《じょっぱれアオモリの星 ~「何喋ってらんだがわがんねぇんだよ!」どギルドをぼんだされだ青森出の魔導士、通訳兼相棒の新米回復士と一緒ずてツートな無詠唱魔で最強ば目指す~【角川S文庫より書籍化】》ヘバナ(さようなら)
「アルフレッド!」
イロハがその背中に大聲を浴びせると、アルフレッドが振り返った。
砂浜に立ったイロハの姿を見つめたアルフレッドが――疲れたように笑った。
「ああ……お仲間も無事なようですね。よかったではないですか、プリンセス」
なんだか、隨分他人事のような口調だった。
なんと聲をかけようか迷っている風のイロハを見て、アルフレッドは俯きがちに言った。
「私のみは破れた。もう私には世界を破壊することなどできない。見なさい」
アルフレッドが、斷ち割れた海の壁を顎でしゃくった。
滔々と水を湛えた海の壁が――みしり、みしり……と不気味な音を立てて軋み、その表面に徐々に亀裂が走り始めていた。
「非力な私は神を失させてしまいました。この奇跡ももう長くは続かない。ベニーランドは救われることになるでしょう」
「アルフレッド……!」
「やれやれ、全く障害だと考えていなかったあなたに邪魔されるとは……私の目が曇っていたのでしょう。もちろん、我らが神はお見通しだったのでしょうが――」
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「アルフレッド、やめろ! 神、神と口にするな!」
イロハが叱るような大聲を発した。
「そなたは殉教者になりたかったのか! 違うであろう! アルフレッド・チェスナットフィールドというたった一人の人間になりたかったのではないのか! 自分は穢れた存在ではない、されぬ存在でもないと、そう世界に述べ伝えたかったのではないのか!」
アルフレッドが、のろのろとイロハに向き直った。
「もう神に縋るのはやめよ! 神はそなたを救わなかった! そんな神に縋って何になる! 戻ってこい、その罪を償う道、神ではなくこの私がきっと用意してやるッ!」
威厳あるイロハの聲に、アルフレッドはし意外だというように目を見開いた。
そのまま、イロハの顔を見つめたアルフレッドが……やがて、がくん、と俯いた。
あは、あははは……と、再びどこかが壊れたような笑い聲が発した。
ちっ、とオーリンが舌打ちをする音がレジーナの耳にも屆く。
「償い、償いだと? 私のやったことが――罪だと?」
上げられたアルフレッドの顔は――壊れていた。
怒り、悲しみ、愉悅、絶――全てが一緒くたになったような異様な笑みに、レジーナは顔を引き攣らせた。
「私は罪など犯してはいない! 私は穢れしものを裁こうとしたのだ! まだわからないのか、愚か者め……!」
「アルフレッド……ダメだ、戻ってこい! そっちに行くな!」
「私は殉教者、真の教えに殉じる者だ! この高潔な使命が誤った道を歩むあなたにわかってたまるか! 私はすべきことをし終えて死ぬのだ!」
アルフレッドの異様な目が微妙にき――レジーナを見た。
思わずぞっとする何かを湛えた視線で粘っこく見つめられ、レジーナの足が竦んだ。
「そこの娘――レジーナ・マイルズ。私を救ってくれるのは、どうやらあなたらしい」
は? とオーリンがレジーナを見た。
イロハが、はっとしたような表でレジーナを振り返った。
「あなたのこれからの時間は決して穏やかなものではなくなる。我々はきっとあなたを迎えに行く。絶対に逃しませんよ、絶対に……殘された偽りの時間、せいぜい楽しむといいでしょう。きっと、覚えておくがいい」
言いたいことは言った、というように、アルフレッドは再びよろよろと道を歩き始める。
みしり、みしり……! と海の壁に亀裂が走り、まるで水槽がそうなるかの如く、そこから水が溢れ始める。
「レズーナ、エロハを抑えれッ!」
瞬間――オーリンが鋭くんだ。
はっとイロハに組み付くと、イロハが信じられない力でレジーナを引きずり始めた。
どう考えても十四歳のそれではない剛力に跳ね飛ばされそうになるレジーナを見かねて、オーリンもそのにしがみついた。
「イロハ――! ダメよ、行っちゃダメ!」
「アルフレッド、ダメだ、戻ってこいッ!! 何故だ、何故わからないのだ――!」
「ダメだエロハ! あいづは最早(はぁ)ダメだ! やめろでぁ! 諦めるすかねぇ!」
「諦められるか! あやつは、アルフレッドは私の兄なのだ! たった獨りの兄妹なのだ! 兄を見捨てる妹がこの世のどこにいる!」
兄――というイロハの聲に、アルフレッドがはたと足を止めた。
その反応にイロハが剛力がぴたりと止まったと思った剎那、アルフレッドが振り返らないままに言った。
「その剣はあなたに差し上げます。母の形見でした。あんな母のものでも――それだけはこの世から亡くしたくないですから」
なんだか――ぼんやりとした口調だった。
すっ、とアルフレッドは空を見上げ、はーぁ、と長く長く溜め息をついた。
「私のみはね、ずっとずっと、世界を壊すことでした。父に捨てられ、母に恨まれ、屋敷で腫れ扱いされて。こんな世界はなくなってしまえばいいと、ずっと思っていた。心ついたときから――そうだったのかな、多分」
アルフレッドの獨白は、まるで雨が降ってきたことを報告するような口調だった。
なんだか、狂気も殺気もじられない、腑抜けたような聲でアルフレッドは続けた。
「でもね、もうひとつみがありました。それは思いっきり本心を口にしてみることでした。苦しいよ、辛いよ、助けてくれ、誰でもいいから――一度でもいい、そうんで泣き喚いてみたかった」
その言葉は――傷つき、痛みに狂った人間の言葉だった。
あまりにもの籠もらないアルフレッドの獨白に、レジーナはもはや繕うことなどできはしなかったその傷の深さを思った。
「でも……そのみは葉いました。さっき、心の底から大聲でべた」
アルフレッドが見上げた空を――ばさり、ばさりと羽音を立てて、マサムネが橫切ってゆく。
その巨を眩しいもののように見上げてから、アルフレッドはぽつりと言った。
「それに――最初で最後の兄妹喧嘩もできた」
ふふっ、と、アルフレッドは自分の無様を嗤うかのように、笑聲をらした。
「まぁ、私が一方的にぶちのめされただけでしたけれど……悪くなかった。妹(・)も立派に長していたんだなとわかって、し嬉しかった――」
あまりに悲愴な覚悟を固めたと思われる言葉に、レジーナもオーリンも息を呑んだ。
ひっぐ、ひっぐ……! と、レジーナとオーリンに抱えられたままのイロハが嗚咽し始める。
「プリンセス……いや、イロハ。あなたは、あなたはきっと――」
アルフレッドがその言葉とともに、振り返ろうとした、その瞬間だった。
バリン――と、誤った世界を支えていた何かが壊れる音がした。
瞬間、海が全てを飲み込んだ。
水しぶきを上げ、轟音と暴風を立てながら。
荒れ狂い、逆巻き、そこにあるものをこそぎかき消すようにして――。
マツシマのしき海は、凄まじい力であるべき平穏を取り戻していった。
イロハの絶が、耳を劈いた。
が、が、張り裂けてしまうのではないかと思うほど、その悲鳴は長く、強く、唸りを上げる海にも負けずにマツシマを震わせた。
オーリンもレジーナも、必死になってイロハにしがみつき、支え続けた。
この小さなが悲しみにバラバラになってしまわないよう、強く――。
一、どれだけそうしていただろう。
不意に、水平線の向こうにいくつもの影が見えて、レジーナは顔を上げた。
いくつもの旗――。
九つの円を描いた旗に、に向かいし荒鷲の紋章を抱いた大型船の船団が、荒波を乗り越えてこちらにやってきていた。
ベニーランドが異変を察知したのか、あるいはマサムネが呼び寄せたのか。
迎えであろう大船団を、レジーナは無言で見つめた。
「エロハ、迎えが來たど。帰るべしよ」
オーリンが、優しい聲でそれだけ言った。
不意に――マツシマの海を風が吹き抜けた。
今しがたここで起こったことの一切を吹き消すように吹き渡った風が――しき海に漣を立てるのを、レジーナはいつまでも見つめていた。
「たげおもしぇ」
「続きば気になる」
「まっとまっと読ましぇ」
そう思らさっていただげるんだば、下方の星コ(★★★★★)がら評価お願いするでばす。
まんつよろすぐお願いするす。
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