《お薬、出します!~濡れを著せられて治療院から追放された薬師さんが辺境で薬屋を開きました。極めたポーションは萬能薬と呼ばれて回復魔法を超えるようです~【書籍化コミカライズ企畫進行中】》苛々イラーザ

イラーザは今日も患者に怒鳴られた。怪我の治りが遅い、まだ痛みがある。態度が悪い。

ありとあらゆるクレームをけ続けて、素行にも影響が出る。暴に置いたり、ドアを強く閉めるなど。

來院した患者でも、気が弱ければそのままそそくさと出ていく。

「あのオヤジ……私の腕が悪いですって? そんなわけないでしょ」

勤続三十年、イラーザは自分の腕に確固たる自信を持っていた。魔法の才能が認められたのは十二歳の時、それから三年かけて魔法學院中等部を卒業。

高等部には進學せず、現在の治療院にすんなりと採用された。ロウメルも手放しで歓迎して、治療院の中核となるのに時間はかからない。

治癒魔法は重寶された。薬での治療は調合の手間がかかり、素材の金も馬鹿にならない。魔法一つで解決するのであれば、國が推奨するのも仕方なかった。

「イ、イラーザさん。十三號室の患者がお呼びです」

「チッ……」

足の怪我で院している患者だ。事故で歩けなくなった彼の事をイラーザは心、見下していた。

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魔力を持たずに生まれてきたから危険な力仕事をやるはめになる。頭も使えないからを使うしかない。

それなのに選ばれた治癒師たる自分に生意気な口を利くなと、イラーザはしかめっ面で病室に向かった。

中年男が不機嫌な面持ちでイラーザを見るなり、舌打ちをする。

「何かご用で?」

「ご用で、じゃないんだよ。君さ、いつになったらこれ治るの? 治癒魔法なら數日の院で済むって言ってたじゃないか」

「それはご本人の質にもよりますので、予定がずれたとしか言えません」

「そんないい加減な治療をされちゃこっちも困るんだよ」

イラーザは怒鳴り散らしたい衝を抑える。なぜ、こんなにも傲慢になれるのかと、イラーザはもう顔にも隠さない。

察した中年男の患者も骨に不快わにする。

「もういいからさ。ポーションでも何でも出してよ。ここに評判がいい薬師がいるだろう。以前、ここで世話になった時に知ったんだがな」

「薬師のブーヤンなら早退しました」

「違う、違う。確かの子で……」

の子……?」

「禮を兼ねて一度、挨拶をしたことがあるんだ。明るくていい子だったな」

イラーザが思い當たったのはメディだ。そうとわかれば青筋を立てる。

「お言葉ですがその薬師は先日、解雇されました」

「なに! なぜだ!?」

「患者に毒を盛ろうとしたのです。手元が狂ったと言い訳していましたが、目撃者もいます」

「そんなことをしたのか? 信じられんな……。だとしたら投獄されているのか?」

イラーザは答えに窮した。本當はロウメルの獨斷で追放処分で済んでいる。

投獄されたなどと噓をつけば、男が詰め所に問い合わせる可能があった。イラーザは考える。

が考える計畫を思えば、ここで話したほうが後々の為にもなると判斷した。

「いえ、実は……あの、噂なんですけどね。どうかここだけの話ですよ?」

「そんなにまずい話なのか?」

「えぇ、実はロウメル院長がその薬師を追放したようなんです」

「なに? それは問題なんじゃないのか?」

「責任逃れですよ。あ、でもあくまで噂ですからね?」

ロウメルがメディにけをかけて追放したのは事実だ。しかし、そもそも毒り薬事件自造である。

は考え込んでいた。怪我をした足をさすりながら、イラーザの目を見る。

「なるほどなぁ。それが本當なら大問題だ。あのロウメル院長がかぁ……」

「最近、治療院の経営が傾いてるのも影響しているかもしれません。私達も當たり散らされて迷してるんですよ」

「そうか。わかった、それなら仕方ないな」

イラーザは安堵した。

「今すぐ退院手続きをしてくれ」

「はい?」

「そっちも大変みたいだからな。いつまでも迷をかけちゃいかん」

「そ、それはお気になさらず!」

「いーや、どのみちそんなゴタついたような治療院にはいられんよ。足なら心配ない。杖でもつけば歩ける」

がベッドから降りて、杖を手に取る。よろめきながら、支度を始めた。

治療も終えてないのに退院されてしまえば、ますます治療院の評判に関わる。イラーザとしては治療費を請求できなくなるのも問題だった。

「危険です! そもそも退院許可が」

「ロウメル院長に直接、話をつける。君じゃどうも話にならん」

「わ、私が噓をついているとでも!?」

「噓?」

「い、いえ」

杖をついて、男が病室から出ていった。イラーザはまた思案する。

彼に退院されたところで計畫に支障はない。たかが中年男一人、そう思い込むことで神の安定を保っていた。

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