《お薬、出します!~濡れを著せられて治療院から追放された薬師さんが辺境で薬屋を開きました。極めたポーションは萬能薬と呼ばれて回復魔法を超えるようです~【書籍化コミカライズ企畫進行中】》ワンダール公爵 1

し待っててね。怒られてきますから……」

言葉とは裏腹に、カノエは実に楽しそうだった。本來であれば門前払いだった他の者達まで通してしまったのだ。

そりゃ怒られるよねとエルメダは張した面持ちで応接室のらかいソファーにを預けている。

無事、公爵家に通されたメディ達だが他の者達は今更になって心配していた。たとえ通されても、紹介狀の主を理由に斷られていたのだ。

カノエは事前に、紹介元によっては通すなと言いつけられている。それにも関わらず通してしまった。

ワンダールと直接対面しても、渉がうまくいく余地などない。

「……遅いな。早くバッドムーンの報をいただきたいところだ」

「ベイウルフさん、だっけ。バッドムーンって有名な賞金首だよね。確か數年前にどこかの戦爭の終止符を打ったきっかけになったとかいう……」

「あぁ、數千はいたはずの両陣営にほとんど姿を見せることなく半壊させた伝説の賞金首……」

「な、なんですかそれぇ! おっかないですねぇ!」

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震えたメディの頭をエルメダがでて落ち著かせる。數ない生存者が見たという三日月のシンボルが呼び名の由來だ。

わずかに生き殘った者達から語られた視覚報だけでバッドムーンという呼び名が獨り歩きするようになる。

それから間もなく生き殘った者達は神を病み、または記憶からその狂人を消していく。ベイウルフは神妙な面持ちで語った。

戦場の生臭い噂とは無縁の生活を送ってきたメディにとって刺激が強い話だ。

とはいえ、この場で會話で盛り上がることができる者達などこの三人くらいだった。他の者達は張の糸が切れない。

「お待たせ。そこの薬師さん、ワンダール公爵との面談よ」

「いきなり私ですかぁ!?」

「責任重大よ。機嫌を損ねたら他の人達とも會わないってさ」

「ええぇぇーっ!」

「あ、そこのお付きの人もどうぞ」

「えぇぇぇーっ!」

釣られたエルメダだが、ここで拒否されるほうが彼にとって我慢ならない。

心のにあるのはメディという薬師がワンダールに認めてもらう事。メディという人を知ってほしいのだ。

その為にわずかにでも助力しなければならない。

「ではこちらへ。他の方々はくつろいでいてどうぞ。が渇いたら、使用人に言いつけてね」

カノエの案で、メディとエルメダは広い屋敷の廊下を歩く。

さすがのメディもここにきて張している。相手は本來であれば一切縁のない上流階級なのだ。

そんな人へ紹介狀を書いた村長の正も気にかかっていた。

* * *

「來たか。カノエのケンカを買った小娘よ」

メディは面食らった。村長の知り合いならば、白髭を生やして腰を曲げた上品な老人がそこにいると思っていたからだ。

ブラウンの、口元から見せる牙、猛獣のような目、というより猛獣そのものだった。人一倍大きなソファーを一人で獨占して、片手にはワイングラス。

獣が二足歩行で人間の真似事をしていた。

「初めまして! メディです!」

「わ、私は付き添いのエルメダです。不躾な者ですが何卒、よろしくお願いします」

「んむ、あのブランムドの紹介だろ。あの野郎、まだ元気に生きてるか?」

「村長さんのことですか?」

そうかそうか、とワンダールはワインを一気に飲む。使用人がすかさずワインボトルを傾けてグラスに注いだ。

メディはそこにいる獣人を観察した。獣人の存在は知っていたが、見るのは初めてだ。

人間とも違うの構造、そして何よりほぼすべてのが人間を凌駕している。メディ達が室してからすでに何杯もアルコールを摂取しているが、潰れる様子がない。

グビグビとうまそうに飲み、フーッと酒臭い息を吐く。

「村長ねぇ……あの野郎、どこだかに隠居するとか言ってたな」

「あ、あの、ブランムドってまさか先代……じゃないですよね?」

「前の國王だよ。ていうか知らなかったのか?」

「ぎえぇぇぇぇーーーーーーっ!」

エルメダの悲鳴が室を越えて響き渡る。メディは耳に指を突っ込んだ。

「ハッハッハッ! うるせぇな!」

「す、すみません……。でもあんなところに前王がいるなんて……」

「息子に王位を譲ってから、はっちゃけたんだな。で、その隠居ジジイが紹介狀をよこす奴らか」

途端にメディ達はギロリと睨まれた。おおらかに笑っていたと思えば、それこそ獣の目つきを見せる。

「で、何の用だ?」

「ワンダール公爵にレスの苗木をいただきたいのです」

「嫌だね」

「お願いします」

ワンダールは何杯目かわからないワインを飲む。変わり者という村長ことブランムドの言葉に噓はないとエルメダは悟った。

先程まで笑っていたと思えば、橫柄になる。メディの渉にも問題はあるが、言い方があるだろうとエルメダはやや不満だ。

メディのかわりにエルメダが頭を下げる。

「ワンダール公爵。村に薬湯を作ることになりまして、その際にレスの苗木が必要なのです。メディの調合した薬はあの村長の病すらも治しました。この子の腕をもってすれば、素晴らしい薬湯になると思うのです」

「そうか。レスの葉ならこの町にいくらでも売ってるから、好きなだけ買っていきな」

エルメダは言葉に詰まる。ここで返答を間違えば終わりだ。

町に売っているものは高価で手が出ませんなどと言えば、ワンダールは自分なら安く譲ると思ったのかと激怒する。

どうする。どうすれば、このワンダールを認めさせることができるか。そこで一つ、思い出す。そしてエルメダはメディをちらりと見た。

「治癒師推進制度がひっくり返ります」

「あん?」

「ここにいるメディが世間に認知されたら、間違いなく國は考えを改めるでしょう」

「薬師が國崩したぁ面白いじゃねえか」

「崩すのではありません。変わるのです」

エルメダにいつもの気な雰囲気はない。魔力相応、魔導士相応の風格でワンダールと向き合っている。

その場凌ぎから出たものではないと、ワンダールを圧していた。

「今、國中に蔓延している難病は姿を消します」

魔導士エルメダの言葉でなければ、カノエのブラフがまったく通じなかったメディがいなければワンダールは鼻で笑っただろう。

ワンダールは長年、ここまで淀みなく言い切る人と出會ったことがない。かつて王であったブランムドのそれとよく似ている。ワンダールはソファーを立ち上がった。

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