《じょっぱれアオモリの星 ~「何喋ってらんだがわがんねぇんだよ!」どギルドをぼんだされだ青森出の魔導士、通訳兼相棒の新米回復士と一緒ずてツートな無詠唱魔で最強ば目指す~【角川S文庫より書籍化】》モンキー・マジック(主題歌)

「これは……!?」

レジーナは今自分が見ている景が信じられなかった。

けてきらきらと輝く海が、斷ち切れ、逆巻きながら――まるで一筋の道を通すかのように黒褐の海底を曬している。

それだけではない。いままで自分たちが渡り歩いてきた島々にもその道は現れ、今や見渡す限りのマツシマのあらゆる島々が、黒く汚れた道で繋がっていた。

自分の足元からびた道のその先は――レジーナが視線を上げると、遙か遠くに霞む陸地、大陸本土にまで繋がっていた。

魔法か? いいや違う。

こんな強大で、悪逆的なまでの変化をもたらすことのできる魔法など、如何なる大魔導師であってもおそらく有り得ない。

この満々と水を湛えた大海原を斷ち切るだけでも凄まじいのに、二百を越える島々全てを繋げてしまうとは――一どれほどの力があれば、どれほどの存在であればこんな蕓當ができるのだ?

「な、なんだやこいづは……!?」

人形のようにぐったりしたイロハを抱え、聖堂から飛び出してきたオーリンが、その景を見て立ち竦んだ。

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お互いに何が起こっているのかわからず、呆然とそれを見ていたレジーナとオーリンに、背後から「素晴らしい……!」という快哉をぶ聲が聞こえた。

「何という力、何という景……! これが神の奇跡、流浪の民を約束の地へと導いた道か!」

奇跡? 約束の地? レジーナが振り返ると、アルフレッドは異様にギラついた目で斷ち割れた海を見つめていた。

「おお神よ! 我らが神……穢れた世界を浄化し、正しき正義と秩序をもたらす神よ! ありがたき幸せ!」

アルフレッドはまるで役者のように腕を広げ、空を仰いで笑った。

「これが煉獄……これが罰か! 至純の悪たちよ、この島から解き放たれよ! 吼えよ、翔けよ、そして遍く知ろしめよ! 罪深き者どもに至上の罰を、至上の怒りを――!」

それはまさに狂人の顔と聲――。

整った顔を歪め、似合わぬ下卑た笑い聲で笑うアルフレッドは、意味不明な言葉を絶しながら、まるで初雪を喜ぶ子どものように小躍りしている。

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レジーナの背筋がつららを突っ込まれたように冷えたとき、何かを察したオーリンがアルフレッドを睨んだ。

「畜生(つっくしょ)、何しさこった島に來てやがったのかと思てらったが、いまのでわがったぜ。そういうごどが……」

「えっ?」

「こんな手品を一どうやってやってんのがはわがんねが……こいづ、マツシマの魔だちさベニーランドば襲わせる気だ」

オーリンの聲に、アルフレッドは満足そうに頷いた。

「ここマツシマとベニーランドは今や神の業によって地続きとなった。穢れた力によって創られた百萬都市を魔たちが躙していく様――それはさぞやの見ものでしょうねぇ」

途端に、グオオオ、という咆哮が海を轟かせ、レジーナははっと音のした方を振り返った。

たち――それも一や二ではない、數え切れぬ程の魔たちが蠢き、行列をなして、海底に切り開かれた道を歩き出していた。

あんな怪たちが大陸最大の都市であるベニーランドに押し寄せたら――レジーナはその末路を思い浮かべて戦慄した。

あの活気ある街、平和を謳歌している人々、絶えることのない穏やかな時間の流れ……その全てが屠られ、慘たらしく引き裂かれる景。

酸鼻極まる修羅の景を想像すると背筋が再びぞっとして、レジーナは震える聲でんだ。

「どうして……! どうしてベニーランドの人々を、無関係の人々を巻き込むんですか! 復讐のつもりですか、一何への!? 誰への復讐なんです!?」

レジーナの詰問にも、アルフレッドは薄笑みを崩さない。

「あなたのお母様の仇討ちのつもりなら、復讐すべきはズンダー大公家だけでいいはずでしょう! あなたたちの怨念に何も知らない民を巻き込んで殺戮しようだなんて間違ってる! あなたのお母様だってそこまでんでは……!」

「やめろじゃレズーナ、あの目を見なが」

不意に――オーリンが右手でレジーナを制した。

思わず、その聲に従って見つめたアルフレッドの目には――先程とは打って変わって、何の狂気のも浮かんではいない。

え? と目を見開いたレジーナに、オーリンはぞっとしたような表いた。

「あればどう考えでも普通でばねぇばって。こいつ(けづ)は個人的な復讐なんど考えではぁねぇ。なんだがさ、まっとまっと……やばい(やんばい)事さ首突っ込みやがったんだ」

「やばい事、ですか……あなた方にとってはそうでしょうね……」

アルフレッドは最初に聞いた聲のような、普通の、一人の正常な人間に戻ったかのような聲で苦笑した。

「そこの魔導師さんの言う通り。私はズンダー家に復讐せよとしか言わない母のこともずっと憎かった。私はアルフレッド・チェスナットフィールド。復讐のために生まれたわけでも、ズンダー大公家を継ぐために生まれたわけでもない……私は、私のはずだ」

心の奧底にある、決して溶けることのない何かを想像させる聲でアルフレッドは宣言した。

「私という間違った存在を生み出した世界を否定し、私たちは新たな、私という存在が正常でいられることのできる世界をゼロから創り出す……私たちは殉教者アルフレッド。真の教えに従い、命を捧げるものだ」

殉教者。その一言が、レジーナの耳の奧底に靜かに冷えて固まった。

その不穏とも、何故だか高潔とも思える響きの印象が消えぬうちに、オーリンがずい、と前に進み出た。

「お前(な)がどごの誰だがなんて関係あるか。このクズ野郎(ほいどたがれ)が」

皮一枚下に激を押し留めた聲だった。

そのドスの利いた聲に、アルフレッドも流石に薄笑みを消した。

「道理で夜になるとコソコソどっかさ消えてぐど思たね。どせあの魔だもお前(な)がってああなってんだべ。お前を完璧に(のれっと)ぶちのめせ(ふんじゃらえ)ばいいんだべや。簡単な(じょさね)こった、オソレザンの三途の川ば拝まへでやるさ――」

オーリンが右手に拳を握った瞬間、フン、とその激をあざ笑ったアルフレッドが、すっ、と視線を上に向けた。

途端に、ギャアギャア、という耳障りな聲が降ってきて、オーリンがはっと空を見上げた。

巨大な鳥や怪たちが、ベニーランドのある方角、北西の空を目指して飛んでゆく景が見える。

空を埋めつくさんばかりの百鬼夜行を見上げて、アルフレッドが笑った。

「私がっているのがこのマツシマの魔たちだけだとお思いで? それならマサムネをる理由など最初からなかったでしょう?」

「なんだどぇ……!?」

その途端、アルフレッドの右目から瞳が消え――代わりに、ぎょろり、と、何かの意匠が現れた。

そこに現れた紋章――今までの《クヨーの紋》ではない、向かい合う雄々しき二匹の獅子の意匠。

あれは――この王國の王家の紋章だ。

「ご安心ください、皆殺しにはしませんよ、適度に何萬人かに死んでもらうだけです。今後、この紋章を理由に王家と殺し合いをする連中の頭數まで減ってしまったらつまりませんから」

「お前(おめ)……!」

「私のスキル――【狂獣遣い(モンキーマジック)】のれる魔の數に制限はない。ほらほら、どうします? 放っておいたらベニーランドは壊滅だ」

くっ! と、顔を歪めたオーリンが、空に向かって右手を掲げた。

その途端、大空に極大の魔法陣が描き出され――自由に空を羽ばたいていた魔の群れと正面から激突する。

グエェ! という斷末魔の悲鳴を上げ、ぼたぼたとハエのように海へ落ちていく魔たちの雨を掻い潛りながら、次なる魔たちはまるで雲霞のごとく押し寄せてくる。

これではとても間に合わない。

焦燥をに、オーリンが砂浜を駆け出した。

「あ、先輩――!?」

ぶその間にも、まるで連発花火のように、空にも地にも海にも、オーリンが召喚する魔法障壁が現れては消えた。

その後ろ姿を見送ったアルフレッドが――レジーナを見て、ニヤリ、と笑った。

「さぁ、どうします? 最大の実力者である彼なしで」

レジーナは、ごくり、と唾を飲み込んだ。

まるで今まで立っていた足元が消失したような不安、欠落を覚えたレジーナに向かって、アルフレッドは無力を憐れむように笑い、小首を傾げてみせた。

「あなたと犬一匹で、私を止めてみますか?」

「たげおもしぇ」

「続きば気になる」

「東北のミスチル」

そう思らさっていただげるんだば、下方の星コ(★★★★★)がら評価お願いするでばす。

まんつよろすぐお願いするす。

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