《お薬、出します!~濡れを著せられて治療院から追放された薬師さんが辺境で薬屋を開きました。極めたポーションは萬能薬と呼ばれて回復魔法を超えるようです~【書籍化コミカライズ企畫進行中】》ロウメルの苦悩
ロウメルは汗だくになっていた。院長の場合、よほどの治療でなければかないのだが最近になって、クレームが増したからだ。
原因は人手不足である。もっと追求すれば、患者が求めていた人や薬がないからだった。
あの薬は効いたのに、あれがないと痛みがひどいなど。治癒師達は休憩時間を犠牲にして、休む間がない。
「おい! この薬、さっぱり効かねーぞ!」
「はい、大変申し訳ありません!」
「前の薬なら順調に回復していったのによぉ! どうなってんだ!」
「今、確認します!」
ロウメルとて、人手不足は解消しようと努力している。薬師のメディのは別の薬師で埋めていた。
ロウメルが調合室に向かうと、椅子の背もたれに背中を預けて居眠りしている人がいる。
「君! 起きなさい!」
「はい?」
「君が調合した薬がさっぱり効かないとクレームがってるんだ! 足を怪我した患者に塗り薬を処方しただろう!」
「あー、そりゃすぐには効かないっすよ。気よく塗れって言っといてください」
Advertisement
ロウメルは力した。雇った若い薬師は頭をボリボリとかきながら、大きくあくびをしている。
この男、ブーヤンが有名な薬師の下で修業したというのでロウメルは信用して雇った。しかし蓋を開けてみれば、この有様だ。
「この前の患者には飲み薬を処方したな! あれから寒気が増したと怒っている!」
「薬っすからね。ある程度の副作用はしょうがないっすよ。治癒師じゃあるまいし……」
「更に高熱でうなされた患者もいるんだぞ! 副作用で済まされる問題ではない!」
「薬ってそういうもんすよ。合う人間と合わない人間がいるのはどーしようもないっす」
治癒師の需要増加に伴って、まともな薬師でも廃業を余儀なくされた者もいる。
ただし薬師の需要が完全になくなったわけではない。各國が推奨したせいもあって治癒師信仰が強まり、必要以上に淘汰されている側面があった。
現にこの治療院やメディが移り住んだ村のように、必要としている場所はある。
そこに目をつけた一部の者達がいた。何せ魔法を使えなくても誤魔化しが利くのだから、あこぎな商売との相はいい。
もちろんその知識や技はお末だった。それも當然で、彼らに薬師としての修業経験などない。そんな者達が間違った知識や技を後世に伝えるのだ。
やがて薬師という概念が形骸化した結果、ブーヤンのような者が次々と生まれてしまった。
ロウメルが頭を抱えていると、再び調合室の外から怒聲が聞こえてくる。
「おぉぉい! 責任者、出てこいや!」
「はい、お客様! どうされましたか!」
調合室を飛び出したロウメルの前に、怒り心頭な男が立っていた。
「あの治癒師はいないのかぁ! イライラみたいな名前のだ!」
「イ、イライラ……?」
「あのババアの治癒師だよ! 晝前に回復してもらったんだが、また痛みが増してきたんだよ!」
「も、もしかしてイラーザでは?」
「あー、そうそう! それよ! イライラーザはどこにいんだよ!」
「々お待ちを!」
ロウメルがまた走ってイラーザを探す。このようなことが起こるとは、とロウメルは落膽した。
イラーザはこの治療院でも古株であり、腕も確かだったはずだ。探しに探した挙句、イラーザは休憩室で舟をこいでいた。
「起きなさい!」
「は、はい! 何か!」
「君が晝前に治療した患者さんだがね! 痛みが引かないと訴えているんだ!」
「そんなはずは……」
「來たまえ!」
イラーザを連れ出して、ロウメルは患者の前に連れていく。
「私の治療に不備があったとのことですが?」
「開口一番になんだその態度は! お前、自信たっぷりにもう大丈夫ですって言ったよな! 痛みがどんどんひどくなってるんだよ!」
「それは一時的なものです。もうし安靜にされていれば問題ないですよ」
「いつ引くんだよ! お前、そんなこと一言も言ってなかったよな!」
「治癒魔法の常識の範囲で申し上げませんでした」
「こ、このっ!」
ロウメルはイラーザの態度が信じられなかった。彼を信頼して仕事を任せており、男が言うようなクレームなど今まで一度もなかったのだ。
「友人が言っていた通りだな! 態度も腕も悪い治癒師がいるってなぁ! この町にはここ一つしか治療院がないから仕方なく利用してるってのに!」
「當院の治癒に納得していただけないのであれば仕方ありません」
「イラーザくん! もうよしなさい! お客様! 大変申し訳ございませんでした! この私が直接、治癒いたしますので何卒」
「もういいッ!」
イラーザの患者を煽るような発言に、ロウメルは慌てふためく。當のイラーザはどこ吹く風といった態度だ。
「イラーザくん! 君はいつもあんな態度なのかね!」
「それでも患者さんは私達を求めているのだから問題ないのでは? なくとも今までは何の問題もありませんでしたが?」
「さっきの男も言ってただろう! ここしか治療院がないから通っていたんだ!」
「あ、ロウメル院長ー」
ロウメルが振り向くと、帰り支度をしたブーヤンがいた。
「晝過ぎから予定あるんでお先に失禮しまーす」
「は? 君、何を言ってる?」
「薬は作っておいたんで適當に出しといてください。じゃ」
「君ィィィ!」
ブーヤンが踴るような足取りでいなくなり、イラーザがのっそりと休憩室へ戻ろうとした。
「イラーザくん! どこへ行くのだね!」
「まだ休憩時間は終わってませんから」
「皆、その時間を惜しんで働いているのだぞ! そういえばクルエくんはどこに行った!」
「晝食を買いに行ってもらってます。そろそろ戻るんじゃないですかね。じゃあ……」
「待ちたまえ!」
イラーザを呼び止めるも、看護師からロウメルに新たな伝達があった。
「ロウメル院長! 薬の中に髪のがっていたと患者さんが……」
ロウメルは膝をついてしまった。なぜこうなったのか。なくとも薬に関しては原因がハッキリしている。
ついこの前まで在籍していたメディの存在がロウメルの頭の中でちらつく。薬師の代替えなどすぐに利くと高をくくっていた過去の自分を恨んだ。
応援、ブックマーク登録ありがとうございます!
大変、モチベーションに繋がりますので
まだしていないという方はどうか
「続きが気になる」「面白そう」としでも思っていただけたなら
ブックマーク登録、広告下にある☆☆☆☆☆のクリックかタップをお願いします!
「気が觸れている」と王家から追い出された俺は、自説通りに超古代銀河帝國の植民船を発見し大陸最大國家を建國する。 ~今さら帰って來てくれと言っても、もう遅い! 超テクノロジーを駆使した俺の建國史~
ロンバルド王國の第三王子アスルは、自身の研究結果をもとに超古代文明の遺物が『死の大地』にあると主張する……。 しかし、父王たちはそれを「気が觸れている」と一蹴し、そんなに欲しいならばと手切れ金代わりにかの大地を領地として與え、彼を追放してしまう。 だが……アスルは諦めなかった! それから五年……執念で遺物を発見し、そのマスターとなったのである! かつて銀河系を支配していた文明のテクノロジーを駆使し、彼は『死の大地』を緑豊かな土地として蘇らせ、さらには隣國の被差別種族たる獣人たちも受け入れていく……。 後に大陸最大の版図を持つことになる國家が、ここに産聲を上げた!
8 64シェアハウス【完】
『女性限定シェアハウス。家賃三萬』 都心の一等地にあるそのシェアハウス。 家賃相場に見合わない破格の物件。 そんな上手い話しがあるって、本當に思いますか……? 2018年3月3日 執筆完結済み作品 ※ 表紙はフリーアイコンを使用しています
8 96最弱の異世界転移者《スキルの種と龍の宿主》
高校2年の主人公、十 灰利(つなし かいり)は、ある日突然集団で異世界に召喚されてしまう。 そこにある理不盡な、絶望の數々。 最弱が、全力で這い上がり理不盡を覆すストーリー。
8 94ランダムビジョンオンライン
初期設定が必ず一つ以上がランダムで決まるVRMMORPG「ランダムビジョンオンライン」の開発テストに參加した二ノ宮由斗は、最強キャラをつくるために転生を繰り返す。 まわりに馬鹿にされながらもやり続けた彼は、全種族百回の死亡を乗り越え、ついに種族「半神」を手に入れる。 あまりにあまったボーナスポイント6000ポイントを使い、最強キャラをキャラメイクする由斗。 彼の冒険は、テスト開始から現実世界で1ヶ月、ゲーム內部時間では一年たっている春に始まった。 注意!!この作品は、第七話まで設定をほぼあかしていません。 第七話までが長いプロローグのようなものなので、一気に読むことをおススメします。
8 70內気なメイドさんはヒミツだらけ
平凡な男子高校生がメイドと二人暮らしを始めることに!? 家事は問題ないが、コミュニケーションが取りづらいし、無駄に腕相撲強いし、勝手に押し入れに住んでるし、何だこのメイド! と、とにかく、平凡な男子高校生と謎メイドの青春ラブコメ(?)、今、開幕!
8 66月輝く夜に、あなたと
いつも通りの夜、突如かかってきた彼氏からの電話。 電話相手は、謎の若い男。 彼氏が刺されている、とのこと。 そして、その男からの衝撃的発言。 禁斷のミステリー戀愛小説
8 142