《お薬、出します!~濡れを著せられて治療院から追放された薬師さんが辺境で薬屋を開きました。極めたポーションは萬能薬と呼ばれて回復魔法を超えるようです~【書籍化コミカライズ企畫進行中】》魔導列車急停止 2

冒険者達は我が目を疑った。エルフとはいえ、小柄で子どものような外見のがトロルをまとめて討伐していく。

その魔法の度は味方を一切巻き込まず、の軌道を描いて敵だけを狙い撃っている。

警備隊も車掌も乗客も、魔に襲われているのにまるで演劇でも観賞しているかのようだった。

「なんだよ、ありゃ……」

「あんな魔法、見たことないぞ!」

「あのトロルの皮なんかものともしてねぇ!」

冒険者達はメディの汎用ポーションを飲んだ後も、エルメダの魔法から目を離せない。

トロルは王國騎士団や宮廷魔導士団ですら手を焼く難敵だ。単では三級ということもあり、これだけなら脅威とならない。

しかしトロルは群れるのだ。五級のゴブリンやハンターウルフのような下級の魔とは違う。

三級という等級で群れる魔はトロルの他にはない。しかも魔道列車を襲っているトロルの數は異常だった。

「皆さん、列車の中に避難しましょう!」

「そういう君はどこへ行くんだ!?」

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「私はここでトロルがってこないようにします」

メディが言った矢先にトロルが向かってくる。冒険者達は構えるも、メディがスプレーを取り出した。

トロルに噴したところで、巨が止まる。眩暈を起こしたかのように揺れて、ドシンと倒れた。

痙攣して嘔吐までしており、冒険者は新たな異常事態に頭の中で処理が追いつかない。

「なんだ、今、トロルに何をしたんだ?」

「グリーンハーブを使った毒です。本當は殺す薬なんか調合したくないんですけど仕方ありません」

メディの発言から、冒険者達は彼が薬師であることを察した。

このご時世に薬師などと嘲るところだが、メディは三級のトロルをものともせずに殺してしまったのだ。

ようやく理解が追いついた時、冒険者達は震えた。

「ト、トロルを瞬殺する薬なんて聞いたことがないぞ……」

「あ、そうです。危ないので離れていてください。しでも吸ったら危険です」

「ひえぇぇぇ!」

冒険者達が一目散に魔導列車に避難した。その一部始終にエルメダが、ひゅうっと口笛を吹く。

この世でもっとも怒らせてはいけないのは誰か。その気になればあらゆる暗殺を可能とするポテンシャルをメディに見出した。

治癒魔法ではとても不可能な蕓當だ。薬という奧深い概念をエルメダは目の當たりにしたのだ。

「さてと、ついに大ボスがき出したってね」

エルメダ無雙に腹を立てたトロルキングが、手下を足で薙ぎ払う。額に浮かぶ管が怒りを語っていた。

さすがの警備隊もじろぎしてき出せない。彼らが対処できるのはせいぜい三級までだ。

魔導列車を止めるほどの魔に襲われる事態にほぼ前例がないため、警備隊への予算はそこまで多く割かれていない。

「ふごっふ!」

「なんて?」

「ふんごがるばがぁぁぁ!」

「こわっ!」

トロルキングがエルメダに向けて拳を放つ。が、巨の肩ごと消滅している。

「ふげごっ!?」

「そんな図で居座られたら列車が発進できないからね」

エルメダが片手に魔力を集中させて、トロルキングがに怯える。

ここにいる者達は真の意味でエルフという種族の恐ろしさを理解していなかった。

魔法と魔力に長けた種族、ここで知るのは概要だけではない。

「跡形もなく消えてもらうよ」

そのはすべての者を畏怖させる。メディですらギュッとを引き締めて、冒険者達はを寄せ合っていた。

警備隊も後ずさりして、構えすら解いている。

「大線(メガレーザー)ぁぁぁぁーーーーーーー!」

傍目からはがトロルキングの巨を包み込んだようにしか見えない。

と共にトロルキングが斷末魔のびすら上げずに消えていく。が収束した時、レールの上に落ちたのはトロルキングのかすかな殘骸だった。

レールへの影響を考慮して、エルメダはトロルキングの巨のすべてを破壊しなかったのだ。

「ふぅー……これで全部、片付いた? よね?」

「もうトロルは討伐されたようです。お疲れ様です」

メディがひょこっと列車から出てエルメダを労う。平靜でいられるのはメディのみだ。

冒険者、車掌、乗客は何を見せられているのかと己の正気さえ疑う。トロルキングは二級の魔であり、大規模討伐(レイド)クエストが出される化けだ。

本來であれば、魔導列車はここで止まっていた。皆殺しにされて國が腰を上げる事態だったが、たった一人の魔導士が解決してしまったのだ。

そんな大事だが當の本人はのこのこと列車にる。

「ほら、車掌さん。早く列車をかしてよ」

「へ? あ、えーと……」

「どうしたの?」

「い、いや。終わったんですよね?」

「終わったよ?」

エルメダの偉業とも言える討伐だが、本人はどこ吹く風だ。し前の彼なら、冒険者として再び返り咲けると喜んでいただろう。

しかしメディに出會い、アイリーンと模擬戦を繰り返すうちに富や名聲よりも大切なものが出來たのだ。

村での安らぎを覚えた彼は今や皆殺しと呼ばれた頃のコンプレックスなどない。が快活故に、引きずらないせいもある。

「早くワンダール公爵のところへ行かないとね」

「はい。車掌さん、列車をかしてもらえますか?」

「そう、そうだな」

車掌がようやくきを見せたが、冒険者達は座席に座ったまま考え込んでいた。

先程まで護衛依頼の減を嘆いていた彼らだが、現狀はトロルの群れに苦戦する始末だ。

護衛が務まる冒険者ならば颯爽と対処する。三級に昇級して浮かれていた自分達を恥じた。今の立ち位置を思い知った彼らは列車がき出してから一言も喋らなかった。

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