《じょっぱれアオモリの星 ~「何喋ってらんだがわがんねぇんだよ!」どギルドをぼんだされだ青森出の魔導士、通訳兼相棒の新米回復士と一緒ずてツートな無詠唱魔で最強ば目指す~【角川S文庫より書籍化】》ナリデ・ズブンサナル(なりたい自分になる)
ひと目見てその意地の悪さがわかる顔つきの、金髪の男は、さも面白いものを見つけたというように肩を揺らしながら歩いてきた。
その顔に見覚えがある。この人は確か――。
「ヴァロン――? あなた、どうしてここに――?」
「あァ、誰がひっついてるかと思えば、お前、お茶汲みのレジーナかよ?」
ゲヒヒ、と小馬鹿にしたように笑い、ヴァロンはぐい、とレジーナの顔を覗き込んだ。
「なんだァお前、なんでこんな田舎モンと一緒にいるんだ? でも開いて小遣い稼ぎでも始めたのかよ? 一見してもコイツは上客じゃなさそうだけどなァ」
下品な言いと共に、ヴァロンは拳でオーリンの頭を小突いた。
厄介な人間に捕まった――レジーナは心に歯噛みした。
ヴァロン・デュバル――巨大冒険者ギルド・イーストウィンドで第一線を張るSランクの剣士である。
この國でも希な【魔剣士】のスキルを持ち、その天才的な太刀筋と圧倒的な魔力量で幾多の死線を掻い潛ってきた歴戦の兵。
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王都どころか大陸一円に名聲が轟く冒険者の中の冒険者だ。
だが――その格はお世辭にも、人の範となるべきようなものではない。
己の希なスキルを鼻にかけ、ギルドメンバーを完全に見下し、弱いやつは仲間ではないとコケにして恥じない格。
仲間の背中越しに攻撃を放つこともしばしばと言われ、何人かは実際に彼の手にかかって命を落としたのだとまことしやかに囁かれる評判の悪い男だ。
圧倒的な実績がありながらも、その素行の悪さからギルドマスターのマティルダにとってはまさに目の上のたんこぶとなっている男だった。
レジーナはなるべく平靜を裝いながらヴァロンに言った。
「ヴァロン、悪いけど今は取り込み中なの。絡むなら後にして」
「なんだァお前、いつからS級に意見するようになったんだ、ランク外のお茶汲みの分際でよ、ええ?」
厄介なことに――その時のヴァロンの聲からも、強く酒の匂いがした。
參った――レジーナは自分の不運を呪った。ヴァロンはその格の悪さ以上に、それに倍する酒癖の悪さを王都中に知られている男なのだった。
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蟲の居所が悪ければ見境なく客をぶちのめすこともしばしばで、一度暴れ出したら王都の衛兵隊が束になってかかっても敵わない。
畢竟、この男が酒場で暴れるたびにイーストウィンドの名聲は地に墮ち、その巨額の賠償はいつもギルドの方で負擔することになるのだ。
「ところでオーリン、聞いたぜ。お前、マティルダからギルドを追放されたんだってなァ」
ヴァロンはごつごつと拳でオーリンの頭を小突いた。
ゲヒヒ、と、ゴロツキそのものの笑い聲を上げ、ローブの中のオーリンの顔をさも面白そうに覗き込む。
「しかも追放理由が笑っちまうじゃねぇか。なに喋ってるかわからねぇから追放って――俺は笑いが止まらなかったぜ、えェ? こんな理由でクビになった人間はこの世にお前ぐらいだろうな、おい」
オーリンが顔を上げ、ヴァロンの顔を睨むように見た。
無表の中にも、明らかな軽蔑を潛ませた視線がカンにったのか、ヴァロンの眉が痙攣した。
「んだよお前。なんだそのツラは? なんか言いたいことあるのか、ええ? 言ってみろよ、どうせなに言ってんのかわかんねェだろうけどなァ」
途端に、ヴァロンのから猛烈な勢いで酒の匂いが漂い始めた。
ただでさえ赤い顔が更に赤黒く変し、オーリンに食いつくように顔を寄せる。
「俺はめてやろうとしてんだよ、あァ? これからどうすんだ、お前。背中丸めて田舎に帰るんだろ? 餞別に俺が笑ってやろうってんだよ、ありがたく笑われんのがお前らザコの仕事だろうが、違うか? おい、なんとか言えよ――」
それでも、オーリンの表は筋一本かない。
まるで彫像のような無表でヴァロンの顔を睨み続けている。
それを見ながら、ヤバいヤバい、とレジーナは言いようのない張を覚えた。
この流れはよくない。何しろ、ヴァロンは格は最悪だが実力は本だ。
ここで毆り合いにでもなればオーリンといえど全く敵わない実力者なのは間違いない上、一度暴れ出したら気が済むまで暴れ続ける――そういう男だ。
咄嗟に、レジーナはオーリンの腰のあたりに抱きつき、ヴァロンから引き剝がそうとした。
「ね、先輩。気にしちゃダメですよ。お互い酔ってるんですから、ね――?」
その一言に、ヴァロンがレジーナを睨みつけた。
「んだよお前、俺が難癖つけてるとでも言いたいみてェだな」
「あ、いや、そんなことは――とにかく先輩、行きますよ! ほら――」
「待てってんだろうが!」
ヴァロンに髪のを摑まれ、有無を言わさずに引っ張られる。
突然捻じ曲げられた首の痛みをく間もなく、酒臭いヴァロンが顔を寄せてきた。
「そういやお茶汲み、お前のスキルも確かクズみてぇなスキルだったな。【通訳】――だったか、お前のスキル? こりゃ傑作だよ。そんなクズスキル持ちのくせに、よくイーストウィンドの門を叩けたもんだって、俺たちよくお前のこと噂してんだぜ?」
せせら笑うヴァロンの聲に、じりっ……と、レジーナの心の底が燃えた。
そんなことはわかっていた――自分は、本的に冒険者などには向かない人間であることは。
オーリン以上に、自分の持っているスキルが、冒険者向けではない、何の役にも立たないスキルなのは、自分がよくにしみてわかっている。
なにしろ、十五歳で行われるスキル覚醒の儀式で発現した自分のスキル。
それは憧れだった【回復士】でも【魔導士】でも、【剣士】ですらない――【通訳】という、意味不明なスキルだったのだから。
そのせいで友達はレジーナのことを遠巻きにするようになった。
骨に馬鹿にされるようになり、今まで仲がよかったはずの友達さえ、レジーナの周りからあっという間に離れていった。
十五歳で人生が一変した後、レジーナのもとに殘った友達らしい友達は、【通訳】のスキルを使って意志が汲み取れるようになった犬貓などのたちだけとなった。
人間がどれだけ軽薄で、能力や素質で人を差別して恥じない、殘酷な生きなのか。
まだ二十歳でしかないレジーナは、既に骨の髄まで知っていた。
けれど――どれだけ馬鹿にされても、自分には夢があった。
立派な回復士になり、傷ついたり、苦しんだりする人々を助けるという夢が。
如何に自分にその才能がなくても。
求められていない人材であったとしても。
必死に努力し、経験を積めば、いつかは芽が出るかも知れない――。
それに一縷のみを託し、王都の回復士の下で五年の下積みを経てから、レジーナは冒険者ギルドの中でも最大のギルドであるイーストウィンドに加したのだ。
「おお、そうだそうだ。お前のクズスキル、この何言ってんのかわかんねぇクソ田舎者とはお似合いじゃねぇの? どうせコイツと一緒にいるってことは、お前もマティルダに一緒に追放されたんだろ、な? 今からこいつの馬の糞だらけの田舎に帰って世帯でも持ちな。鬼でもこさえりゃそこそこ幸せに――」
その一言に、レジーナの怒りが燃え上がった。
ギリッ、と歯を食いしばり、ヴァロンのニヤケ面めがけて唾を吐きかけてやる。
びちゃっ、と頬に汚れが張り付いた途端、ヴァロンが一瞬で青ざめるほどに激昂した。
「この売が――!」
その怒聲と共に、レジーナの顔に鋭く痛みが走る。
うっ、と顔を背けて手で覆うと、ぬら、と鼻から滴った鮮で掌が汚れた。
思わず、キッ、とヴァロンの顔を睨みつけ、レジーナは涙目で吐き捨てた。
「このクズ!」
その一言に、ヴァロンの両眼が零れ落ちんばかりに見開かれた。
「このアマ――! 今なんつったァ!?」
馬鹿、毆られたぐらいで済むならまだマシじゃないか――!
冷靜になれとぶ頭を無視して、レジーナはなおも言った。
「クズ、って言ったのよ! このチンピラっ! アンタみたいなクズ男に馬鹿にされる筋合いなんてないんだから!」
真正面から罵聲を浴びせ、レジーナは毆られた頬を押さえながらんだ。
「才能がない、スキルがない、だからなに!? だったらむしろ上等だわ、私は努力してちゃんとやりたいことをやる! なりたい自分になってみせる! アンタみたいにスキルを鼻にかけただけで偉ぶってるドチンピラとは見てる世界も考えてることも違うのよ! わかったらさっさとどっか行け、この酔っ払いのドクズ男ッ!」
「言わせておけばざけやがって――!!」
完全に正気を失った目を剝いたヴァロンが、大きく拳を振りかぶった。
毆られる――! レジーナがぎゅっと目を瞑った、その瞬間だった。
「【拒絶(マネ)】」
その聲は鋭く、雷鳴のように響き渡った気がした――。
いくら待っても、毆られる衝撃が來ない。
え――? と薄目を開けたレジーナは、次の瞬間、驚愕に目を見開いた。
「なによ、これ――?」
目の前にあったのは、り輝く幾何學模様の魔法陣。
不思議なに発した障壁魔法がレジーナの目の前にあり――自分の鼻を潰すはずだっただろうヴァロンの拳を、真正面からけ止めていた。
こごまで読んでもらって本當に迷ですた。
「おもしぇ」
「続きば気になる」
「まっとまっと読ましぇ」
そう思らさっていただげるんだば、下方の星ッコ(★★★★★)がら評価お願いするでばす。
まんつよろすぐお願いするす。
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