《じょっぱれアオモリの星 ~「何喋ってらんだがわがんねぇんだよ!」どギルドをぼんだされだ青森出の魔導士、通訳兼相棒の新米回復士と一緒ずてツートな無詠唱魔で最強ば目指す~【角川S文庫より書籍化】》カラポネヤミ(怠け者)

ズイホーデン離宮に招かれて、はや七日間が経過していた。

もはやここ以外の場所で生きていくことなどできないのではないか――。

レジーナは真剣にそう考え始めていた。

何しろ、食事は味しいし、しかも上げ膳據え膳。

溫泉は最高だし、しいものは何でもすぐ手にる。

この間までごく一般的な家庭での生活しか知らなかったイチ冒険者にとって、離宮での生活は天國も同然だった。

いけない、これはいけない、いくらなんでもこれ以上気が緩むと冒険者に戻れなくなる、と考えてはみるのだが、いかんせんどうしようもなかった。

苦労や不満がない狀態というのがここまで人間を墮落させるものだということを、レジーナは初めて知ったのだった。

「んああ……気持ちいい……いい、いい……」

そして今日も今日とて、レジーナはベッドの上にトドのように寢転がりながら聲を上げていた。

ぐっぐっ、と的確な場所に適度な負荷がかかるたび、レジーナのは何度でも繰り返し喜んだ。

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「ああ……そこよそこそこ……んあー、すっごぉい……」

背中にペタペタとれてくる、人の暖かさが心地よかった。

王都で、グンマーで、マツシマで蓄積した疲労質が一秒ごとに消えてゆくのがわかるようだった。

「んあー、んあー……んほぉ……いぐ、いぐっ、いぐぐぐぅん……♥」

「おいレズーナ、あんまり妙な(えぱだだ)聲出すんでねぇ。他の人(ふと)がびっくり(どでん)するべや」

近くにいるオーリンが嗜める聲で言ったが、知ったことではない。

第一この聲は出そうと思って出しているのではなく、勝手に出てくるのである。

「だってこのスライム、最高のテクニシャンなんですよ……先輩だって知ってるでしょう……」

レジーナは目だけをかし、背中にまとわりついているスライムの塊を見つめた。

このズイホーデン離宮に専屬のリラクゼーションスライムは、大した知能もなかろうにこと手捌きに関しては殊更に匠であった。

何人のコリを癒やしてくればこんな絶技を獲得できるのか、と疑いたくなるほどの手練手管でコリを解し、ツボを刺激してレジーナを悅ばせる。

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できることならこのスライム、家にも是非しいぐらいであった。

「んぐぇ……あー、もうダメ、もう絶対元に戻れない……もう立って歩くことすら厳しい気がする……」

「こりゃ、あんまし滅多な事言う(しゃべる)んでねぇよ。冒険者が冒険心忘れたらただのろくでなし(はんかくせ奴)だべ」

「んむぅ……そういう先輩だって隨分リラックスしてるじゃないですか……」

レジーナは顔を起こし、隣のウッドデッキにいるオーリンをけた目で見た。

オーリンはゴージャスな一人用のジャグジーに大きく腕を放り出して背中を預け、晝間から優雅にワインなぞ飲んでいる。

全く、殊勝なことを抜かしてけつかるくせに、自分だって全力で快楽に浸っているではないか。

「馬鹿お前(おめぇ)、これは戦士の休息って奴だべね。こいでも俺(わ)は冒険者の心構えは忘れでねんずや。いづだって死地さば赴く覚悟ばでぎでんだぜ」

「その訛りで言うことには思えませんね全く……んあー、スライムさん、そこそこ、肩が、肩がこるんですこのは……それなりのものが二つついてるんで。もっと強めで……」

「とにかぐレズーナ、こごさあんまり慣れすぎればまいね。そんでねぇばお前(な)、単なる怠け者(からぽねやみ)さなって終わりなんだじぇ」

「同じからぽねやみさんからのご意見、真摯にけ止めておきます……んあー、んあー、き、気持ちいい……いぐ、いぐぐぐぅ……おほぉ……♥」

「ここにいたのか、オーリン、レジーナ」

と――不意にイロハの聲が聞こえ、ん? とレジーナは顔を上げた。

タオル一枚をに巻きつけた狀態でベッドの上で聲を上げる、パンツ一丁で風呂に浸かっている男とを順に見つめたイロハは、ほんのしヒいたような表を浮かべた。

「まぁ、ここに招いたのは私だがな……だがそなたら、いくらなんでも全力でくつろぎすぎではないのか、人の離宮で……」

「んあっ、ごめっ、なさっ。んああ、本當にご迷を、おかけ、やまかけ、んあああ」

「はぁ……もうよい。ところでそなたらに報告がある。悪いがスライム、席を外してくれ」

その途端、ぴたりと手を、というか、どこかを止めたスライムはニュルンと丸い狀態に戻り、ぴょんぴょんと去っていった。

「んああ、ま、待って……!」と抗議の聲を上げるレジーナにも構わず、イロハは話し始めた。

部調査の結果が出た。アルフレッドの私室、そしてチェスナットフィールド家の屋敷、友関係、文書などを當たってみたが……詳しいことはわからなんだ」

アルフレッド。その言葉に、流石にレジーナも正気に戻った。

を起こし、ベッドの上に胡座をかいて座り込む。

「だが確実なことがひとつある。そこな犬、えーと、ワサオだったか」

「ワン!」

足元でどでかい牛骨をかじっていたワサオが顔を上げた。

「オーリンよ。聞くところによるとワサオはアオモリの犬だそうだな?」

「まぁ、そごは俺(わ)も気になってはいだんだ」

オーリンが先回りの口を開いた。

「っつうごどば、あの護衛はアオモリさ行ったごどがあるってことだ。何をしさ行ったのがはわがんねども、確実なのはそいっだけだな」

「その通り、アルフレッドはアオモリに行ったことがあるのだ。そうでなければワサオをそのスキルで呪うことなどできはしない」

イロハは大きく頷いた。

「そこで調査してみたのだが――案の定、アルフレッドは半年前に約一ヶ月間の休暇を取って、その間はチェスナットフィールド家の実家に帰省していることになっている」

イロハはしだけ目を細めた。

「無論、チェスナットフィールド家に確認を取ってみたが……私に召し出されてからの四年、アルフレッドは実家には帰っていないという返答だった。ということは、その時アルフレッドはアオモリに行っていたことになろう」

ふーっ、と、オーリンが溜め息をつき、顎に手を添えて考える雰囲気になった。

よく見ればはっとする程の青年であるから、深い憂いを湛えた表はそれはそれで絵になる――パンツ一丁でなければ。

「アオモリってば大陸一番の辺境だ。わざわざ観ってわげでもねぇべし……何しさ行ったんだ?」

「當然、私もそこが気になった。そこで、我々ズンダー大公家は大陸の各地に張り巡らせた諜報網を使ってアルフレッドの足跡に関する報を収集した。そこでわかったことがひとつある」

「なんだや?」

オーリンが顔を上げた。

イロハはし沈黙してから、低く言った。

「なんでも半年前、アルフレッドと思われる青年が――ヴリコ大森林近くの旅籠屋に逗留した記録がある、と」

「ヴリコ――?」

レジーナが思わず問うと、オーリンが代わりに説明した。

「大陸西の辺境だ。アオモリさも近い、亜人種が多く住む場所だずな。広大な(おそろすねぇ)深い森と鉱山に囲まれで、そごさ住む獣だぢは太古のままに大きぐ、兇暴だど――聞いだごどがある」

ヴリコ。そう言えばレジーナもその名前に関する知識が全く無いわけではない。

大陸西に連なる長大な山脈と深い森に阻まれ、人の往來が盛んではないヴリコには、古くから人類に住処を追われた亜人種――要するにエルフたち――が住んでいるという。

「ヴリコ人」――と、大陸では伝説的に噂されるエルフ。

人間より遙かに長命、しい容姿を持ち、森と靜寂をすると言われる彼らは、一方で極めて人間嫌いの種族としても知られており、大陸にもその姿を目にした人間は極めてないと聞く。

そんな辺境に何故――? そう考えているのは、オーリンもイロハも同じなのだろう。

オーリンはしばらく黙考した後、諦めたように首を振った。

「ダメだな、考えても仕方(すかだ)ねぇ。なんでそんな辺境さわざわざ寄ったのがは知ゃねども……これ以上の手がかりはねぇんだべ?」

オーリンの言葉に、イロハは頷いた。

ふーっ、と、オーリンは長く溜め息をついた。

「レズーナ」

「はっ、はい!」

「あんまりばやばやどもすてられねぇ。次の行き先は決まったど」

いつの間にか――オーリンの言葉にはさっきまでの腑抜けたではなく、れっきとした中堅冒険者の闘志が戻っていた。

オーリンは覚悟が決まったような目で言った。

「とにかぐ、ヴリコに行ってみるしかねぇ。それに、ヴリコの獣だぢもられでいだったどすれば、ヴリコが今どうなってんのかもわがんね。一度(ふどぎゃり)行ってみんべや」

ああ、いけない、忘れていた――。

オーリンの聲に、レジーナはし自分を恥じるような気になった。

自分は本當に忘れかけていた。

これはみちのくのリラクゼーションのストーリーではない、冒険のストーリーであることを。

自分は何故ここにいて、どこを目指しているのか、それを見失った冒険者は最早冒険者ではない。

しっかりしろ、レジーナ・マイルズ、もう揺り籠の中ではないのよ――レジーナが自分を叱っていたときだった。

「そなたたちは行くのか。その……ヴリコ大森林に」

ん? とレジーナは顔を上げた。

イロハはしだけ何かを言いたげにオーリンとレジーナとを互に見つめている。

「當然だべや。行がねぇどわがんねこどば沢山(のっつど)あるべよ」

「そうか、そうだよな……」

なんだか――歯切れの悪い言葉だった。

そう言ったイロハの表は、今まであまり見たことのない表――。

まるで母親に叱られた後、「もういいよ」と言ってくれるのを待っている子供のよう。

確実に何かの言葉を待っているイロハの表に、レジーナが何かを察したときだった。

「大丈夫だ、お前の兄貴の仇はきっと取ってやるでば」

オーリンがし大きな聲で言った。

「なも俺たち(おらだ)を心配する(あんつがる)ごどはねぇ。エロハ、お前(な)は自分の仕事ば一番(いっとう)に考れ。お前(な)はズンダー大公の姫さんなんだど。アレッコレッど余計なことば考えるごどはねぇ。俺(わ)どレズーナとワサオで、きっと解決すてくる。良(い)な?」

その聲は、イロハを叱るような聲に聞こえた。

そうじたのはイロハも同じだったらしく、イロハは一瞬、なんだか突き放されたような表でオーリンを見つめ、口を薄く開きかけた。

だが――それ以上はなにも言うことなく口を閉じたイロハは、「そうだな……」と、たったそれだけ、絞り出すように呟いた。

俺と、レジーナと、ワサオで――そうオーリンがわざわざ聲に出して言った、その理由。

その理由になんとなく思い當たったレジーナは、思わず「あの、先輩……!」と口を開こうとした。

それと同時に、オーリンがジャグジーから立ち上がった。

わざとそうしたと思える大きな水音に、レジーナの言葉が半ば掻き消された。

「さ、そうど決まればさっさと(ちゃっちゃど)準備するべ。エロハ、悪いが離宮はもう終わりだ。宮殿に戻るべ。馬車ば手配すてけろ」

事務的にそう言って、オーリンは傍らに畳んであったバスローブに手をばした。

まだなにか言いたげにちらちらとオーリンを見つめるイロハの視線にも応えず、オーリンは無言のままだった。

結局、イロハが何かを諦め、部屋を出ていったのは、それからしばらく経ってのことだった。

「たげおもしぇ」

「続きば気になる」

「ヴリコ……フフン、あそこのことだな」

そう思らさっていただげるんだば、下方の星コ(★★★★★)がら評価お願いするでばす。

まんつよろすぐお願いするす。

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