり気にし過ぎないほうがいいんじゃないですか。

そう伝えようとして振り返った僕の目に、真っ赤な顔で涙目になっているルカ試験が映る。

「え……！？」

「そ、そそそそんなこと言われたの初めてです……っ。……お世辭でも……うれしいです……」

ああ、びっくりした。

泣くほど傷つけたわけじゃなくてよかった……。

自分が無意識に彼に人だと伝えてしまったことには気づかず、僕はほっとをでおろした。

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