《【WEB版】灼熱の魔様の楽しい溫泉領地経営 ~追放された公爵令嬢、災厄級のあたためスキルで世界最強の溫泉帝國を築きます~【書籍化+コミカライズ】》1.魔力ゼロのユオ、辺境に追放される
「まさか辺境に追放された私が、溫泉で獨立國家を作るなんてね」
目の前には山々から湯けむりが立ち込める壯大な景。
その下には異國緒のある街に明かりが燈り、にぎわいを見せている。
沢山の人が行きう様子を眺めながら、私は慨にふけっていた。
今では優秀な仲間たちと楽しくやれているけれど、幾度となく試練をかいくぐってきた。
目をつぶれば昨日のことのように思い出される。
◇
私、ユオ・ラインハルトは魔法第一主義を掲げるリース王國の公爵家の子供として育った。
後で知ったことだけど、私と家族には縁関係はない。つまりは養子だ。
當主である父親は魔法の才能のあるものを重用する一方、才能のないものには厳しい人だった。
それは子供の接し方にも如実に現れていて、魔法の才能ある子供は溺された。
魔法の才能のない私は冷遇され、辺境の地へと追放された分なのである。
「役立たず」
「無能力者」
「政略結婚の道にすらならない」
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いころから魔法が使えなかった私はいつもそう言われてきた。
魔力を第一に考える貴族社會ではつまはじきにされる存在だった。
そして、16歳のスキル授與式で「ヒーター」のスキルを授かった時、家族からの白眼視は最高に達した。
私はその時の様子を今でもしっかり覚えている。
場所はスキルを授與するスキル神殿。
どういうわけか、その場にはリース王國の有力者たちが集っていた。
「ユオ様のスキルはヒーターです。対象をいくらでも溫められる能力ですよ! しかも、クラスは【灼熱】と出ています!」
神のの子は嬉しそうな顔をして私のスキルを宣告する。
しかし、『ひぃたぁ』なんて能力を誰も知らないらしい。
辺りは靜まり返って不穏な空気が漂う。
対象を溫める能力なんて聞いたことがないし、灼熱って何のクラス分けだ。
「ひぃたぁ? しゃくねつ……??」
訳のわからない能力だけど、私には心當たりがあった。
心ついた頃には、私の両手はいつだって溫かかった。
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氷を握っても冷たいどころか、ものの數秒で溶かしてしまうのだ。
汗っかきというわけでもないのに、手に持つものがなんでもほかほかになってしまう変な質。
兄からは、いっつも「やかん」とバカにされていた。
私だって好きこのんでこんな質なわけじゃない。
っていうか、私を悩ませてきた謎現象はこのスキルの予兆だったわけ!?
「な、なんだ、そのスキルは!? ヒーラーじゃないのか? 魔法は使えるのか!?」
戸う家族はすがるように聞き直す。
しかし、神さんは「いいえ、ヒーラーではありません!」ときっぱり。
あぁ、ヒーラーじゃないのかぁ。
これで最後のみが潰えた。
がっくりと肩を落とす傍らで、神のの子は言葉を続ける。
「このスキルは魔力に頼らずいくらでも発できるものです。ったものを好きなだけ加熱させることもできます。熱探知も熱耐もありますし、火炎も吹雪もなんのその! まさに古竜みたいな能力ですよ!」
神のの子は空気が読めていないのか、この素っ頓狂なスキルについてぺらぺらと話し出す。
古竜みたいなんていわれても、16歳の乙が喜べるわけないじゃん!
「ええい、そんなものかまどと同じではないか。人しても魔法が使えないとはなんたることだ!」
「父上の言うとおりだ! 溫める能力など、なんの役に立つんだ!」
「ラインハルト家の面汚しめ!」
「ははは、やかんにはお似合いの能力だな」
激昂する父親と冷笑する三人の兄。
私が魔法を使えないことを知っている親族たちも、口元に嘲りの笑みを浮かべていた。
この三人兄弟、格は最悪だけど、魔法の腕はピカイチ。
長兄なんか魔法剣士とかいうレアスキルの所持者だ。
彼ら三人は魔法第一主義のリース王國の守りの要なんて呼ばれている。
父親や兄たちからのひどい言い分に、何も言い返すすべをもたないのが今の私だ。
だって、いきなり変なスキルを授かってしまったのだもの。
魔法が使えない私には、人間としての価値はないと言われているかのようだった。
「そんなことありません! ユオお姉さまはこんなことで負けません!」
ここで、どこからともなく大きな聲を出すの子がいた。
「ミ、ミラク!?」
彼の名前はミラク・ルー。
大きな帽子をかぶった彼は私の魔法學院での同級生である。
私はどういうわけか魔法學院にて彼に『お姉さま』呼ばわりされているのである。
もちろん、縁関係はない。
うわっちゃあ、こんな場面を友達に見られるなんて、ばつが悪すぎる。
「お姉さまはとんでもないことをする人なのです!」
彼はそう言うと、すたすたと神殿から出ていってしまう。
突然の出來事にみんなが固まってしまう。
かなり気まずい。
「ひひひ、なんだあの変な娘は? 公爵様、魔力ゼロとは縁談も苦労するでしょう。どうしてもというなら、わしの妻としてもらってやってもいいですぞ」
膠著した空気を破るのはまたしても空気の読めない人だ。
親族の一人である伯爵のおっさんがふざけたことを言って、ひひひと笑う。
彼の名前はローグ伯爵。
この國の有力者の一人だ。
でっぷりと太った中年男であり、年の差もかなりある。
こんなのにもらわれるのは勘弁してほしい。
「ご心配には及びません。これの処遇はもう決めてあります。この娘は今後、ラインハルト家からは勘當し、ヤパンの領主として派遣いたします。まぁ、派遣とは名ばかりの永久追放ですが」
そして、父は私に厳しい視線を向けて、とんでもないことを宣言する。
つまり、追放。
それも、二度と戻っては來れない辺境送り。
気づいた時には、最果ての大地の領主として住民100人足らずの村へと追いやられることが決まってしまっていたのだった。
魔力ゼロの娘なんぞ厄介払いというわけなのだろう。
私はこう見えて格闘技は得意だったし、政治の勉強だって頑張ってきた。
だけど、魔法第一主義の父親からみたらそんなものは何の価値もないらしい。
勝手に私の運命が決まっていくのを見ながら、私は「はぁああーっ」と大きなため息をつくのだった。
◇
「ユオお嬢様、私もお供させていただきます!」
しかし、意外なことが起こる。
私の専屬メイドのララがどうしても一緒に行くと言ってきかないのだ。
彼は家事全般をこなす優秀なメイドで、容姿端麗、スタイルよしの満點子だ。
うちにって1年の新りながら、家からの信任も厚い。
最近では調の思わしくないメイド長の補佐までしている。
優秀な人材であるララを道連れにするのは忍びない。
私はダメだと一度は斷る。
私と一緒にいてもいいことないと思うし、気持ちは嬉しいけど申しわけないじゃん。
「なにをおっしゃってるんですか! お嬢さまのあるところに、ララありですよ! そもそも、こんな千載一遇のチャンスを逃してどうするんですか!」
「チャンスって、あんた。どっからどうみても勘當からの人生詰みコースでしょうが!」
「だ・か・ら、いいんですよ。とにかく、もう決めたことですから。私は地の果てまでついていきますからね。本當は他の執事もメイドも行きたがってたんですよ!」
ララがすごい剣幕でまくし立てるの。
気迫に押された私はもはや打つ手なしと彼を連れていくことにした。
普段はクールビューティのくせに、たまにハイテンションで押しの強いメイドなのである。
「っていうか、勘當されちゃったから、私はもうお嬢様なんかじゃないんだけどね」
「それもそうですね! では改めて、ご主人様と呼ばせていただきます!」
「呼び名の問題じゃないんだけどなぁ……」
「ふふっ、ご主人様様!」
「様は一回でよろしい」
「はいっ!」
軽くため息の出る私。
とはいえ、ララの熱意あふれる瞳にはこれ以上、反論できない。
私は苦渋の決斷で、ララの辺境への同行を許可したのだった。
そして、追放の當日、家族にお別れの挨拶を行う。
涙目になっている執事・メイドたちもいる一方で、父親と兄たちはまんざらでもない顔をしている。
「いいか、お前はもうラインハルト家とは関係がない。いっそのこと、そこに國でも作って永住してもかまわん! ヤパンなど、どうせ誰も関心のない土地なのだ!」
父親はそう言って私の完全追放を宣言する。
渡された路銀も々しかない。
「それはいい、誰も住みたがらない辺境の土地ですからね!」
「田舎の野蠻人どもを率いて、死ぬまでモンスター討伐でもしていろ!」
「ははは、さらばだ。不出來な妹よ!」
兄たちは今生の別れだというのに、信じられない罵聲を浴びせてくる。
その聲を背中にけて、私とララは二人で歯嚙みしながら街を出たのだった。
こうなったら絶対に見返してやるんだから!
辺境だかなんだか知らないけど、世界で一番かな都市を作って、獨立國家でもなんでも作ってやるわよ!
にっくき父親と兄たちに対して、心の中で啖呵を切る私なのであった。
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