《お薬、出します!~濡れを著せられて治療院から追放された薬師さんが辺境で薬屋を開きました。極めたポーションは萬能薬と呼ばれて回復魔法を超えるようです~【書籍化コミカライズ企畫進行中】》ハイポーションをお出しします!
「ハンターウルフか」
アンデは気張って構えているが、アイリーンが大した警戒心を見せていない。群れると厄介だが五級の魔ならば、今のアイリーンの敵ではなかった。
ハンターウルフが飛びかかった時には空中で口から尾にかけて、真っ二つとなる。アンデは驚愕して、ハンターウルフの死から目を離せない。
「す、すげぇ……」
「皮はそれなりに有用だが、今は先を急ぐぞ。む……」
左右に一匹ずつ、ハンターウルフがいた。アンデは再び剣で応戦の構えを見せて、メディは手に何か持っていた。
霧吹きだ。ワンタッチでそれはハンターウルフに向けて霧狀の何かを放つ。
「ギャゥッ!」
「ふー……」
霧狀の何かが放狀になってハンターウルフの鼻っ柱にまき散らされた。目鼻からを流して、ハンターウルフはよろめきながら倒れる。
アンデの手を煩わせず、アイリーンがもう一匹のハンターウルフを片手間で仕留めた。
謝の言葉を口にしようとしたアンデをアイリーンが手で遮る。
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「お前に死なれたら、場所がわからなくなる」
「そうだよな……」
一方でアイリーンはメディに質問したくてたまらなかった。何を吹きかけたのか。
ハンターウルフの慘い狀況が、何かとてつもない薬だと語っている。アイリーンは黙ったものの、アンデは好奇心を抑えられなかった。
「な、なぁ! 今のはなんだよ!?」
「グリーンハーブですよ」
「グリーンハーブってあの毒消しの? それでなんでハンターウルフがあんなことになるんだ?」
「いいから先を急ぐぞ」
アイリーンとしても気になったが、一刻を爭う。
前のめりになって聞きたいのは彼も同じだ。気にしているのはグリーンハーブという點だった。
毒消しとして知られているグリーンハーブも、メディの手にかかれば毒の類となる。そんなものを嬉々として作り、使用しているのだ。
「アンデ、忠告しておく。長生きしたければ薬師とは仲よくしておけ」
「お、おう……」
その昔、薬師が冒険者パーティで活躍していた時の格言だ。薬師と仲違いした冒険者が原因不明の死を遂げたなど、今でこそ笑い話だった。
アイリーンは二の腕をさする。メディだけは怒らせないようにしようと、その笑顔を見て誓った。
急ぎ足で山の中を進み、三人はついに目標の場所へと到著する。アンデの仲間であるポントとウタンが、目立たない木でぐったりとして倒れていた。
「おい! 生きてるか!」
「アンデ……」
「どいてください!」
アンデをどかして、メディは調合釜を取り出す。二人の容を見て、素材の選出を始めた。
「お、お前は薬師の……」
「ポントさんはアンデさんと同じ塗り薬でいいです。包帯の下に塗りましょう」
「い、痛みが……」
「ウタンさんは傷が深すぎますね。それに質を考えれば刺激が強すぎます。それならこれとこれです」
魔力水 ランク:C
レスの葉 ランク:C
グリーンハーブ ランク:C
ブルーハーブ ランク:C
オルゴム草 ランク:C
メディは沸騰した魔力水にレスの葉を投して高速でかき混ぜた。グリーンハーブをしだけ千切って、オルゴム草と混ぜて煎じる。
オルゴム草はアイリーンが飲んだハーブティーにも使った素材だ。の流れを平常に保つ草で、満のウタンにはうってつけだった。
不健康である彼への薬となれば、のあらゆる部分に気を配らなければならない。
グリーンハーブの解毒分をわずかに加えて、傷口からに侵した雑菌を駆除。レスの葉で治癒効果を活化させる。
仕上げにブルーハーブの魔力ですべての分をにより浸させたものが一瞬で完した。
ハイポーション ランク:B
「お薬、出します!」
メディが差し出したハイポーションをウタンが弱々しくけ取る。口をつけて、彼もまた弱ってるとは思えないほど一気に飲んだ。
「ぷはっ! なんだ、の痛みが引いていく……!」
「よかったですねぇ! これで一安心です!」
「こ、これがポーションか!?」
「今の素材ランクと私の腕ではこのくらいのものしかできませんでした。ハイポーションは難しいんですよねぇ」
アイリーンは冷や汗をかいた。その昔は安価だったハイポーションだが今は事が違う。
この治癒師全盛期において、まともなハイポーションを手にれるとしたら一般人の數ヶ月分の給料が必要となる。
手間がかかって量産は不可能と言われたハイポーションを、こんな環境でメディは作ってしまった。それも満のウタンに一切の負擔なく、満足させたのだ。
ニコニコと微笑むメディはどこまで自覚があるのか。なぜこんな辺境の地に流れ著いたのか。
質問したい衝を抑えて、アイリーンは無意識のうちに腕の震えを押さえた。
「あ、あれにグリーンハーブがってるのか……」
アンデはグリーンハーブが含まれた何かによって死んだハンターウルフを思い出していた。
魔を殺せる一方で、命を救える薬師という存在に恐怖を抱く。
「ポント、ウタン。立てるか?」
「お前が連れてきてくれたのか……」
「すまねぇ……」
地響きが鳴った。木々をかきわけて、赤い一対の目がる。
「な、な、なんだぁ!」
「でかいぞ!」
三人の男達が恐怖のあまり抱き合い、さすがのメディも怖気づいた。
霧吹きの中にっている薬でどうにかなるサイズではない。
「全員、そこで大人しくしていろ。すぐ終わる」
迫る巨大な魔の前に悠然と立つアイリーン。
三人の男達は歯のが合わない。彼らも戦いを生業としている以上、そこにいる化けがどれほどの存在か理解できるのだ。
勝てない。殺される。そう直観していた。
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