《お薬、出します!~濡れを著せられて治療院から追放された薬師さんが辺境で薬屋を開きました。極めたポーションは萬能薬と呼ばれて回復魔法を超えるようです~【書籍化コミカライズ企畫進行中】》イラーザの牙城

「最近、當治療院へ來院する患者が減っている。退院手続きを申し出た患者も多い」

ロウメルは會議室での定例集會にて、開口一番に全員に向けて告げる。

大あくびをしてメモ帳のスケジュールをチェックしているブーヤン、しかめっ面で構えるイラーザ。ヒソヒソと周囲の看護師と何か囁き合うクルエ。

ため息を堪えてロウメルは言葉を続けた。

「治癒魔法とて萬能でないことはわかっている。特にベテラン諸君はよくやっていると私は思う。しかし、ここ最近になって急にクレームが増えたのだ。來院數が減ったとて、怪我人や病人が減ったわけではあるまい。何故か? 思い當たる原因を述べよう。まずブーヤン君」

「へ? オレっすか?」

「まずこっちを見なさい」

「へーい」

だるそうにブーヤンがメモ帳から目を離す。目元をこすって、またあくびをした。

「君はあの高名な薬師クヤッフの下で修業をしていたのだったね。それにもかかわらず、君の薬の評判はよくない。副作用とは言うが以前、在籍していた薬師の時では考えられなかった。君はいったい、何を學んできた?」

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「前の薬師がいたんすか?」

「いたよ、ブーヤン。毒を混させた薬を出そうとした馬鹿な小娘がね」

「マジっすか、イラーザさん。の子だったんすか。惜しいなぁ。お近づきになりたかったなぁ」

ロウメルの話をそっちのけでイラーザとブーヤンが盛り上がる。ロウメルは我慢の限界だった。

當の原因を作った者達が何一つ自覚していない。怒りを堪えて、次はイラーザだ。

「イラーザ君、君もだよ。確かに君は當院に長年に亙って勤務してくれた。しかしここ最近になって急に君の素行や治癒魔法へのクレームが舞い込んでいる。なぜか? それは以前から患者が抱いていたものだ。知っての通り、治療院はこの町に當院のみ。不満があろうが選択肢などないのだよ。皆、我慢を重ねて利用してくれただけだ」

「ではなぜ最近になって、と仰るのですか?」

「本題はここからだ。し前まで當院の評判は良かった。難病も怪我も長引かない。患者の笑顔が目立った。更にし前までは考えられなかったのだ。良い環境になれば人は慣れる。逆戻りすればどうだ? 慣れた環境に戻せと人々は怒る」

「つまり何を仰りたいのですか?」

「ほんの一年間だがな。以前、追い出してしまった薬師……彼の薬は本だ。最終的に私の判斷で追い出してしまったことを後悔している」

「……は?」

イラーザは不快を隠さない。ここにきて今更、何を言ってるのか。ロウメルもまた何かを企んでいるのか。

イラーザは焦った。ロウメルの決斷や行次第では自の計畫が水の泡になる。イラーザは時間稼ぎへと切り替えた。

「お言葉ですがロウメル院長。もし彼を連れ戻すのであれば、あなたの経歴に傷をつけることになります。下手をすれば毒事件の責任を取らされて投獄の可能すらありますよ」

「それでもいい。私が間違っていた。彼がそんな事をするはずがないし、あの事件は何かおかしい。私は今一度、彼に會ってみようと思う」

「馬鹿なことを! それで何が解決すると!」

「患者の心だよッ!」

ロウメルがついに怒鳴った。皆が抱いている溫厚で低姿勢というイメージからはかけ離れている。

後悔に打ち震えたロウメルがイラーザ達を睨みつけた。

「私が間違っていた! 高給に満足して腐敗に見向きもしない! 黙っていても患者は來るのだからな! 私も君達と同類だよ! いや、それ以下かもしれん! すべての責任は私が取る! まずはイラーザ! ブーヤン! 君達を解雇する!」

「正気ですか!?」

「正気だとも! 私は」

治療院に複數人がってきた。白いローブを纏って清潔と高潔さに溢れた集団、患者ではない。

ロウメルはハタと気づいて、集団を迎えた。

「治癒師協會のレリック支部長、本日はどのようなご用件でしょう?」

「この中にイラーザという治癒師はいるか?」

「あちらに……」

レリックはロウメルの脇を通り過ぎて、イラーザに挨拶をした。ロウメルは尋常ではない雰囲気をじ取る。

何が起こっているのか。まったく理解できなかった。

「治癒師イラーザ。報告、ご苦労だった。本日はこちらで調査しよう。念のため、聞き取り調査を行なった上で然るべき判斷を下す」

「ありがとうございます! レリック支部長!」

「ど、どういうことかね!」

「ロウメル院長。いえ、ロウメル。もうあなたには何の権限もない」

イラーザがロウメルに邪な笑みを浮かべる。他の者達も澄ました顔をしており、ロウメルは察した。

「き、貴様! まさか!」

「今までご苦労様でした」

レリックの聞き取り調査もすべては形だけだった。イラーザの息がかかった者達が口にしたのはロウメルへの不満だ。

いかに彼が腐敗化の要因であるか、更にはロウメルが手のかかる患者を殺そうとして毒を盛って殺害の手引きをしたなどと造されてしまった。

イラーザは以前から治癒師協會に手紙で告していたのだ。自の手柄を主張して、治療院の頂點に立つために。

「ロウメル、本日をもって院長の任を解く」

毒殺事件についてれないのは治癒師協會の面目を考えての事だ。そのため、ロウメルは治癒師協會から追放処分とされた。

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