《じょっぱれアオモリの星 ~「何喋ってらんだがわがんねぇんだよ!」どギルドをぼんだされだ青森出の魔導士、通訳兼相棒の新米回復士と一緒ずてツートな無詠唱魔で最強ば目指す~【角川S文庫より書籍化】》ケヤグ・サ・メグマエル(仲間に恵まれる)

「カズが――!?」

オーリンの相が変わった。

それを見たトキはしだけ気の毒そうな顔になり、明後日の方向に視線をそらした。

「姉ぢゃん、詳しく説明して(しゃべって)けで。殉教者って何なのや? アオモリで何が起ごってんだば?」

トキはため息をつき、しばらく言いたいことを頭の中にまとめるように無言になった。

「詳しくは私にもわからないわよ。とにかく何か、この國で信じられている通常の神々とは違う神を信仰してる連中、或いは教団……ってことは間違いないわ」

トキは故郷がある方角であろう東と北の方角の空を見つめた。

既に日は大きく西に傾きつつあり、その顔が西日でった。

「ただ、どう考えてもヤマ師の教祖が率いる有象無象の新興宗教、ってわけではないでしょうね。あの統率力と組織力、そして伝染力――相當に規模も歴史もあるのは間違いない。そして、目的は単にアオモリでの新しい信者の獲得のみ、ってわけでもなさそう」

「どういう意味だ?」

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「あいつら、そっちこっち掘り起こしてるのよ」

「はぁ? 掘り起こしてるって――?」

「言葉の通りよ。あいつら、何らかの発掘作業を東と北の辺境のあちこちでやってるみたい」

そう語るトキ自も、わけがわからないという表だった。

「アレコレ難しい資料と顔つき合わせて、大勢の人を使って。何の目的があるのかはわからない。けれどあれは間違いない、何か確信があってそうしてる。事実、実際に地中から何かを発見した、って噂も聞いてるわね」

発掘――地下迷宮(ダンジョン)が埋まっているわけでもあるまいに、何故宗教組織がそんなことをするのだ?

さっぱりと話についていけないレジーナがまごついていると、イロハが口を開いた。

「トキ殿。その癡れ者どもは『穢れた偽りの神』と口にしておらなんだか?」

兄の仇がアオモリにいると知ったイロハの表は厳しかった。

らしいのものでも、大公息としてのものでもない、もっと本的な、人間の尊厳に関わる部分から発した何かが、イロハにれる空気をひりつかせる。

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「ええ、その通りよ。奴らの目的は偽りの神の否定だと――カズ君が言っていた」

トキは重々しい口調で答えた。

「偽りの神によって創られたこの世界を正しい教えに基づいて変えてゆく――それが教義の本らしいわ。もうカズ君は昔のカズ君じゃない。目も表も、口調ですら違う。まさに何かに目覚めた、ってじで……カズ君は昔の仲間や友達も、全部を捨てて奴らの教えに従った」

穢れた偽りの神――それはあの時、マツシマで対峙したアルフレッドがしつこく口にしていた言葉だった。

まるで今、大陸中で信仰されている神が偽であるでもいうかのような、強い憎しみが籠もったその言葉。

その神の否定は自分の現狀の否定であると明確に語っていたその言葉は、しかしレジーナにはどう考えても狂人の言葉にしか聞こえなかった。

その狂った思想に篭絡された人間たちがアオモリに増えている――それだけでレジーナには空恐ろしい話に思えた。

トキは再びため息をついた。

「カズ君だけじゃないわ。他にも私たちの知り合いや友達、卍連合の人間ですら、奴らに影響されて変わってしまった人がいる。教団の側が相當に心理掌握が上手いのは事実でしょうけれど、奴らに走ったアオモリの人々に共通している事は、彼らが孤獨だってことよ」

「孤獨――」

「そう、孤獨。自分はこの世に獨りぼっち、こんな世界は間違ってる――そう考えてる人々を惹きつける何かが、あの教団の教えにはあるらしいわね」

ぐっ、とイロハが奧歯を噛み締めた。

孤獨――かつてイロハの兄であるアルフレッドも、その涼しい見た目からは想像もできない闇を抱えていた人だった。

そんな闇を抱えた人間は、大陸の最果てであるアオモリにも、やはりなからずいるものらしかった。

そして、その中にはオーリンの親友であるという人まで――。

「カズは――カズはどうなってまったんだ?」

詰問口調のオーリンの言葉にも、トキは無言だった。

「どう考えてもまどもな考えの集まりではねえべや。何故(なして)周りは止めながったのや? 何故(なして)周りが連れ戻そうどしねぇ? 姉ぢゃんはカズや友達(けやぐ)のごどが心配でねぇのが」

オーリンは確実に憤っていた。周りがしっかりしていれば親友はそうはならなかったはず……明確にそんな憤りを滲ませた聲に、トキがオーリンを見つめた。

「そっくりそのまま、アンタに返すわよ。なにせ、カズ君を獨りぼっちにしたのはアンタだからね」

その言葉に、はっ、とオーリンが息を呑んだ。

トキは憐れむような、叱るような、複雑な眼差しでオーリンに向き直る。

「私にだってわかるわよ。カズ君は繊細な子だった。獨りにしたら絶対ダメな人間だった。あの子一番の親友だったアンタならわかるはずだわ」

トキの視線が、ほんのし厳しくなる。

その視線に糾弾されたかのように、オーリンが俯いた。

「それなのにアンタは地元を離れ、王都でアオモリの星になるって夢を追った。孤獨なカズ君を殘してね。どういう結果になるかわかってなかったはずはない。アンタこそ、どうしてあの子を置いていったりしたの? 一緒に冒険者になることは考えなかったの?」

「そいは……」

「オーリン、アンタたちの間に何があったかは知らないし、それについて別にアンタを責めようってわけじゃない。アンタにはアンタの人生があった、それは間違いないわ。でもね、同時にアンタがアオモリにいる人々を責めることもできない。彼らには彼らなりの人生があったんだからね」

なんだか、実年齢の倍以上も老した聲だった。

無言のまま項垂れているオーリンを、トキはじっと見つめた。

「さて――親友がそうなってると知ったアンタはどうするの?」

靜かな聲でトキは尋ねた。

「アンタが何者になろうとしているかはわからない。けれどね、狀況に流されるままにアオモリを目指すことはもう出來ないんじゃないの? もちろん、それはそこのイロハちゃんのためでもあるでしょうけど――アンタはアオモリを目指してどうするの?」

しばらくの無言の後、オーリンがゆっくりと呟いた。

「カズば連れ戻す。頬(ほぺた)ば張り倒しても(ふったづげても)目ば覚まさせるさ」

顔を上げたオーリンの目には、新たな決意が滲んでいた。

今まで狀況に流されるまま目指していたアオモリへの道に、確固とした目的が備わったらしかった。

「わがるんだ。あいづらの仲間になったら絶対(じぇってぇ)未來(さぎ)はねぇ。いづが何がをやらがすに違いねぇんだ。実際――こごにいるイロハの兄貴もそうであった。あいづらにかぶれれば――人ば殺すごどに躊躇いもなぐなんだ」

イロハが俯いたまま、ぎゅっと拳を握った。

その拳が小さく震えている。流石に、イロハの中ではまだ整理のついていないことが多すぎた。

兄を誑かし、悪の道に引きずり込んだ連中がアオモリにいる――その事実だけで腸が煮えくり返る思いであるに違いなかった。

「それに、そいづらの裏には何かとんでもねぇやづがいる。マツシマのあのどきも、どごがらあらほどの変化を起こす魔力が來てんのか、俺(わ)さばさっぱり(さっぱど)わがんねがった――何かはわがんね。わがんねども、とにかぐとんでもねぇ化けだ、間違いねぇ」

そうだ、マツシマでアルフレッドと対峙した時、アルフレッドはあのしき海を斷ち割り、數千にも及ぶ魔を使役してなお涼しい顔をしていた。

あれほどの大変化を及ぼせる膨大な魔力が、いくらなんでもアルフレッド個人から発していたわけはない。

誰か――アルフレッドを通じて、何か凄まじく巨大な存在が、そのための魔力を融通していたとしたら、その存在は一如何なる存在であるのか。

それこそ正しく、アルフレッドが言うところの「神」のような、圧倒的な存在ではないのか――。

「いずれにせよ、カズを放っておけない(ほっとがいね)。なんとしても(なじょすても)連れ戻す――レズーナ」

急にオーリンに名前を呼ばれ、會話にれていなかったレジーナは不意打ちを食らった。

「はっ、はい! あの――」

「悪いども、俺(わ)どイロハはアオモリさ用がでぎでまった。お前(な)さば迷(めやぐ)だども、々(ぺっこ)アオモリまでついできてくれるが?」

はっ――と、レジーナは一瞬、キョトンとしてしまった。

なんだか、オーリンに初めてそんな事を言われた気がした。

こうしてパーティになって初めて、オーリンが真剣に自分を頼ってきてくれた――。

一瞬後にそれに気づいて、なんだか無に嬉しくなった。

レジーナは「何を言ってるんですか」と半笑いの聲で答えた。

「先輩と私はもう運命共同だって言ったじゃないですか。先輩が行くなら星の裏側にだって著いてきますよ。アオモリにそんな連中がいるならほっとけません。腕っぷしで叩き出してやりましょうよ」

力こぶを盛り上げながらのレジーナの言葉に、オーリンとイロハがしほっとしたような表を浮かべた。

もちろん俺もだ、というように、ワサオがオーリンの足元に寄ってきてしっぽを振った。

そのさまを見ていたトキが、なんだか安心したようにニカッと笑った。

「オーリン」

「なんだや?」

「アンタ、この七年の間に、すっかりいい仲間に恵まれたらしいわね」

一瞬、不思議そうな表を浮かべたオーリンが、レジーナとイロハ、ワサオを振り返り、フッ、と不敵な笑みをらした。

「へ――まぁな。こいづらは俺(わ)の、たったひとつ(ふとっつ)の財産だっきゃの」

ただその一言が、なんだかたまらなく嬉しかった。

思わずイロハと顔を見合わせ、えへへ……とほくそ笑むと、トキが「よし、決まりね」と大聲を発した。

「それじゃ、旅の目的も決まったところで――レジーナちゃん」

「はっ、はい!」

「アンタにはまだお禮ができてなかったわね。後で無料で視てあげる、って言ったでしょ?」

トキが首から數珠とかいうネックレスを外し、両手でばし、り合わせた。

じゃらっ、という鋭い音とともに、周囲の空気が一変した。

「それに、あなたのおばあちゃんもあなたになにか言いたいことがあるらしいわ。今回は弟のこともあるから特別大サービス。おばあちゃんと會話させてあげる」

「たげおもしぇ」

「続きば気になる」

「まっとまっと読まへ」

そう思らさっていただげるんだば、下方の星コ(★★★★★)がら評価お願いするでばす。

まんつよろすぐお願いするす。

【VS】

タイトルにもあります通り、今作が今冬、あの、あの、あの、

あの角川スニーカー文庫様より発売となることが正式に決定いたしました。

私、涼宮ハルヒやアクア様の後輩になります。

まさか一度打ち切った作品がとあるきっかけからバズりにバズり、

こうして天下の角川スニーカーから発売になることなんて、

おそらく後にも先にもこれ一作こっきりのことでしょう。

有り得べからざる偶然、幸運にノレソレかちゃくちゃねぐなっております。

そすてはかめぎすぎで加速度的に訛って來てるではぁ。

あんまし見るなでぁ、なんぼまだめぐせじゃよ。

ということで、発売の冬までお待ち下さい。

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