《お薬、出します!~濡れを著せられて治療院から追放された薬師さんが辺境で薬屋を開きました。極めたポーションは萬能薬と呼ばれて回復魔法を超えるようです~【書籍化コミカライズ企畫進行中】》クルエの足掻き

「ク、クルエさん!?」

治療院に勤めている従業員は現在、自宅待機中である。夜になるのを待ってクルエはイラーザの屋敷を抜け出すと、同僚の自宅へ向かった。

警備隊に見張られている可能も考えたが思いの外、すんなりと移できて彼で下ろす。ちょろい、などと舌を出す余裕さえあった。

クルエが訪ねたのは自に次いで、イラーザから信頼されていた看護師だ。突然の訪問者には目をしばたかせる。

「パメラ。今、どういう狀況かわかるわね」

「は、はい。私達全員に毒事件の容疑がかかっていて、町長は徹底的に真相を突き止めるつもりなんですよね」

「そう、このままでは私もあなたも巻き添えよ」

「でも、それは指示に従ったからであって……」

クルエがパメラの頬を叩く。治療院では大柄な彼の力は強い。

パメラが涙目になって倒れてクルエを見上げた。

「今更、何を言ってるの? 私もあなたも証言をでっち上げてメディを見送った。同罪なのよ」

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「ち、違うわ……私は悪くない……」

「処刑を免れたとしても無期限の強制労働くらいは待っているかもしれないわ。そんなの嫌でしょ?」

「どうすれば……」

クルエは額から流れる汗をテーブルクロスで拭う。パメラは當然、咎めなかった。

「イラーザさんは冒険者に殺しの依頼をした。ターゲットはロウメルとメディよ」

「はぁ……!?」

「あの二人を殺せばすべてを隠し通せると考えているのだけど、さすがにリスクが大きすぎる。あの人は完全に暴走してるのよ」

「そんなの私に関係ない!」

二度目の平手打ちでパメラはまたも床に倒れた。更に脇腹に蹴りをれて過激な暴行を加える。

何度目かの暴力を終えるとパメラは抵抗の意思をなくした。

「私ね、こう見えても昔は冒険者だったの。割に合わなくて引退しちゃったけど、逆らわないほうが賢明よ」

「う、うっ、ぅ……」

「いい、パメラ。あなたに選択肢なんてないのよ。あなたは私と一緒に町長の下へ來てもらうわ」

「それで、どうしろと……」

「私達はイラーザに脅されていた。そう証言しなさい。一人より二人よ。もちろん他の連中も従わせるわ」

暴力に屈したパメラはそうするしかないと悟った。クルエの言う通り、このまま捜査が進めば無罪ではいられない可能が高い。

そうなる前に真摯な態度を見せて、に訴えれば減刑に繋がると思った。パメラは泣きながら、クルエに従おうと心に決める。

「わか、りました……」

「イラーザはやりすぎた。さすがについていけないわ。すぐにでも」

窓ガラスが割れた。二人が振り向くよりも早く飛び込んできたのはデッドガイだ。そして後からゆっくりともう一人、ってきた。

「あ、あぁ……な、なんで……」

「クルエさんよ。寢返りはさすがに害だぜ。なぁ、イラーザさん」

「えぇ、本當に……。クルエ、あなただけは信頼していたのに殘念だわ」

デッドガイの後ろに立つのはイラーザだ。

クルエは己の認識不足を呪った。長年、イラーザに従っていた自分が出し抜ける相手ではないのだ。

腐っても治療院である意味、ロウメル院長時代に権力を握っていた人である。彼は自分の離反すらも見抜いていた。悔やんだところですべては遅い。

「ここで臺無しにされちゃ金が貰えないからな。他の雇われた連中は考えなしにいてるが、俺は見逃さねぇ」

「ぐ、ぐぐ……キエェェーーッ!」

クルエが懐から取り出したナイフでデッドガイの心臓を突き刺した。デッドガイのが揺れてそのまま倒れ――

「ないんだな、これが」

「え、えッ……!」

デッドガイがケロリとして、ナイフを引き抜いて放り投げた。が出ている様子もなく、クルエはいよいよ歯のがかみ合わない。

「俺は不死なんだよ。不死のデッドガイって聞いたことねぇか? ないな、うん。自稱だからな」

「ば、ばば、化け……!」

「ひでぇなぁ。俺だって言葉で傷つくし、野糞はしねぇ。立派な人間だよ」

「うあわわわ……」

不死のデッドガイ。元はクルエが雇った人だが、詳細までは把握していなかった。

ただし噂については聞いている。どんなパーティに所屬しても、彼だけは必ず生き殘った。

デッドガイ以外のメンバーが死んでも必ず帰還する。そう、必ず誰かしらが犠牲になるのだ。

たとえ経歴に傷がつこうと、報酬だけがデッドガイの懐にる。それが三級止まりの要因だった。

「そう怖がるなって。俺を殺せる奴なんかどこにもいやしねぇんだ。慣れてるからよ、怒ってない怒ってない。イラーザさん。この後、どうするんだ?」

「そうねぇ。殺してもらうわ」

「ひっ!」

逃げようとするクルエとパメラをデッドガイが捕まえる。片手に一人ずつ、首を摑まれて床に叩きつけられた。

「二人の居場所の見當がつきますぅッ!」

デッドガイが武を取り出したところで手を止めて、イラーザに目で指示を求めた。

ふぅ、とため息をついてしゃがみ込んだイラーザがクルエの頭をでる。

「じ、実は……私も、気になっていて……。調べたんですよぉ……」

「へぇ、それでどこにいるの?」

「さ、最後に、メディを見たのは……魔導列車の駅、クムリタ方面行きの、列車に、乗車したって……」

「どこの報なの?」

「元患者です……。世話になった禮を言おうと、聲をかけようとしたけど……間に合わなかったって……」

イラーザは深呼吸をして、涙で床を濡らすクルエを見下ろした。

これだけで特定は困難だ。大した証言ではないと、イラーザは再び殺しの指示を出そうとした。

「それだけわかりゃ何とかなるかもな」

「あら、本當?」

で十五かそこらの薬師だろ? これだけの特徴がありゃ、本人がひた隠しにして歩いてない限りはどこかしらに痕跡がある」

「そういうもの?」

「ていうかイラーザさんよ。こいつらを殺したら事態が悪化するぜ。要するにガキの薬師とジジイの治癒師を殺せばチェックメイトなんだろ? だったらそれまで大人しくさせようぜ」

「……それもそうね」

デッドガイの提案に納得したイラーザは二人を生かして監する事にした。

ただし二人はイラーザの屋敷へ連れていかれる事になる。何せ警備兵の監視が思ったより緩いのだ。

ここまで縦橫無盡にけるとは思えず、イラーザは笑みを止められない。

現時點でパメラの自宅付近に一つの影があったが、誰も気づかなかった。

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