《じょっぱれアオモリの星 ~「何喋ってらんだがわがんねぇんだよ!」どギルドをぼんだされだ青森出の魔導士、通訳兼相棒の新米回復士と一緒ずてツートな無詠唱魔で最強ば目指す~【角川S文庫より書籍化】》ホシコ・バ・オヂデキタ(流れ星が降ってきた)
東と北の間の辺境地帯――その大地が育む大自然は強大で殘酷だ。
まず気候風土そのものが人間たちの生存にあまりに適しておらず、その寒さや降雪の厳しいことは、いとも簡単に人間の命を奪う危険を孕んでいる。
更に厄介なのはそこにを張り生きている様々な生きたちで、魔と呼ばれるクラスの巨獣・兇獣たちは、過去何度も何度もレジーナたちの冒険を翻弄してきた。
だが、この目の前の生きは、あまりにも――。
いくら大きいと言っても限度がありそうなものだが、この東と北の間の辺境は人間の事など全く斟酌してはくれないらしい。
この黒い塊がひとつの生としていているのが信じられないほどの巨大さを誇るヴリコの大グマ――その黒曜石のような目が、靜かな殺気を湛え、あまりに矮小な人間たちをひと睨みした。
たったそれだけで、レジーナの背筋に冷たいものが幾筋も流れ落ちた。
「せ、せせせせせ先輩……! なんですかコレ!? く、クマですか!?」
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「クマなわぎゃあるが! な、なんぼなんでもデカすぎるべよ……! 怪でねぇが!!」
怪。過去ドラゴンと対峙しても狼狽えることのなかったオーリンの顔が完全に引きつっている。
こんなもの、防障壁で鼻先を小突いたとしても、痛がるどころか怯むことすらなさそうだ。
畢竟、レジーナたちに殘された選択肢は――。
「逃げましょう!」
「言われなくても逃げるでぁ!」
レジーナたちは山道の土埃を蹴立て、半ば直しているままのイロハの襟首を摑んで走り出した。
逃げる。それは戦わずとも圧倒的力量差を察した生なら當然採るべき選択肢であって、この場合ならばそうするのが當然であったはずだ。
だが、レジーナたちはこの時この場合、絶対にしてはならない行を採った。
野生に背を向けて逃げる――それはつまり捕食者の中にある本能を刺激する行為であり、その気のない捕食者側に無理やり狩りのスイッチをれてしまう行為なのであった。
「ブモォーッ!!」
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まるで火山が噴火したかのような野太い鼻息を上げ、巨獣がレジーナたちを追って走り出した。
巨獣はその巨に似合わぬ俊敏さと、その巨ならではの馬力で全の筋を躍させて追ってくる。
それは無論のこと、たかだか二メートルに満たない軀の人間たちが逃げ切れる速度ではなかった。
「先輩先輩! ヤバいですよ全然逃げ切れないッ! 足止めお願いします!」
「なんだってな畜生……! 行くどォ! 【上位拒絶(マネ・デヴァ)】!!」
オーリンがやけくその大聲で令した途端、ヒュン! と風切り音がして、虛空に巨大な魔法陣が踴った。
かつてドラゴンさえも叩き伏せた無敵の防障壁、いくらこの巨大さと言っても、これなら――!
しかし、レジーナの安易な期待は派手に裏切られた。
オーリンの防障壁が鼻先を捉える直前、ぐっ、とを弛めた黒い獣は、その巨に見合わぬ機敏さで防障壁を橫飛びに回避した。
「噓だろ(わいは)!?」
ぎょっ、とオーリンが目をひん剝き、本當に驚いた時しか出さない聲で仰天した。驚く間にもオーリンは右手を振り抜き、再びの防障壁を展開する。
「【上位拒絶(マネ・デヴァ)】! 【上位拒絶(マネ・デヴァ)】!」
オーリンが次々と展開する防障壁を、巨獣は腳を踏ん張り、小刻みに間合いを詰めることで、間一髪で次々と回避してゆく。
ひとつ障壁を回避される度に、オーリンの顔が一度も見たことがない焦燥の表に変わってゆく。
「【上位拒絶(マネ・デヴァ)】!! 【上位拒絶(マネ・デヴァ)】!! ……くそっ、【拒絶(マネ)】って喋てらべやこの畜生(つっくしょ)めが!!」
もはや詠唱でもなんでもない悪態を吐きながら、オーリンは背後の視界が障壁に埋め盡くされるまで防障壁を展開した。
だがそのいずれもが巨獣の追跡を足止めすることにはならず――巨獣は遂に最後の障壁を軽やかに跳躍した。
ズシン……! と、これぞ巨人の足音と言える地響きが発し、とうとうレジーナたちは追い詰められた。
既に完全に腰が抜けているイロハを支える腕から力が抜け、イロハの小柄が地面に崩れ落ちた。
どうだ? と言わんばかりに、巨大グマはレジーナたちを見下ろした。
オーリンは、と橫を見ると、障壁を出す手を下げぬまま、まるで幽霊を見たかのように直したままだ。
えっ、私たちの冒険、ここで終わり?
レジーナはそのあまりの呆気なさに呆然とした。
頼みの綱のオーリンは敗北を悟ってしまったかのように固まったままだし、イロハは最早木剣を抜くことさえしておらず、口を開けたまま放心している。
まさかこんな山道で、三人もろともにこの大グマのおやつになって終わり? そんなじで自分の人生が終わることなんて――正直、想定すらしていなかった。
ぼんやりと人生の終わりを察知しながら、レジーナは改めて、東と北の間の辺境が持つ大自然の力を思い知っていた。
このクマ、この巨に似合わない俊敏と機敏で、即時展開されるオーリンの魔法すらスイスイと避けてみせるとは。
魔ではない、単なる獣であるというのに、攻撃が當たらなければ倒すことが出來ないという戦いの原則を堂々と証明してみせたこの獣。
百戦錬磨のマタギたちですら手をこまねく巨獣が出た――あのとき、饂飩屋でそう言ったおばさんの忠告を、レジーナたちはきちんと聞いておくべきだったのだ。
マタギ。その不思議な響きの単語が、レジーナの頭の中に響き渡った。
こんな常軌を逸した巨獣すら仕留めるという狩猟集団。
無詠唱魔導師ですら完敗を喫するこのクマをも倒すものたち。
この世にそんな剣呑な集団が本當に実在するというのか。
もし本當に実在するというなら、それは一どのような存在であるのか――。
闇の化そのものにしか見えない漆黒の巨獣の口腔がぐわっと裂けた。
桃に輝く口腔と、ぞろりと生え揃った黃い牙がレジーナの視界いっぱいに広がった。
巨獣が、もはや餌になるしかない矮小な人間たちを見て嗤ったように思えた、その途端だった。
レジーナの足元から何かが這い出し、レジーナたちの前に立った。
はっ、としてレジーナは、まるで輝くような白い並みを見つめた。
「わ、ワサオ――!」
突然前に進み出たワサオに、レジーナだけでなく、オーリンもイロハもぎょっとしたようだった。
ワサオは犬と大差ない小さなを一杯怒らせ、背中のを逆立て、凄い形相でクマに向かって唸り聲を上げる。
仲間たちの窮狀を救わねばと思ったのか、それとも眠っていた闘爭本能が目を覚ましたのか、とにかくにもワサオは一歩も退かぬという覇気を漲らせてクマに立ち塞がった。
途端に――大グマに明確な変化が現れた。
突然飛び出してきたワサオを視界にれた途端、クマは明らかに揺するようなきを見せ、口を閉じて鼻面を引っ込めた。
「ワウワウ! ワンワンワンワン!!」
ワサオが猛烈な勢いでクマに吠えついた。
その途端だった。大グマが明らかに怯えて視線を泳がせ、ぶるりと震えた後――信じられないことに、一歩、また一歩と、気圧されたように後ろに退り始めた。
「何故(なして)――」
オーリンがくように言った。
蛇に睨まれたカエルのように、大グマはけなくをこまらさせて怯えきっている。
まるでワサオが不倶戴天の天敵であるというようなその激烈な反応に、レジーナはまるで手品を見ているような気持ちでそれを見つめていた。
と――そのとき。
背後から、何かが近づいてくる気配が発し、レジーナは狀況も忘れて背後を振り返った。
「よくやった。我らが同胞(はらから)よ――」
野太い、落ち著いた男の聲が発した瞬間、レジーナの視界を銀の閃が橫切った。
なんてしい銀、まるで流れ星――とレジーナが目を見開いた瞬間、その銀が大グマに向かって飛びかかった。
「グオオオオオオオオッ!!」
天地を震わせる咆哮が発し、大グマが滅茶苦茶に頭を振り回した。
それと同時に周囲に凄い砂埃が巻き上がり、うわっとレジーナは顔を背けた。
「さ、退がるべぇ! ワサオも早(は)ぐ!」
オーリンの絶に、レジーナはワサオを抱えて後退した。
後退した先で――レジーナは信じられないを見た。
大グマの頸部にばっくりと食らいつき、太い尾を振りして抗うもの。
あれは――フェンリルだ。灰と銀が縞模様を描く見事な虎の、大きく、しいフェンリル――。
大グマが一層大きくを捩り、フェンリルの牙を振り払った瞬間、フェンリルは大グマの背中を蹴り、鮮やかに跳躍した。
スタッ、と、その巨に似合わぬ軽さで地面に著地したフェンリルが、無事だな? というかのようにレジーナたちを振り返った。
思わずガクガクと頷いてしまったレジーナを見つめ、フェンリルはまるで人間のように口角を持ち上げた。
このフェンリル、笑った――?
まさか、と思ったレジーナに、虎のフェンリルは更に信じられない事を口(・)走(・)っ(・)た(・)。
「危ないところだったな、旅人よ。ここから先の喧嘩はこの私、【流星のギンシロウ】が預かろうぞ」
「たげおもしぇ」
「続きば気になる」
「まっとまっと読まへ」
そう思らさっていただげるんだば、下方の星コ(★★★★★)がら評価お願いするでばす。
まんつよろすぐお願いするす。
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