《お薬、出します!~濡れを著せられて治療院から追放された薬師さんが辺境で薬屋を開きました。極めたポーションは萬能薬と呼ばれて回復魔法を超えるようです~【書籍化コミカライズ企畫進行中】》認め合ったところで薬湯です
「行くよ! アイリーンさん!」
人の気配がない村の外れにて、エルメダがアイリーンに向けて拡散線(レーザー)を放つ。
五本の線(レーザー)が自由な曲線を描きながらアイリーンを四方八方から襲った。
アイリーンが息を吐いてから、片足に力をれて回転。回転の刃となったアイリーンにすべての線(レーザー)がかき消された。
エルメダは愕然として、後ろの木にもたれかかる。
「や、やっぱり化けじゃん……」
「いや、なかなか素晴らしい魔法だった。正面からでなければ私も対処が難しいだろう」
「そんな気休めでしょー……」
「戦いとは常に一対一で向き合うものではないぞ。それとわざわざ攻撃時に許可を取らなくていい」
アイリーンとエルメダは意気投合して、最近はずっと特訓をしている。
エルメダは魔法の奧深さに気づいて狩りをするが、それだけでは足りない。もっと極めたいとメディに告げると、アイリーンを紹介されたのだ。
極剣相手に恐れ多いと一度は込みしたが、アイリーンは快諾。連日のように二人は模擬戦を繰り返していた。ただし勝敗はあまりに偏りがある。
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「これで三十敗じゃん。私じゃなかったら心折れてるよ」
「折れたらまた叩き直せばいい。そうすればより頑丈になる」
「そんな骨みたいな理屈で? ていうかアイリーンさんも心が折れたことあるの?」
「あるぞ。彫刻家を目指していた時があってな」
有名な彫刻家に弟子りしたものの、瓦礫となって何も殘らなかった。
師匠にも見放された時のエピソードを話すアイリーンに、エルメダはまともに顔を向けられなかった。
「そ、それは大変、だったね……」
「あぁ、ショックだった」
顔を背けて笑いを堪えている。堪えきれなくて切りにされる自の末路を思えば、なんとしてでも踏ん張らなければならない。
何せ話しているアイリーンは真剣なのだ。他人の夢破れた話を笑うなど、とは思うもやはり笑い話である。
「どうした? 調でも悪いのか?」
「ちょ、ちょっとお腹が痛くて」
「それはいけないな。今日の模擬戦は終わりにしよう」
エルメダは元の襟を摘まんで、ぱたぱたと揺らす。まだ本格的な冬を迎えていないとはいえ、今日だけで三戦もしたのだ。
一方でアイリーンは汗一つかいていない。それを見てげんなりしたエルメダが地面に腰を落とす。
「あーーー、お風呂にでもりたいなぁ」
「お疲れ様です! お薬だします!」
「うわぉっ! メ、メディ……ビックリした」
「差しれのポーションですよ」
メディが二人用に調合した冷たいポーションだ。力回復だけではなく、作りにも貢獻している。
ごくごくと飲めるため、これを見た村人からの注文も殺到していた。
「ぷっはー! たまらん!」
「エルメダさん、おじさんみたいですね」
「これでも今年で三十だからねぇ」
「お、おばさんじゃないですか!」
「これが人とエルフの違いさ」
エルメダの容姿だけ見れば、十代のと変わらなかった。メディが見抜けなかったのも無理はない。
エルフの長壽の訣は恵まれた魔力の質や作によるものだと考えられている。無意識のうちに魔力で皮や組織の老化から守っていた。
人間からすればとんでもない事だが、エルフにしてみれば誰にでも生まれながらに備わっている機能だ。
各界隈で研究がなされているがエルフの魔力の質、そして無意識による作は人間では不可能と言われている。その昔、長壽を目指してエルフ狩りが行われた歴史もあった。
「私、まだまだエルフについて知識が足りてませんでした……」
「私からすればメディの知識のほうが驚くけどね。師匠とかいるの?」
「私が持っている知識はお父さんから盜みました」
「盜む?」
「薬の調合の知識なんかはほとんど何も教えてくれないので見て覚えました」
アイリーンとエルメダは沈黙した。それを剣に置き換えれば、剣聖に屆く資質だ。魔法に置き換えれば賢者に到達できる。
やはり二人はその知識の源である父が気になった。メディが現時點で師匠である父と同格なのか、或いは及んでいないのか。
もしメディのような薬師が他にいるとすれば、國が放っておくはずがない。メディだけでも、こんな田舎でのほほんとして居られる立場ではないのだ。
「メディ。父は今、どこにいる? なんという名だ?」
「遠くの田舎にいますよ。ここと同じくらい小さい村です。名前はランドールです」
「ランドール……? 聞いたことがないな」
「當たり前ですよー。小さな田舎の薬師ですからねぇ」
高名な薬師かと思えば、アイリーンに思い當たる人がいない。しかし解せなかった。
そんな力を持った薬師が田舎に引きこもっている。この親にしてこの子ありといったように、やはり似通うものか。
アイリーンは邪推に邪推を重ねたが、無粋でもあった。メディに助けられた自分が勘ぐる話でもない。それはエルメダも同じであったが、彼としてはやはり気になる。
「メディはさ、もっと大きなところで働きたいとか思わないの?」
「大きなところですかー……。思わないですね」
「そっか……」
エルメダは再びメディの表を観察した。やはりりがある。かつては大きな町で働いていたが何かあったのだと察するには十分だった。
そんなエルメダをメディがじーっと見つめている。
「な、なに?」
「エルメダさんとアイリーンさん、お疲れですね。やっぱり必要ですよねぇ」
「何が?」
「心ともに癒されるようなお風呂。いわば薬湯です」
「やくとう!?」
メディが立ち上がって二人を見下ろした。その目はやはり輝いており、実行に移す気満々だ。
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