《お薬、出します!~濡れを著せられて治療院から追放された薬師さんが辺境で薬屋を開きました。極めたポーションは萬能薬と呼ばれて回復魔法を超えるようです~【書籍化コミカライズ企畫進行中】》メディの為に

メディがいる辺境の町から遠く離れた地にある水晶の谷。純度が高い魔石といえば、高確率で名前が挙がるこの場所は當然ながら危険地帯だ。

伯爵家専屬である討伐隊の隊長アバインは『星砕き』と恐れられた一級冒険者だ。超大型の槌を振るえば、鉱石の塊であるゴーレムをまとめて砕く。

アバイン率いる討伐隊はこれまで數々のダンジョンを荒らしてきた。

そこに二級以上の魔獣がいようが彼らは土足で踏み込み、すべてを奪う。こうして山ほどの財寶を伯爵に獻上してきた彼らにとって、怖いものなどなかった。

「に、逃げるな! 最後まで戦え!」

アバインの周囲には仲間の死が転がっていた。生き殘った者達も背を見せて逃亡を図る。

奧に進むほど魔石の純度が高くなるが當然、番人達もいる。紅晶竜《レッドマテリアルドラゴン》、魔石を食らって質を変化させた最強種のドラゴンだ。

を出して奧へ進めば、このような怪が待ちけていた。

「俺の槌が効かないなど……!」

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紅晶竜《レッドマテリアルドラゴン》の口から高熱のガスが吐き出されて、背を見せた討伐隊が骨も殘さず果てる。

とうとう一人になってしまったアバインは生まれて初めて恐怖を味わった。怖いものなどなかったはずだ。

「ひっ……! く、來るなっ!」

十二歳にして魔討伐をし遂げて二十歳になる頃には二級、數年後には一級への昇級と共に貴族から聲がかかった。

今は伯爵家の専屬だが、すでに騎士団からも聲がかかっている。出世街道に乗ったはずだとアバインは目元を潤ませていた。

「も、もう二度と、こ、ここには來ない……見逃してくれ……」

涙するほど恐ろしい。この怪から逃げたい。冒険者になど、なるべきではなかった。

これまでの人生を後悔した彼にも、間もなく高熱ガスが浴びせられつつある。

「先客がいたか」

アバインの目の前に竜の頭が落ちてきた。腕、、それぞれがその場で崩れる。

餅をついて相をしたアバインをアイリーンが通り過ぎた。

「なるほど。こいつ自が高純度の魔石というわけか。これは幸運だった。手間が省ける」

「あ、あんた、なんだ……」

「帰ったほうがいいぞ。ここには今のドラゴンよりも格上の魔がいる」

「何者だ、何なんだ……今のは、あんたが、やったのか?」

アイリーンは鼻歌を歌いながら、紅晶竜《レッドマテリアルドラゴン》の死から魔石を回収する。

辺境の町からこの場所まではかなりの距離があるが、アイリーンにはメディから買ったポーションがある。

アイリーン用に調合されたそれは疲労回復の効果が絶大で、わずかな睡眠時間を確保するだけで一日中走り続けられた。

あまり無茶はしないでくださいねというメディの忠告はあまり聞いていない。

「私が討伐したのだから、この魔石は私のもので構わないな?」

「いい、いいよ……あんた、何者だよ……」

「私はアイリーン。ここから遠い地にあるカイナの村で世話になっている冒険者だ」

「アイリーンってまさか……極剣か!?」

「そう呼ばれることもあるな」

アイリーンが魔石の回収を終えると、更に奧へと歩く。

「ま、待ってくれ! 仲間も死んでしまったし、オレはこれからどうしたらいい!」

「谷の外で待ってろ。魔はあらかた片付けたから、安全に出られるはずだ」

アバインがよろよろと起き上がって、一目散に外へと駆け出した。

彼を見送ったアイリーンが再び迫る怪と睨み合う。細長いの所々に魔石が埋め込まれた竜だ。

蒼晶竜《ブルーマテリアルドラゴン》、紅晶竜《レッドマテリアルドラゴン》と対をす魔でアイリーンはもちろん歓迎した。

埋め込まれている冷魔石はやはり高純度とわかるからだ。

「彼の仲間を弔わないとな。この場は荒らさせんぞ」

吐き出された凍てつく冷気がアイリーンの剣によって分斷される。

追撃を許さず、長い竜の切りとなった。剣を納めたアイリーンが一息ついて、改めてメディに謝する。

「ふぅ……。気持ちいいな」

心が解放されたおかげで、自由に剣を振るえるのだ。誰に気をつかうわけでもなく、地位や名聲などどうでもいい。

今の自分は小さな村と薬屋の為にある。ある意味で孤獨だったアイリーンはそこが居場所と思えるようになっていた。

蒼晶竜《ブルーマテリアルドラゴン》の死から良質な魔石を選別して、アイリーンは溫室栽培を思い浮かべる。

そこにいるのはニコニコしたメディだ。その景を思い浮かべるだけで、作業がより捗った。

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