《じょっぱれアオモリの星 ~「何喋ってらんだがわがんねぇんだよ!」どギルドをぼんだされだ青森出の魔導士、通訳兼相棒の新米回復士と一緒ずてツートな無詠唱魔で最強ば目指す~【角川S文庫より書籍化】》オッリョオオオオオオア!!(あら、本當に久しぶり!!)
「え――? アンタ、オーリン? オーリンなの?」
イタコのがむっくりと起き上がり、びっくりしたような表でオーリンを見つめた。
姉ぢゃん、という言葉に、イロハはぺろぺろとバヴァヘラを舐めながらオーリンを見上げた。
まるで亡霊を見たように直した後。
オーリンは急に我に返ったような表になると――くるりと踵を返し、全速力で疾走、否、逃走を開始した。
「あっ、ちょ、先輩――!?」
レジーナがんだその途端だった。
ワサオを脇に退け、素早くを起こしたトキは、凄まじい勢いでその姿を追って駆け出した。
「まぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁでぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇえええええ!!」
まるで地獄にいるという奪婆のような金切り聲が荒涼とした空気を震わせた。
便所のそれと大差ないつっかけサンダル履きでどうしてこれほどの推進力が、と仰天したくなる勢いで、トキはあっという間にオーリンの長に薄すると、地面を蹴って跳躍した。
一瞬、トキのが真っ白な大地を背景に一本の線を描いた後――。
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綺麗に揃えられた両足の裏がオーリンの背中を捉えた。
ぎゃあ、という悲鳴とともに、オーリンは派手に吹き飛んだ。
白い砂埃を巻き上げ、錐み回転で數メートルも地面を転がったオーリンは、それきりパッタリと沈黙した。
突然の出來事に、レジーナとイロハは一度顔を見合わせ、その後再びオーリンを見た。
え、死んだ――? レジーナが不安になりかけたとき、うう、とうめき聲を上げ、オーリンがを起こした。
「いだだ……! んな――七年ぶりさ會った弟さなんてごどすんだば、姉ぢゃん!」
「なんてごどもへったぐれもねぇべや! この馬鹿(もつけわらし)がこのォ!!」
突然、イタコの――いや、トキの口から、先程の流暢な王都の言葉が消失した。
「父っちゃど母っちゃがらも聞いでらんだどォ! 王都で冒険者さなる、アオモリの星コさばなるってアオモリばふんじゃらって七年もけらねぇホジナシ息子めがってな! 手紙もよごさねぇ、土産もよごさねぇ、生ぎでらんだかくたばってまったんだがさっぱどわがんねくてまいねってあんだ喋らいでんだど! 第一あんだなすてヴリコなどにいんのへ!? あらほどぶじょほこぎ回した癖に冒険者まいねぐなったんだが!」
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「う……! て、手紙ぐれぇわだって書いでらってばな! 冒険者もあんだがさこんだがさってあったどもまだやってらよ! そ、そりゃ最近でばわんつか無すてらがもわがんねども、えさば仕送りだって毎月すてらべや! わごど親不孝みでぇにしゃべねぇでけらいな!」
「じぇんこだっきゃ送ってれば七年も顔も見へに來ねくてもいいってすんだが! あんだが親不孝でねばなんだってへるのひゃ! まっだぐ、みんなみんなしんぺすてらのにこのバッガ弟は……! あんだのけやぐもへってるんだど、オーリン大丈夫だべが、かみでまめしぐしちゃらんだべがってね! そいなのにあんだがらあんまり音コねぇがら、キヅクリ町のトシ君なんかあいづかみで死んだんでねぇべがって喋ってらったね!」
「と、トシがそったごと喋たってが……! あのよげしゃべりめ、ふとさなんて縁起でもねぇごどを……!」
痛っ! とレジーナは鋭い痛みをじてこめかみを押さえた。
イロハが心配そうにレジーナの顔を覗き込んだ。
「んお? どうしたのだレジーナ? 大丈夫か?」
「あ、いや……ゴメン、ちょっと立ちくらみ」
なんと――二人分の呪文が【通訳】のスキルの許容量を越えたらしく、通訳が機能しなくなっているではないか。
こうなれば如何にレジーナと言えどオーリンと意思疎通は不可能、ただただイロハと同じように、二人の口から高速で放たれる呪文を前に唖然呆然としているしかないのだった。
お互いの近況報告――いや、近況報告だったと思われる言葉をかわしてから――はっ、とトキは不審な表になった。
「え……まさかオーリン、アンタ王都でも今みたいなズーズー弁で會話してるわけ?」
ああよかった、片方は戻った……と安堵したレジーナとは裏腹に、オーリンがぎくっとした表になった。
それを見て、ハァ、とトキは呆れたように頭を掻いた。
「アンタねぇ……」
なんだか、さっきまでの雰囲気とは全く違う、ふてぶてしいまでの態度で、トキはまだ地面に転がったままのオーリンの前に、を割ってしゃがみ込んだ。
さっきの憤怒の表とも違う、その筋の人間のような眼と殺気を放ちながら、トキはオーリンの顔を睨めつけて吐き捨てた。
「何度も言ったろ、オイ。アオモリの言葉は王都では通じないの。アンタが王都に行く前、魔法磨く前に言葉磨かないとやってけないよって何回教えた? ん? 何回教えたか言ってみ?」
「う……」
「う、じゃねぇ。言ってみろってんだよ。何回、私が、アンタのことを思って、言葉のことを、教えましたか?」
「ね、姉ぢゃん、堪忍(かに)してけらい、俺(わ)だってこいでも努力はすたんだ……!」
「努力って言うのはな」
ぐい、とトキはオーリンの前髪を摑んで揺さぶった。
その眼、口調、雰囲気――全てが真実、その筋の人間のそれである。
「実を結べばそりゃ努力だよ。結ばなきゃ単なる無駄だ。結びましたか?」
「ひ、ひぃ……!」
「アンタのこの頭には一何が詰まってるんですか? りんごジュースの絞りカスでしょうか、それともカラッポでしょうか。振ってみるか? きっと音がするぞ。ほら、カラカラカラカラ~」
「いだだ……! ね、姉ぢゃん、痛い……!」
「あれ、おかしいな音がしないな。もっと強めに振ってみよう、ほら、カラカラカラカラ~」
「かっ、カラカラ……!」
「よく聞こえないな。仕方ない、頭の皮が剝けるかもしれないけど全力で振ってみよう。どうするんだ、なぁ、ホラ鳴ってみせろやオイ!」
「かっ、カラカラカラカラー! カラカラカラカラー!!」
「あっ、あの、勘弁してあげてください! その人、ウチのパーティメンバーなんです!」
思わずレジーナが仲裁すると、ん? とトキが振り返った。
「パーティメンバー?」
「そ、そうなんです! 私たち、あの、こっ、この子とワサオも、一応冒険者パーティで……!」
「そっ、そうそう! 我らは仲間なのだ!」
咄嗟にイロハまで加勢して詫びを乞うと、トキが全で長い長いため息をついた。
「こんな可い子が二人も? ……ちっ、種馬め。上手くやったな」
とっておきの憎まれ口を呟いて、トキはオーリンの前髪を離した。
指に絡みついた黒髮をさも汚いものであるかのようにはたき落としてから、トキは立ち上がった。
「そうかそうか、一応冒険者は続けてるんだ。それに免じて言葉の件は許してやる。いつか王都で見つけたら二度と盛り上がらないぐらい鼻を潰してやろうかと思ってたが、それもチャラにしてやる」
「は、鼻を……!?」
「ありがとうね、こんなデキの悪い弟と一緒に冒険者なんかしてくれて。あんた、ええと……」
「あっ、レジーナです、レジーナ・マイルズ! この子はイロハ!」
レジーナが慌てて自己紹介すると、一転してトキはニンマリと笑顔になった。
「あーよかった、こんなズーズー弁喋ってても、なんとか打ち解けられる人もいたんだねぇ。世間にがある人がいてくれてよかったよ」
満足そうに頷いたトキの足元で、オーリンがやっとこさ胡座をかいて座り込んだ。
大陸の中でこの人だけには會いたくなかった――その表は明確にそう言っている。
「あの、先輩。この人、トキさんは、え……?」
「……姉ぢゃんだって喋ってらべな。俺(わ)の四つ歳上の、実の姉ださな」
これ以上きまりの悪い表はできまい、という顔でオーリンはボソボソと言った。
「姉ぢゃんはイタコだ。オソレザンで修行した、アオモリ獨特の死霊師(ネクロマンサー)……それがイタコだ」
「や、やっぱりネクロマンサーなんだ……」
「そうだよ。イタコは口寄せっていう降霊で世渡りをするんだ」
トキは流暢に説明した。
「私は死霊師のスキルを持ってるからね。數年オソレザンで修行してからアオモリを出たんだ。それで大陸中を旅してスキルを磨き、人の役に立つ。それがイタコの仕事だよ。まぁこれでも年に一度は帰ってるけどね。七年間いっぺんも故郷に帰らないどっかのホジナシよりずっと立派な生き方なんだよ」
「う……ほ、ホジナシって……!」
「あん? 不満か?」
「い、いや、なんでもね……」
「へ、へぇ、凄いですね。降霊、ですか……」
兎にも角にもレジーナが心すると、トキがあっと何かを思い出した表になった。
「あ、そうだそうだ。オーリン」
「……なんだや?」
「アンタには伝えてなかったけど、私、結婚したから」
そう、結婚。そりゃおめでたい……一瞬、オーリンは淺く頷きながら視線を橫に反らしかけて……。
次の瞬間、ぎょっ、と姉を見上げた。
「うぇ、け、結婚――!? いづさ!?」
「半年ぐらい前かな。手紙では父っちゃ母っちゃに伝えてあるけど。今はアオモリに挨拶しに行くところなの。どうだお前より先に片付いてやったぞ、羨ましいだろ」
ニヤニヤと下卑た視線でトキはVサインを作った。
オーリンは立ち上がって姉に詰め寄った。
「そ、そすたら大事なごど、何故(なして)俺(わ)さしゃべねぇのさ!? 聞いてれば俺(わ)だって祝いのお金(じぇんこ)ぐれぇ包んだのに……!」
「バカ今更家族思い発揮すんな。七年も帰らなかったからアンタの存在を忘れかけてたのよ。家族追放、君は今日限りでジョナゴールド家を出ていってくれ」
「や、やめろじゃトラウマが蘇るっきゃの! いいがら冗談へんなってや! そ、そいで、旦那殿はどさば……!?」
オーリンがきょろきょろと辺りを見回したが、周囲には人っ子一人いない。
レジーナもそれらしい男の姿は見ていなかったが……話を聞くに、トキの旦那は一緒にアオモリに挨拶しに行く途中であるはずだった。
オーリンの挙に、トキは呆れたように腰に手を當て、親指を立てて背後を示した。
「何よ、最初からずっとここにいるじゃない。ほら」
ほら、と言われたオーリンはトキの背後を見た。
レジーナもイロハも目を凝らすが、そこには誰もいないし何もない。
ただ唯一、ワサオだけが――怯えたように尾をに挾んで、何もない空間に向かって唸り聲を上げているだけだ。
ほぼ同時に、レジーナもイロハも、その想像に至ったようだった。
「れ、れ、レジーナよ、そっ、そなた、なにか見えておるか……?」
「み、見えない見えない、みっ、見えなくていい……!」
イロハの震え聲に、レジーナも同じぐらいの震えた聲で返した。
オーリンが目を點にしてトキを見つめる。
「え?」
「え、じゃない。なかなか彫りの深いイケメンでしょ? 上手くやったわよ私も。 ――ん、ちょっと待って、何?」
トキが何者かに話しかけられたで背後を見た。
それからトキはしっかりと虛空に視線を結び、うん、そう、わかってるわかってる……と何かと會話をしてから、オーリンに向き直った。
「アンタみたいな素敵な青年が義理の弟で嬉しい、いつか一緒に飲もう、だってさ」
幸せいっぱいの笑みを浮かべるトキとは対象的に、オーリンの顔が蒼白になった。
まさか――レジーナは常識では有り得べからざる景に震えた。
まさか、まさかこの人の結婚相手って――とレジーナがその想像に思い至った途端、きゅう、と音がして、レジーナは隣を見た。
人一倍の臆病者で怖いものはからきし。そのことはわかっていたはずだった。
一切のを失ったイロハのが半開きになり、そこから何か煙のようなものが立ち上ったのが見えた気がした。
あ、と思った途端、イロハの目の玉がぐりんと上を向き、顎が上を向き、風に吹かれてその小さなが見る間に橫へ橫へと傾ぎ出した。
「ああっ、ダメよイロハ! 戻ってきて――!」
その後は、戻ってこい戻ってこいの大騒ぎになった。
「たげおもしぇ」
「続きば気になる」
「まっとまっと読まへ」
そう思らさっていただげるんだば、下方の星コ(★★★★★)がら評価お願いするでばす。
まんつよろすぐお願いするす。
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