《お薬、出します!~濡れを著せられて治療院から追放された薬師さんが辺境で薬屋を開きました。極めたポーションは萬能薬と呼ばれて回復魔法を超えるようです~【書籍化コミカライズ企畫進行中】》アイリーンの剣事

せっかくなのでメディはアイリーンと村長にハーブティーを出した。

「溫かくて落ち著く……。さっきのポーションもそうだが、どれも優しい味だ……」

「そのハーブティーは心を落ち著かせるんです」

メディはアイリーンを改めて観察する。調不良どころか健康そのもの、のすべてに躍があった。

踴り出しそうなほど元気な筋、活発に活する、人間のとしてこの上ない完度だ。

メディも冒険者を何度か見たことはあるが、彼ほどのを持つ者を見たことがない。

メディはアイリーンに見惚れている。日頃からの健康管理を怠っていないだけではなく、神から與えられたかのようなはある意味でメディの理想だった。

「アイリーンさんも冒険者なんですか?」

「そうだ。等級は一級、これでもしは名が通っていたんだがな」

「一級!? そんな方がこんなところに……あ」

口がったと、メディは村長の顔を見る。しかし彼も頷いており、メディは心の底から安心した。

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一級冒険者ともなれば、有事の際は傭兵としての參加が認められる。功績次第では上流階級と繋がり、仲間りすることも珍しくない。

特に王族との結婚や王國魔導士団や騎士団の団長などという前例があるとなれば、誰もが夢見る。メディが驚き、村長が認めるのも當然だった。

「だが、最近はさっぱりだ……。せいぜい四級や五級の魔に手間取る」

カップを摑んだまま、アイリーンは視線を落とす。

冒険者のことはわからないメディだが、アイリーンの不調の原因を見抜いていた。健康狀態は良好、は最高。メディはアイリーンの細かな仕草まで見落とさない。

――メディ! 健康に見えても病気ってのはどこにでも潛んでるんだ!

人間ってのはどこまでいっても人間だからな!

「私からアイリーンさんに依頼したいのです」

「薬屋なら素材の採取か?」

「いえ、畑を作ってほしいんです」

「畑?」

素材採取をアイリーンに依頼しようとしたが、今の狀態では危ういと思った。そこでメディは閃く。薬草やハーブの畑を作ればいい。

現に優秀な薬師はそういった仕先を持っている。田舎にいるメディの父も、実は方々に顔を利かせていた。

――長年、商売できる奴は必ず縁を持っている!

メディ、お前も薬だけ作ってんじゃねえぞ! 縁を作れ!

「お願いです。アイリーンさんには畑を耕してほしいんです。もちろん報酬はお支払いします!」

「私が畑を……」

「いい運になりますよ! どうでしょう!」

いきなりあなたの問題を解決します、などとメディは言わない。距離を保ちつつ、問題を解決することにしていた。

アイリーンはし考え込んでからフッと笑う。

「すまないが斷る。私にはやはり剣しかない」

「な、なぜです?」

「昔、パン職人に憧れたことがあってな」

「はい?」

「黒い何かができていた。明らかにパンではなかった。當然、クビだ」

メディは空気が急に重くのしかかるようにじた。自分はアイリーンにとてつもないことを喋らせている。止めておけばよかったと半ば後悔した。

「次はケーキ職人だ。ケーキは大好きだからな。だが、なぜか黒かった」

「あ、あの」

「家を建てる仕事もやった。何も殘らなかった」

「作る仕事なのになぜ……」

「冒険者ギルドの事務員をやった時は書類が黒く塗りつぶされたり蒸発した。そもそも何が書かれているのかもわからない」

「も、もういいです! わかりました!」

剣しかない。それは比喩でも何でもなかったとメディは青ざめる。アイリーンにはあらゆる仕事の適がない。彼ができる仕事は剣を振るって魔を討伐すること。

しかし今はそれすらこなせない。ふらついて、傷だらけ。四級以下の魔にすら苦戦する始末だ。

「何も殘らないのだ。剣以外、本當に……」

メディとしては信じがたいが、アイリーンは真剣だった。村長がハーブティーをすすり、大きく息を吐く。

「ふーむ……。しかし皆、アイリーンに謝しておるぞ。アイリーンがいなければ、どうなっていたかとな」

「村長さん、狩人って本來は誰がやってるんですか?」

「以前は村の若い衆が山にっておったがの。怪我をして戦えなくなったり、村を出ていったり……。年々、村の維持が難しくなっておる」

村長の話を聞いて、メディは指針を決めた。

「アイリーンさんだけが頼り、と……。ではアイリーンさん! 外でかしましょう!」

「は?」

メディはアイリーンの手を握って微笑む。

「だから私は畑など」

「いきましょう!」

「こ、こら!」

メディがアイリーンを強引に外へ連れ出す。殘された村長はハーブティーをゆっくりと味わいながら、二人を見送った。

「フォフォフォ……。隠居してみるもんじゃの。久しぶりにいいものが見られそうじゃわい」

名殘惜しそうに、村長は最後の一口をすする。そして満足そうに店を見渡した。

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