《お薬、出します!~濡れを著せられて治療院から追放された薬師さんが辺境で薬屋を開きました。極めたポーションは萬能薬と呼ばれて回復魔法を超えるようです~【書籍化コミカライズ企畫進行中】》極剣と不死

デッドガイはカイナ村の口から大きく迂回して山中にを潛めていた。

深夜の山の中は魔も活発となり、本來であれば危険だがデッドガイならば関係ない。

暗闇でも目が利いて、一切の覚が鈍らなかった。

今はハンターウルフを丸かじりしながら、作戦を練っている。

「サハリサの奴は短気だなぁ。こういうのは焦った奴から落するんだよ」

先行させたアバインは一級冒険者という事で唯一、警戒されずに村に通される。

もっとも暗殺を実行しやすいのだが、デッドガイは期待していなかった。おそらくに流されて手にかけないだろうと見抜いている。

それからサハリサの案で口に囮として冒険者達を向かわせたが、これも戦力として當てにならない。

り口に立ち並ぶ獣人達は予想外だったが、結果的に彼らとの衝突を避けられたのだ。もし全員で向かっていたら面倒な事になっていた。

つまり正面突破が極めて困難だとわかっただけでも、デッドガイとサハリサにとっては収穫だ。

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その後、二人が離れた後でアイリーンがれ違いでやってきた。つくづくデッドガイとサハリサの悪運は強い。

「ま、俺もそこまで大人しくしてらんねぇけどな。もうし夜が深まったところで……といきたいがなぁ」

その前にサハリサが過激な手段に出る可能が高い。混に乗じて行するのも危なかった。

あの獣人達を見た後では、剣士とスレンダーという報がどうにも引っかかる。

未知數の戦力に立ち向かうほど、デッドガイは無謀ではない。山の上からでも村の家々の配置は把握できた。

その中にターゲットの薬師がいると考えれば、おのずと行ルートが見えてくる。

「まずは端の家を襲って村人に吐かせる」

デッドガイは行を定めた。もっとも家がばらけている箇所を見つけて、舌なめずりする。

彼は楽しくて仕方なかった。生まれつき、不死を持つ彼に他人の痛みなどわかるはずもない。

アンデッド化したと人間の男との間に生まれた彼は、健全なで人生を謳歌する者達が稽で仕方なかった。

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そんな連中が死に抗うのは正しくない。健全なで生きたのだから、いつかは死ぬ。

理というルールから逸するなどおこがましい。自分のような特別な人間だけが、それを許される。デッドガイは自を神格化していた。

「こんな村の一つや二つ、消えたところで誰も」

「森の空気はおいしいか?」

デッドガイとて警戒は怠っていない。木にもたれかかっているアイリーンがフランクに話しかけてきた。

草木を揺らさず、一切の気配もなく。ここまでの接近をどうして許してしまったのか。

デッドガイはこのわずかな間ですべて理解した。警戒していた剣士がそこにいる。

極剣だと直できるほどの風格と圧を兼ね揃えているのだから、さすがの彼も揺を隠せなかった。

「……まさかの極剣かよ」

「あの村には世話になっていてな。心地よい場所なのだが何をする気だった?」

デッドガイの決斷は早かった。サーベルの抜剣からの居合い。木ごとアイリーンを真っ二つにする勢いだが――

「聞くまでもないようだな」

「チッ……。なんであんたみたいなのが……」

當然、けられる。デッドガイがいくら力をれようと無駄だった。

見えない巨大な壁に刃を押し當てているようであり、を引いて勢を立て直す。

極剣は一級の中でも別格だ。等級の枠に収まらず、異例と評されたアイリーンのような者を特級と呼ぶ。

ただしデッドガイには焦りこそあったが、勝算を見出している。

「あんた、人で強いらしいけどな。俺は殺せねぇよ」

視認できない速度でアイリーンがデッドガイを縦に真っ二つにした。

二つに割れたデッドガイだが直後、更に左右に分離する。それぞれ両手にもったサーベルでアイリーンを二つの半で挾み撃ちにした。

追加の橫薙ぎで四等分されたデッドガイだが、まもなく分斷されたがくっつく。

「なるほど。不死のデッドガイは伊達ではないか」

「怪我にゃ困ってねぇ。その代わり、痛みってやつをまるで理解できないがな」

「それは不憫だな」

「なんでだ? 俺に言わせりゃ怪我や病気一つでピーピー泣き喚いていちいち治そうとするお前らのほうが不憫だぜ」

アイリーンに自分は殺せない。たった一人で王國騎士団に相當する戦力を有する怪にも不死は通用する。

そう思い込んだ時、デッドガイはびたくなるほど快を覚えていた。

「人ってのはいつか死ぬ。怪我や病気はそのきっかけに過ぎねぇ。これは生れなきゃいけないルールだろ? 神様か何かが決めたんだからな。つまり無理にでも治そうとすりゃ、ルール違反だ。だからな……殺しは自然の摂理。殺せば死ぬだけ、誰が咎められる? だから俺は悪くねぇ」

アイリーンの中に浮かぶメディの顔はいつだって笑顔だ。

デッドガイとは対極の位置にいる彼を侮辱されたのならば、アイリーンの怒りはいよいよ頂點に達する。

不死を滅するプランもあったが、実際にデッドガイを目の當たりにして彼の気が変わった。

「俺がこれから殺そうとしてる薬師ってのは一番嫌いだ。自然の摂理に反するクソ野郎はまさに害なんだよ。あ、だったか」

「人はあって當然のものに謝をしない。まさにお前だな」

「なんだって?」

「水や空気がある事に謝をする者はなかなかいない。生きる上で重要だとしてもな」

「へっ! だったら教えてくれよ!」

デッドガイが高速で木々をうように移する。彼の戦はどちらかというと暗殺に近い。

不死に甘えて大膽な戦いなどせず、確実に仕留める。森の土を蹴って舞い上げて、アイリーンの視界を閉ざした。

舞った土をカーテンのように利用してサーベルが次々と突き出す。土が落ちれば今度は枝葉を斬って落とした。

左右に加えて上下、やがて倒れてくる巨木。デッドガイは相手がどうすれば絶するか、そればかり考えていた。

更にいくつかの玉が放り投げられて破。ここで本領発揮だ。

「そぅらッ!」

破の最中、飛び込んでアイリーンを襲撃した。突然の大きな音とに対応できる奴なんていない。

ましてや破に巻き込まれているのだ。デッドガイはここぞという時に不死を活かして止めを刺すのだ。

これが必勝パターン、極剣さえも仕留められる。が、デッドガイの視界が森の夜空に切り替わった。

「づあぁッ!」

デッドガイが吹っ飛ばされてを木に打ち付ける。痛みはないが、事態の把握はできていない。

「……ん? そこで手を止めてしまうのか?」

「ハ、ハハ……」

舞い上げた土も枝葉も巨木もアイリーンの周囲に散らばっている。破の痕跡もない。

そう、デッドガイの攻撃がどこかへ消えてしまったようだった。

「すまないな。あまりに遅すぎて、ゆっくりとかき消させてもらった」

「ま、まいった……。勝てるわけねぇよ」

不死であるはずのデッドガイは一度として死を恐れた事などない。

自分は死とは無縁だ。そう信じていたはずだったが、から何かに摑まれる覚を覚えた。

それは恐怖なのだが、デッドガイは生まれて初めて味わうものの見當などつかない。

アイリーンが近づくごとに、ついに歯のが合わなくなる。極剣のアイリーン、敵に回すべきではなかったのだ。

不死にも伝わる極剣の圧をけ止められるほど、デッドガイの神は鍛えられてなかった。

「な、なんだってんだ。俺の、震えてやがる、どうしちまったんだよ……」

「夜は冷えるからな」

「あ、待て、あのな。話し合おうぜ」

むところだ」

「へ?」

「あぁ、ただし……」

デッドガイの下に剣が突き刺さった。彼にアイリーンの攻撃速度を認識できるはずもなく、気がつけば頭まで剣が貫いている。

串焼きのような様になったデッドガイが手足をかして慌てふためく。

「な、何すんだぁ!」

「この有様でも喋られるのか。確かにこれでは何も謝しようがないな」

「こんな事したって俺は殺せねぇよ! 諦めろ! 諦めろォ!」

「誰がお前を殺すと言った?」

アイリーンはデッドガイを刺したまま、村へと歩き出した。

「私はお前を生かす。そしてお前は目を向けるべきだったものを思い知る」

「なんだよ! わ、わかるように言えよ!」

「フ……」

「何がおかしい! オイ! やめろって!」

元々実力では敵わないのだ。そのアイリーンが何かを企んでいるとくれば、デッドガイの中にも不安というものが訪れる。

ましてやこの狀況ではきが取れなかった。

「お前はおそらく不死ではいられなくなる。それを可能にする人間があの村にいるのだ」

「は、はぁ?」

脅しだ。デッドガイはそう思い込もうとした。しかし、相手はアイリーンである。

まるでピクニックでも楽しむかのように山を下りて、向かう先はメディの薬屋だった。

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