《じょっぱれアオモリの星 ~「何喋ってらんだがわがんねぇんだよ!」どギルドをぼんだされだ青森出の魔導士、通訳兼相棒の新米回復士と一緒ずてツートな無詠唱魔で最強ば目指す~【角川S文庫より書籍化】》フトリギニ・デハル(自的に出現する)
「【怪腕】――とな?」
「左様にございます、プリンセス。強化系スキルである【闘士】の、更に上位のスキルですな。間違いありません」
急に宮殿へ呼び出されたにも関わらず、さすがの威厳というものか、神は落ち著いた口調で首肯した。
【怪腕】――あのマツシマの砂浜で、イロハに発現したというスキルは、この小柄なには似つかわしくない、厳ついとも思えるスキルなのだった。
マツシマから帰還した翌日、どうやらスキルが自的に発現したらしいと言い出された時、驚いたのはレジーナとオーリンだけではなかった。
ことのあらましを聞いた宮殿はすぐに最寄りの教會へ人を走らせ、神を呼びつけてその確認を急いだ。
通常、この國では十五歳を目処に教會に赴き、創造神から授かったスキルを覚醒させて確認するのが大人への通過儀禮となっている。
レジーナは【通訳】、オーリンには【魔導師】のスキルがあったように、イロハには強化系――つまり全の筋力を強化するスキルが発したらしい。
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「【怪腕】は【闘士】スキルの飛躍的な能力の向上に加え、更にその名の通り尋常ならざる怪力を発揮することができるスキルです。このスキルを持っていた方には武蕓でその名を殘した方が多い。剣士、格闘家、武道家……そんなところですな。いやしかし、に発現することは珍しい。プリンセスはよほど力への探究心が強かったのですかな?」
ホッホッホ、と神は半分冗談だというような口調で笑ったが、実際――その通りなのだろう。
イロハはい頃からズンダー大公として必要な力を得るために、を削って研鑽に勵んでいたのだ。
このスキルはそんなイロハを見かねて天が與えた才能――その名の通りの「力」、ということなのかも知れない。
イロハはスキル確認のための石版に右手を載せたまま、不安そうに神を見た。
「しかし――私の場合は覚醒の儀式をまだ経ていない。勝手にスキルが発することなど有り得るのか?」
「例が多いとは言えませんが、有り得ないことではありませんな」
神は白い髭をしごきながら言った。
「スキルとは要するに神が與えてくださった人間の特――生まれた頃から備わっておりますでな。我々は蹟をもってそれを呼び起こしているだけに過ぎません。元々持っていた特があることをきっかけに発することは十分にありえます」
「スキルがひとりでに(ふとりぎ)に覚醒する條件ってば何(なん)だのや?」
「そうですなぁ、強いストレス、興、怒り、悲しみ……そんなものが引き金ですな。火事場の馬鹿力、そういう言葉があるでしょう。スキルが自発的に現れるときはそのような狀況下であることが多いようですな」
「そうか……」
それでか、というようにイロハは何度か頷いた。
実の兄との真剣勝負、それに対する憤りや怒りがイロハの中に眠っていた才能を呼び起こしたのかもしれない。
何だかそれが気の毒な話にも思えて、レジーナはイロハの肩をってやった。
「まぁ、こいだけ石版ぶっ潰せば、誰でもそっちのスキルだってばわがったけどな……」
オーリンが機の上に山と積み上げられた、割れ砕けた石版を見て言った。
この石版はスキル確認に使われる魔力が込められた石版なのであるが――イロハが手を乗せる度に、まるで薄氷のようにパリンパリンと割れてしまっていた。
予備の石版を取りに行かせるため、使いの者を教會と宮殿の往復に走らせることになり、そのせいでスキルをひとつ確認するのにゆうに半日も経過してしまったのである。
イロハは恐したように自分の右手首をった。
「す、すまん……急に力の加減がわからなくなってしまってな……。これでもただ手を乗せているだけのつもりなのだが」
「いえいえ、気にすることはございませんよプリンセス。強化系のスキルを授かった方は最初は誰でもそうです。そのために何枚もこの石版の予備があるのですから」
神は上品に笑った。
「最後に――神として申し上げることがひとつございます。スキルはまさに天與のもの、神が我々人間に降ろしてくださった圧倒的な恩寵のひとつです。ですが、その力を正しく使うには健やかな人間の意志が不可欠。人を傷つけること、世界を滅ぼすことすら容易くできてしまうスキルさえ、世の中にはある」
神はまるで祈禱文を諳んじるように一息に言って、真っ白な眉の下の目を細めた。
「道を正しくお進みなされ、プリンセス。全ては人間の意志次第なのですからな。その力を世のため人のために使うか、それとも非道なる行いに用いるか、それを決めることができるのは、それを持った人間だけなのですから」
昨日マツシマで起こったことをこの神が知っていたはずはないが、なんだかその言葉は全てを見かした言葉に思えた。
己のスキルを悪用し、世界を滅ぼそうとした悲しい男の顔を思い出したのか、イロハはを噛んで何度も頷いた。
その様を見ていて、時だと思ったのだろう。
昨日起こったことを全て知っている數ない人である口ひげの男が、ぱん、と手を叩いた。
「スキルの確認はもう十分、プリンセスもお疲れでしょう。まずはごゆるりとお休みくださいませ」
そう促されて、イロハは頷いて立ち上がった。
何人かに付き添われて部屋を出ていく直前、イロハはふと立ち止まり、迷ったようにレジーナを見た。
「レジーナ。その、な」
「え?」
「そなた……は無事であるのか」
「はい? それはどういう……?」
まさか、と、やはり、の両方を滲ませたような表で、イロハは慎重に次の言葉を探したようだった。
「そなた、そなたは……あの砂浜で起こったことを覚えておらなんだのか」
「覚えていないのか、って……そりゃ全部は覚えてないかもしれないですけど、は至って快調ですよ。風邪とかは引いてませんけど」
「そうか……まぁよい。無事ならよいのだ」
なんだかよくわからない會話が躱され、イロハはそのまま沈黙してしまった。
しばらく口を閉じた後、イロハは気持ちを切り替えたような顔で言った。
「しばらく、私も休息がほしい。々と整理のつかぬこともあるのだ。そなたたちにはすっかり迷をかけてしまったな。今後の見通しが立つまでの數日間、宮殿でゆっくりと休養するがよい。必要なものはなんでも言ってくれ」
それだけ言って、イロハは部屋を出ていった。
それを見送った口ひげの男がオーリンとレジーナを見て、安堵したように眉を下げた。
「お二方にはなんとお禮を申し上げたらよいのか……プリンセスをありがとうございます。執政も將軍閣下もこれ以上なくお喜びです。篤く禮を伝えてくれと仰せですよ」
數日前の慇懃無禮な態度とは違い、口ひげの男は真面目な表で二人に最敬禮をした。
「正直に申し上げまして……またプリンセスのお顔を見れたのが信じられません。あのマツシマから生きて帰っただけでなく、トーメ伯があのようなことをしでかしたというのに。お二方がいなかったらばベニーランドは、ズンダーはどうなっていたことやら」
「あ、いえ、私たちは何も。全てはイロハ……じゃなかった、プリンセス様の頑張りの結果ですよ」
「イロハ、でいいと思いますよ。あの方があれだけ他人に心を許されるのは珍しいですから」
口ひげの男は苦笑気味に頷いた。
「プリンセスは孤獨なお方でした。父君にも母君にも先立たれ、気を許されるのは……いえ、それはもういい。あの方があんな重荷を下ろしたような顔になったのはいつぶりのことでしょうな――」
まるで親戚の子の長を喜ぶような言葉に、オーリンがレジーナを見て、し笑った。
どうやら今後、大公となったイロハが宮殿で孤獨をじることはなさそうだ。
ふう、と口ひげの男は嘆息した。
「さて、これからお二方にはマツシマでの疲れを存分に癒やしていただきましょう。古(いにしえ)より『杜の都(もりのみやこ)』と稱されしベニーランドの魅力を骨の髄までお楽しみくださいませ」
次回からるるぶ回です。
「たげおもしぇ」
「続きば気になる」
「まっとまっと読ましぇ」
そう思らさっていただげるんだば、下方の星コ(★★★★★)がら評価お願いするでばす。
まんつよろすぐお願いするす。
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