《【WEB版】灼熱の魔様の楽しい溫泉領地経営 ~追放された公爵令嬢、災厄級のあたためスキルで世界最強の溫泉帝國を築きます~【書籍化+コミカライズ】》42.新米冒険者リリは斷の大地で腰を抜かす

『悪い予はしていたのに、どうしてこんな辺境にまで來てしまったのだろう』

新米冒険者のリリは深い後悔の中にいた。

は酒場で「遠くの村に行く依頼がある」などという商人の聲にのせられ、近くにいた冒険者パーティに臨時加させてもらったのだ。

確かに、この村までは無事ににたどり著くことができた。

初めての野宿は辛かったが、それでも仲間もいるし、モンスターとの戦闘もなかった。

村に到著すると、黒髪の、ユオが歓迎してくれた。

はメイドや貓耳の商人たちを引き連れ、村を開発しているとのこと。

同じ年ぐらいの彼がてきぱきと仕事を片付けているらしい。

その優秀さに劣等さえ覚えるほどだった。

そして、彼の屬するパーティは森に進むことになった。

領主側から提案されたのは薬草採取だったのだが、強面のリーダーがれなかったのだ。

彼はどうしても、自分の実力を見せつけたかったらしい。

「にぎゃああああああ!!?」

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そして、現れたのが陸ドラゴン。

辺境都市のサジタリアスにもたまに襲來する、小型のドラゴンだ。

サジタリアスでは騎士団の鋭が集まって迎撃する相手だ。

「ひぃいいい」

こんなものが普通に森の中を闊歩しているなんて信じられない。

リリは腰を抜かしながら、ほとんど泣きそうになる。

家出をしなければよかった。

あの貓耳商人の甘い言葉に乗らなければよかった。

サジタリアスで白い狼が出てきたときに引き返せばよかった。

森にると言われた時に調子の悪いふりをすればよかった。

そもそも自分には冒険者など無理だった。

は心の底から反省するのだった。

しかも、彼の屬しているパーティは陸ドラゴンに歯が立たないでいた。

非常にい皮を持っているらしく、一切刃が通らないのだ。

実戦経験のない彼構えることさえできず、しりもちをつくだけだった。

完全に足手まといであり、自分をかばうためにパーティの足並みもれている。

「ひ、ひぃいい……!!」

モンスターの兇悪さもさることながら、驚いたのは領主一行の強さだ。

白い狼は陸ドラゴンを雑魚扱いするし、

が隆々とした中年のハンターは弓矢で応戦し、メイドのは魔法で氷漬けにする。

彼らがもしも、サジタリアスにいたら名の通った冒険者として扱われるだろう。

どうして、そんな人材があの辺鄙な村にいるのか謎にさえ思えた。

さらに驚いたのは領主のだった。

自分と同年代で明るい格の彼だが、モンスターを目の前にしても一歩も引かない。

それどころか、複數のモンスターを瞬時にバラバラにしてしまった。

魔法の詠唱時間もいっさいなく、剣を構えることもなく、文字通り一瞬で。

あんなにい陸ドラゴンの皮を切り裂いてしまった。

しかも、彼の息はまったくもって上がっておらず、汗一つかいていない。

それどころか、「まぁ、トカゲなんてこんなものか」といった表なのだ。

『これは本當に起きていることなの?』

こんなのはサジタリアスの騎士団だってできっこない。

できるとすれば<<剣聖>>のスキルを持つ、あの子ぐらいなものだろう。

リリの脳裏にはサジタリアスにいる剣聖の顔がうかぶ。

しかし、それ以上にあの黒髪の領主、ユオに底知れない恐ろしさをじる。

がその気になれば、一発で自分を殺せるのだとわかると、がくがくと膝が震え始める。

そんなことを思ってしまったからだろうか、

「怪我はない?」とユオがリリを気にかけてくれたのに、

「ひぃいいい、分離しないでくださぁい」と、おかしな聲を上げてしまう。

リリの心中はほとんど錯狀態といっていいほどの狀態だった。

尋常じゃないほど兇悪なモンスターが現れる。

それなのに普通の村人とメイドさんがやすやすと討伐する。

さらに、村の領主はモンスターを瞬時に片付ける。

ありえない。

ありえないよ、そんなの。

『辺境に住んでいるのは化けみたいな人たちなんだ……』

リリは地面にへたりこんで茫然自失してしまうのだった。

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