《じょっぱれアオモリの星 ~「何喋ってらんだがわがんねぇんだよ!」どギルドをぼんだされだ青森出の魔導士、通訳兼相棒の新米回復士と一緒ずてツートな無詠唱魔で最強ば目指す~【角川S文庫より書籍化】》ジェンコ・ダヘ・ドゴサ・アンズヤ?(金を出せ、どこにあるんだ?)

「5萬4800ダラコ……ちっ、シケてんな。お前ら三人合わせてこんだけしかねぇの? ハーレムとか夢見てねぇでちったぁ真面目に稼げよな」

白茶けた大地にパンツ一丁で土下座させられている死霊師三人に向かい、トキはやさぐれた目と聲で吐き捨てた。

しこたま毆られ、痛めつけられ、に剝かれ、公衆の面前で土下座させられ、謝料として有り金まで巻き上げられているのだから、如何にふっかけてきたのがあちらとはいえ、この死霊師三人は相當に気の毒な狀態ではある。

だがしかし、全だけは免れているところを考えただけでも、これはあくまでけをかけた結果なのだと思わざるを得ない迫力がトキにはあった。

しばらくしてあらかたの銭勘定を終えたらしいトキの表と空気が、幾分か平靜のそれに戻ったような気がした。

「さてお前ら、顔上げな」

その聲に、死霊師三人はおそるおそる、というじで顔を上げた。

それと同時に、遠巻きにそれを眺めている観客の視線が一斉に三人に集中した。

「ケジメがついたら次は事聴取の時間だ。なんでこんなバカなことを始めた? 奴隷ハーレムがどうのこうのとのたまってたが、死霊の私的な悪用はご法度のはずだ。こんなことがお前らの師匠に知れたら破門じゃ済まないだろうが。よほどの事があったんだろ?」

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呆れとけなさが半分ずつ、という表ではあったが、言い聞かせる口調であった。

貫祿の死霊師としての聲で、トキは戸わの表の三人に語りかける。

「いいから話してみろってんだよ。聞くぐらいは聞いてやる、先輩としてな」

死霊師三人は、しこたま毆られ、ボコボコに腫れ上がった顔を見合わせた。

そのうち、ニキビ面をボコボコに腫れ上がらせたケンちゃんが口を開いた。

「俺たち――イバラニから出てきた死霊師で……。十五歳のときです。俺たち、あの、死霊師のスキルがあるとわかった時點で、周りから爪弾きにされるようになってしまって……」

ケンちゃんは肩を落とした。

その言葉に、やっぱり、というようにトキは眉間に皺を寄せた。

「気持ち悪い、不気味だ、近寄るなとすら言われました。今まで普通に遊んでたはずの友達まで、俺たちに死霊師のスキルがあるってだけで、仲間はずれにして、遠巻きにするようになって……」

ケンちゃんは膝の上で握り拳を握った。

「こんなの……こんなのって、酷いじゃないですか。俺たちはみんな好きで死霊師のスキルを持ってるわけじゃない。死んだ人間の聲なんて聞きたくなかった。霊なんて見たくなかった。なのに俺たちには見えるし聞こえてしまう。そんな俺たちを周りの連中は骨に気持ち悪がるんです。死んだ人間より、生きてる人間の方がよっぽど怖くて嫌だ――」

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つらい過去を思い出したのか、ぐすっ、と三人のうちの誰かが洟を啜る音が聞こえた。

かつて【通訳】のスキルが覚醒したときの事を思い出し、レジーナは今までとは違う視線で三人を見つめた。

「だから、やり返してやることにしたんです。嫌われるこの才能を使って自分たちのことを気持ち悪がった連中――特にを奴隷にして、やられたことを倍にしてやり返してやろうと思ったんです」

ケンちゃんは震える聲で怨嗟の聲を吐き出した。

「どんな厳しい修行にだって耐えました。どんな悪口だって聞こえないふりをしました。いつか俺たちを馬鹿にしたお前らを奴隷にして、俺の靴を舐めさせてやる、いつか吠え面かかせてやる。その一念があれば修行なんて怖いことはなかったっす。三年の修行を終えて、俺たちは復讐のためにイバラニを――」

「バァカ」

トキが鋭く言い放った。

容とは裏腹に、もういい――と、そうストップを掛ける聲に聞こえた。

ケンちゃんが言葉を飲み込み、過去の話が途切れた。

ふーっ、とトキは長い長いため息をつき、それから頭を掻き毟った。

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「……死霊は尊い技。斷ち切れてしまった人と人との因果を繋ぎ直す事が出來る才能。他の誰にもバカにされる謂れはない、まして嫌われる由なんてない……なんてな。綺麗事だよな、ホント」

その聲に、戸いつつも三人が顔を上げた。

「世間様は殘酷だよなぁ。てめぇが理解できない人間はハブいて涼しい顔だよ。見えぬものが見え、聞こえぬものが聞こえるお前らの才能を、誰も凄いとは言ってくれなかった。それどころか気味が悪いとさえ言った。わかるぜその気持は。死霊師なら誰だってそうさ。けどな――」

トキは三人の前にしゃがみ込み、「ん」と右手の甲を差し出した。

三人がトキの顔と手の甲に視線を往復させる。

トキの手の甲には、りむけて出した痕があった。

「お前らをボコった時に切れちまった。毆ったら毆ったで自分のも流れる、暴力ってのは絶対にそうなるもんだ」

妙に優しい聲で、トキはそう諭した。

先程の鬼神のような聲と表からは思いもつかない慈のある聲に、三人の死霊師たちの表が、戸いから驚きに変化した。

「辛かった、苦しかった、何よりも悲しかった――そうだよな? わかるさ、私にだって、死霊師なら誰でもな。誰も彼も離れていった。誰も側に寄ってきちゃくれなかった。死霊の才能があったってだけで、お前らは最底辺になった」

トキは地面に視線を落とした。

三人のつらい経験をめるかのような口調で、トキは続けた。

「ムカついたから、お前らはどいつもこいつも叩きのめしてやることにした。何しろ死霊は嫌われちゃいるが強力なスキルだ。腕ずくで叩きのめそうと思えば呆気なくそう出來る。自分たちには力がある、そう気がついたお前らは案の定思い上がった。やり返してやろうと思った、そうすりゃ明日食うメシが旨くなると思った――」

ぐすっ、ひっぐ……という押し殺した嗚咽が三人から聞こえ始めた。

腫れ上がった顔が涙に濡れ、洟が垂れて、固まりつつあった鼻を溶かして凄いになる。

「けどなお前ら、それじゃあダメなんだよ」

トキの聲に力が籠もった。

「てめぇを嫌う連中を痛めつけて、それで何になるよ? 毆ったら毆ったで自分の手も痛ぇ、それが暴力ってもんだ。奴隷を囲っていい気になるお前らに人は寄って來るか? そんなわけねぇよな。それどころかますます離れていくはずだ。そのループにハマっちまったら――人生がますます地獄になるだけだぜ」

それは、明らかに経験の話をしている聲だった。

トキも、アオモリ一の暴力と言われたトキにも――恨みから滅多矢鱈に周りを傷つけてやろうと、そう思った時期があったのだろうか。

「お前らはこのままだと一生幸せになんかなれねぇよ。奴隷ハーレムなんて作っても絶対にお前らの人生はバラにはならねぇ。なんでだかわかるか?」

三人の死霊師は泣きながら一斉に首を振った。

辺りに涙とか鼻水とか、いずれにせよ何らかの分泌の飛沫が飛び散った。

「そりゃお前らが間違ってるからだよ。お前らがやるべきことは復讐でも奴隷ハーレム作りでもなかった、ただただ赦してやることなんだからよ」

赦す?

その言葉に、三人の死霊師は意味を測りかねたかのようにトキを見た

「お前らがなかなかのアホなのは間違いない。けどお前らを嫌う連中はお前らよりもっとアホだった、それだけなんだよ。それは死霊の本當の凄さを知らないからじゃねぇ。お前らを死霊師ってだけでしか見てないから、偏見だけで人をハブきやがった、それが真実だ」

トキの言葉に力が籠もる。

口調こそ違うけれど、それは先程、ここで子を亡くした母親をめたときと同じ聲だった。

「けどな、死霊師であることだけがお前らの全てなのか? 持って生まれたスキルこそ人間の価値の全てか? 違うだろうが。人間はそんな淺い価値観で図れるものじゃねぇ。だからこそ、お前らは意地張って意地張って、自分たちをハブいてくる連中を、スキルや腕っ節じゃなく、ここでだ」

トキは親指で自分のを指さした。

「ここで、心でだ。赦してやらなきゃならないんだよ」

口調こそ口調だったが、トキの聲はまるで聖母のそれとしか思えなかった。

全ての苦しみや悩み、悲しみさえ吸い取って抱き締めるかのように、トキは教え諭した。

「それだけじゃねぇぞ。ブサイクな自分、モテない自分、いい歳して奴隷ハーレムとか抜かしてる自分、にボコられて土下座してる自分……お前らが一番に赦さなきゃならないのは、実際のところ、人から嫌われる死霊師であるてめぇ自なんだよ――」

自分を赦す――その聲は、まるで傷口に薬を塗るかのように、人をはっとさせる響きがあった。

三人の死霊師のが、まるで雷に打たれたかのように震えた。

トキはを大きく割り、首だけを亀のように突き出し、三人の死霊師の前にしゃがみ込んだ。

腫れ上がり、涙と鼻水で二目と見られないはずの顔をゆっくりと眺めてから、トキはニカッというじで笑った。

「いいか、これに懲りたら、世間様への復讐みたいなつまんねぇことは金際考えるんじゃねぇぞ。心まで日歩くのはやめな。張って立て。お天道様に顔向けろ。前向いて歩け。……世間まるっと赦せるぐらい、めっちゃデカい男になれや、な?」

わぁぁぁっ、と、三人の死霊師は地面に突っ伏して泣き始めた。

それを見ていた観客が足早に立ち去っていくのにも関わらず、三人の死霊師はわんわんと、聲を張り上げて泣き喚いた。

「んだよけねぇな、何も泣くこたないだろ。もういい。明日から新しい人生始めな。今日のことはそれでまるっとチャラにしてやるからさ」

「ぐずっ……! あ、ありがとうございます! こんな俺らにそんなもったいない言葉……! ありがとう……! 巫様、トキさん……い、いや、姉!」

その言葉が飛び出した瞬間、トキの顔が妙に妖しくけた――ように、レジーナには見えた。

うわぁ言っちゃった、というようにオーリンが顔をしかめたところを見ると、まんざらレジーナの見間違いというわけでもなさそうだ。

「姉! 死霊を褒めてくれたのはあなたが初めてです! それだけじゃない……俺、俺、人にこんな優しいこと言われたのは初めてだ……!」

「俺、もう奴隷ハーレム作りはやめます! 俺、俺、あなたみたいなデカい人になりたいです、姉!」

「俺らがまた道に外れたときは遠慮なくぶん毆ってください! いや俺たち、姉にだったら何度でも毆られたいですッ!」

と口々に言われる度に、トキのが甘く電するかのように痺れた。

頬にぽうっと赤みが差し、口元が緩み、今まであんなに険があった表がトロトロになってゆく。

どうやら相當にじているらしい様子のトキは、ふらふらと頭を揺すって後ろを向き、服の袖で口元を強く拭った。

「ぐ……も、もういいよ。ホラ服著ろって。あと化粧水は買えよ。デカい男になるためにはスキンケアも重要だかんな? それじゃ解散解散。いい男になんなよ」

はい! とまるで子供のようにいい返事をした死霊師たちは、何故かその場では服を著ることなく、垢染みたローブを抱えて歩き出した。

どういうわけなのか、さっきまでけなく丸まっていた背中がしゃんとびている。ぎょっと脇に寄る観客をも押しのけて、ほぼ全であることにさえ誇りをじているかのように、その歩みは凜々しかった。

その姿が小高い丘の向こうに消えたところで――トキの纏う雰囲気が完全にもとに戻った。

しばらくなんと聲をかけようか迷っているレジーナの橫で、オーリンがふん、と鼻を鳴らした。

「どすたんだば。隨分ど丸ぐなったねが、姉ぢゃん」

丸くなった? あれでか?

驚きの一言にレジーナはオーリンの顔を見た。

「ケンカば吹っかけできた連中相手に腕の一本も折っちょらねぇどごろが、あんな(あった)有り難ぇ説教まですてけんだが。元ツガル卍連合の頭がそいでいいのがい。昔の仲間たち(けやぐだ)が見だらなんぼ日和ったべって笑うべじゃよ」

「もうカタギだって言ってんだろ。それにあいつらのことがわかんないわけじゃないからね。死霊師はみんなああいうじよ」

トキは三人が消えていった丘の方を眺めたままだ。

なんだか、その口調は今しがたの三人を憐れむかのような口調だった。

「邪魔にされて、爪弾きにされて、いじめられて――オソレザンにもカワラケ地獄にも、卍連合にもそんな連中ばっかりだった。元・頭なればこそわかってやんなきゃいけない事ってのもあんのよ――」

その一言に莫大な浮世疲れを滲ませて、ふぅ、とトキはため息をついた。

そしてトキはオーリンをじっと見て、ほんのし、責めるような目をした。

「自分の価値を認めてくれる人間が隣からいなくなったら、誰でもああいう風に歪むわよ――あの子みたいに、ね」

その言葉を不審に思ったのはオーリンも同じらしく、オーリンは「どういう意味だえ?」とし大きな聲を出した。

「あの子って誰だね? アオモリさ――何があったのが。教えろ(すかへろ)じゃ」

にわかに詰問口調になったオーリンに、トキはほんのし視線を伏せた。

しばらくどう切り出そうか迷ったような無言の後、トキは口を開いた。

「オーリン。アンタ、カズ君のことは覚えてるわよね?」

カズ君? やはり大陸で一般的ではない響きの名前に、オーリンはし意表を突かれたように目を見開いた。

「……忘れるわげねぇべな。俺(わ)の親友でねぇが。カズがどうしたってな」

「オーリン――もうカズ君は、昔のカズ君じゃないわ」

「昔のカズではぁねぇ? どういう意味だ?」

トキは再び沈黙し、意を決したような表で口を開いた。

「アイツ――殉教者とかいう連中の仲間になったらしいわよ」

「たげおもしぇ」

「続きば気になる」

「まっとまっと読まへ」

そう思らさっていただげるんだば、下方の星コ(★★★★★)がら評価お願いするでばす。

まんつよろすぐお願いするす。

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