《じょっぱれアオモリの星 ~「何喋ってらんだがわがんねぇんだよ!」どギルドをぼんだされだ青森出の魔導士、通訳兼相棒の新米回復士と一緒ずてツートな無詠唱魔で最強ば目指す~【角川S文庫より書籍化】》ゴールデン・イーグルス(北の兵たち)

「とりあえず馬車を用意しました。ここからベニーランドの中央部までは馬車であれば半日の行程です」

「迷です」

「更に懇意の旅籠屋にも連絡は回しておきました。ベニーランドに著き次第、あなた方を上等の部屋にお泊めするようにと」

「なんたら、本當に迷です」

「さらに食糧と――これ、しですが街道沿いの者たちが出し合いました。マサムネ様を救ってくださったお禮です。お持ちください」

「ややや、迷だなぁ。いい迷だ。迷だー迷だー。あや、本當に迷でした」

オーリンはあくまで恐してそう言うが――言われた方としては流石に驚いたらしい。

不安そうに表を曇らせてオーリンを見つめた飯屋の親爺に、レジーナは慌ててとりなした。

「あ、いや、違うんです! 『迷』っていうのは『ご迷をおかけします』の短版なんです! すごく嬉しいんです! ね、先輩!?」

「えっ(いぃ)!? ……アッそうが! そうです! 本當に申し訳ない(もしゃげね)です! ごめいわぐをおがげすますです、はい!」

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レジーナの言葉に失言を悟ったオーリンが、一瞬の後に相を変えた。

まるでコメツキバッタのようにペコペコ頭を下げると、ようやく飯屋の親爺の顔が緩んだ。

「そ、そうでしたか……とりあえず、我々ができるお禮としてはこんなところです」

「いえいえ、十分ですよ。むしろこんなに手厚くしてもらえるなんて」

レジーナの言葉に同意するように、足元にいたワサオが、ワン! と一聲吠えて尾を振った。

それを見ていたマサムネが黃い目を細めてオーリンを見た。

「それで――若き魔導士殿。そなた、これからどうなさるおつもりか?」

「とにかぐ、黒幕ば見つけで捕まえる(おしぇる)、それすかねぇべ」

オーリンは決然と言った。

「黒幕が誰でも、これ以上ぶじょほさせるわげには行がねおん。相手はドラゴンでもじょさねぐえっとがまにってまる人間だ。わさばわんつか荷が勝つ相手がもしゃねども、これ以上ベニーランドのすだづがふったづげらえればなぼなんでもわだってきまげる。などすても止めねばよ」

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【黒幕が誰でも、これ以上悪事を働かせるわけにはいかない。相手はドラゴンでも簡単に一瞬でってしまう人間だ。俺には々手に負えない相手かもしれないが、これ以上ベニーランドの人々がやられればいくらなんでも俺だって頭に來る。なんとしても止めなければ】

オーリンは決め顔で、握り拳さえ握りながら、冴えた容のことを冴えない訛りで言った。

とにかく、わからないならわからないなりにその覚悟の程をけ取ったらしい街の人々が、顔を見合わせて苦笑いを浮かべた。

唯一、マサムネだけがその決意の言葉を聞き、ブルル……と鼻を鳴らした。

「覚悟のほどはよくわかった。お若い方」

「なんだえ?」

「その、そなたの無詠唱魔法のことだが――」

嗄れた聲でマサムネはそう言いかけたが、次の瞬間には視線を伏せ、「いや……」と歯切れ悪く言葉を打ち切った。

代わりに、マサムネは再び蛇のような瞳でオーリンを見た。

「これからのそなたの道程にはただならぬ困難が待ちけているやも知れぬ。そなたの運命、そしてこれから待ちけることに関しての手がかりはあまりにもない。だが、そなたの運命は既に大きく変わりかけている。そこの――そなたの相棒殿によって」

その一言とともに、マサムネの鼻先がレジーナの方を向いた。

後ろに誰かいるのかな、と背後を振り返ったレジーナは、一瞬後で自分のことを言われたのだと気がついて、ちょっと驚いてマサムネを見た。

「え!? も、もしかして私――!?」

「左様。そなたは既に魔導士殿の運命を大きく変えつつある。いい方にも、悪い方にも、それはどちらとも言えぬ」

「あ、いや、そんなそんな! 私、なんにも戦闘とかで役に立ってないし――! 相棒とかそんな大それたじでは……!」

「いや……」

不意に――マサムネの聲ではない聲がレジーナの聲をやんわり否定した。

え? とオーリンを見ると、オーリンは何故か明後日の方を見ながら、意味深に何回か頷いた。

「確かに――あんだの言う通りがもわがんね、マサムネさんよ」

「えっ、えっ?」

噓でも冗談でもない口調でオーリンが言うと、マサムネが再びブルル、と鼻を鳴らした。

「よいか。如何なる困難があろうと、決して背後や前を見てはならぬ。來た道は戻る事葉わず、行く道は知ること葉わず。踏みしめる場所を見よ。そこにはいつでも萬里を照らす明かりがあるはず――」

まるで歳古い賢者のような口調で、マサムネは餞(はなむけ)の言葉を次のように締めくくった。

「曇りなき心の月を先立てて、浮世の闇を照らしてぞ行く。――それがそなたらの歩むべき運命の道ぞ。さぁ、征くがよい」

曇りなき心の月を先立てて――。

最後にマサムネが贈ってくれた言葉の意味を反芻しながら、レジーナは馬車の座席から外を見ていた。

オーリンはというと、さっきの大立ち回りのせいで多疲れていたのか、同じように窓の外を見つめたまま一言も発しようとしなかった。

馬車から見える風景は、格段ににぎやかになりつつあった。

街道沿いにはずらりと商家や人家が並び、今まで見てきたどの地域よりも人の絶対數が多い。

そしてその遙か向こうに見える巨大な街――アレがズンダー大公のお膝元、ベニーランドの中樞である地區と思われた。

全く、まるで天を衝く山脈のような天樓の群れは、王都ですら圧倒するほどの常識外の規模と高さである。

ズンダー大公家とは一どれだけの力を持つ存在なのか、あの天樓を見たものは自ずから思い知ることになるだろう。

思えば、これだけの人口集地帯にるのは、王都を出てから初めてのような気がした。

今まで越えてきた國有數の空白地帯トコロ=ザワ、雪男との友を育んだ境グンマー、中間の街オーミャ、歓待をけたアイズのダッシュ村――。

思えば遠くに來た自分の旅を省みる時間は今までなく、仕立ててもらった馬車に乗ることでやっと一息つくことができたらしい。

ほう、と、安堵とも疲労ともわからないため息を吐いたレジーナの耳に「そろそろアブクマ川を越えるど」という言葉が聞こえた。

「アブクマ川?」

「んだ。ベニーランドを流れる南の大河――このアブクマ川を越えればいよいよベニーランドだ。見ろじゃ、あれがベニーランドのエアターミナルだ」

オーリンが顎で馬車の窓の向こうをしゃくった。

レジーナが馬車からを乗り出して見ると、そこには今まで一度も見たことのない景が広がっていた。

街の向こうに見える広大な街と海、そのギリギリの近くの空に、大型の飛空艇が多數遊弋している景がある。

ゴウンゴウン、と魔導機関の重い響きが空を震わせる中、そのうちの一機がまるで吸い込まれてゆくかのように街中に降りてゆく。

人類の英知の結晶である魔導機関仕掛けの飛空艇と、その叡智さえ圧倒してしまう広大な海の輝きが共に見られる景――それはなんと雄大で、なんと不可思議な景だっただろう。

「すごい――」

「王都なんかものの數でねぇ、ベニーランドこそが大陸一の大都會だで。ズンダー大公家でば本當にすげぇ家なんだな――さて、ベニーランドのエアターミナルを越えればすぐナ・トリのイオーンモールだ。そごでなんぼか裝備でも準備しとがねばな――」

オーリンがそう言った、その途端だった。

ぐぐぐ……と急に馬車に制がかかるのがわかり、ん? とレジーナは進行方向を見た。

突然のことに驚いた馬車の者が「は……は?」と慌てて馬車を降りるのが見えると、者は相変えてレジーナに走り寄ってきた。

「す、すみません。検問ということです」

「検問?」

「と、とりあえず、申し訳ありませんが、々――」

「どけ」

わたた、とたたらを踏んだ者を押しのけて、ぐい、と馬車の窓に近づいてきたのは、鮮やかな赤と白の甲冑にを包んだ兵士だった。

その肩、金の鷲の紋章を見たレジーナは、はっと息を呑んだ。

《金鷲の軍勢(ゴールデンイーグルス)》――。

それは王都にも聞こえた、ベニーランドを護るズンダー大公家直屬の兵士たちの通稱だ。

その強さは一人で王都の兵士五人を圧倒すると言われる猛者揃いで、その猛者たちが直々に街道で検問を行っていることも妙であれば、どう考えてもただごとではない口調でこちらに迫ってきたのも妙なことであった。

「貴様らだな? シロイシの宿場町でドラゴンを倒したというのは」

レジーナたちが何かを言う前に、兵士は決めつける口調で問うてきた。

そのあまりにも藪から棒の問いかけにまごついているレジーナの背後から、オーリンが聲をかけてきた。

「ああ、それは俺(わ)で間違いね。なぬが用だっか?」

オーリンの強い訛りに、兵士の男はしだけ顔をしかめたものの、次の瞬間にはニヤリと強面を歪めた。

「殘念だが、快適な馬車の旅はここまでだ。――我々とご同道願おうか」

こごまで読んでもらって本當に迷ですた。

「たげおもしぇ」

「続きば気になる」

「まっとまっと読ましぇ」

そう思らさっていただげるんだば、下方の星コ(★★★★★)がら評価お願いするでばす。

まんつよろすぐお願いするす。

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