《お薬、出します!~濡れを著せられて治療院から追放された薬師さんが辺境で薬屋を開きました。極めたポーションは萬能薬と呼ばれて回復魔法を超えるようです~【書籍化コミカライズ企畫進行中】》エルフの一撃
「デッドガイの奴、どこへ行っちまったんだか……」
デッドガイと別行を選択したサハリサは彼が言うように、大人しく待つ事などしない。
デッドガイとは反対方向の山を下って、夜の村を目指した。村が近づくにつれて、燈りが見える。
まだ起きていると見込んだ民家に目をつけて、サハリサは舌なめずりした。
考えている事はデッドガイと同じだ。村人を脅してターゲットの居場所を吐かせた後は殺す。萬が一、ターゲットが不在であれば面倒だからだ。
すみやかに目的を達したら、不審火に見せかけて村ごと焼いて完了するつもりだった。
「やっぱり焼かないとねぇ。こんなちっぽけな村、消えたところで誰も困らないだろうさ」
サハリサは地図にも載らないような村を焼いた事がある。
彼が己の魔力を自覚したのはわずか七歳の時だ。この頃から自分は他の人間とは違うと思い始めた。
そしてケンカになった相手を大火傷させた事で人生は一変する。両親はサハリサを罵って捨てて、彼は自分の家に火をつけた。
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なぜ自分が魔力もない低俗な人間に叱られなければいけないのか。サハリサに一切の反省や後悔はない。何より炎で焼くと心地よかったのだ。
どんなに屈強な戦士だろうと、焼けば死ぬ。甘い聲で囁いて二をかけていた男の顔を焼いた事もあった。
泣き喚いて悲観する様をサハリサは今でも思い出す。サハリサは炎によってすべてを奪われた人間が大好きだった。
炎はすべてを奪う。炎は偉大だ。魔法の中で炎こそが最強だ。ひたすら腕を磨いて昇華させた炎の魔法は彼を更に歪ませた。
「そこまでだよ」
民家の扉に手をかけようとしたサハリサが振り返る。暗闇であるがハッキリと認識できた。
子どものような型をした尖った耳の、表は生意気にも怒りに満ちている。なぜ嗅ぎつけられたのか。
サハリサは質問したかったが憎しみのほうが勝っていた。
「あんた、エルフだね。こんな村で何をしてるんだい?」
「こっちのセリフだよ。あなた、炎狐のサハリサだね。そこの家に何の用?」
「ちょっと道に迷ってね。泊めてもらおうと訪ねたのさ」
「この期に及んで信じるわけないじゃん」
それはサハリサもわかっている。それでも噓をつくのがサハリサだ。
彼はすべてに対して誠意を見せない。自分こそが最優先であり、だからこそエルフが憎かった。
魔法に関しては完全に人間の上位互換。そんな風を垂れ流した者を絶やしにしたいとすら思っている。
そのエルフが今、目の前にいるのだ。サハリサとしては自分の力を示す絶好の機會だ。
「あなたが誰かを殺しにきたことくらいわかってるよ。嫌な魔力だだれで隠す気もないみたいだからね」
「なるほどねぇ。それでたまたま近くを通って気づいたわけかい」
「遠くからでもわかるよ。まさか隠し方を知らない……? よく今まで捕まらなかったね」
サハリサは激昂した。エルメダに炎の尾を生やして、戦いの主導権を握る。
更に自にも九つの炎の尾を生やす。個別に揺らめいて、その姿はまるで九尾の狐だった。
「わっ! なんじゃこりゃ!」
「あんた達、エルフは大した持て囃されているけどねぇ! どうも魔法の工夫については無頓著みたいだ!」
「そう……?」
「高い魔力にかまけて、こういう技がない! あんたはお終いさ! そのままくな! けば炎の尾があんたを焼く!」
サハリサは炎のごとく揺らめいて、複數の幻影を作り出した。
熱の空間を作り出して掌握する事で、相手を化かすのだ。九つの分がエルメダをわすように、それぞれが散る。
一人は民家に、一人はエルメダに攻撃の構えを見せた。村人を見捨てないエルメダの弱みをサハリサは利用している。
「焼かれて死になぁぁ! ブレイジングッ!」
熱風の竜巻に炎が纏ってエルメダに発された。熱で呼吸もままならなくなり、防どころではない。が――
「拡散線(レーザー)」
すべてが消えた。分も尾もブレイジングも、拡散してそれぞれの目標に向けて散った線(レーザー)が役割を果たす。
しかもそれだけではない。線(レーザー)はあえて外していたのだ。本が殘るように、より後悔させる為に。
「……は、はぁ? なに、なんだってのさ!」
「魔力は一點集中させれば度が上がる。あなたのブレイジングは無駄が多い。あんなに風と熱をまき散らす必要なんかないからね。だから威力も中途半端だよ」
「え、偉そうにッ! フレイムジェイルッ!」
エルメダが鳥かごのような炎に隔離された。そのまま炎の籠が小していく。
「アハハハハ! 熱だけで逝きそうだろう!? いくら魔法が強かろうと、生じゃ限界さ! 炎には抗えない!」
炎の籠がエルメダを覆い盡くして、サハリサは今度こそ大きく高笑いする。
自分の魔法がエルフに勝った。呼吸できず、熱で皮が焼かれて。無慘な姿になったエルフの死を想像して涎を垂らしている。
「アハハハハハ! アハハハハァッ!」
「うん。熱いね」
「アハハハ……は?」
ケロリとしたエルメダの服すら無事だった。サハリサは膝の力が抜ける。
「私の魔法耐って半端じゃなくてさ。この程度じゃ効かないんだよね」
「あ、あ、あんた、何なんだよッ! おかしいじゃないか! おかしいってぇ!」
「あなたの魔法って今一、なんか戦闘に向いてないんだよね。直接、殺すならもっといい方法があるのにさ。なんでだろうなー……?」
サハリサは常に相手を見下していた。どうすれば炎の脅威で怯えさせるか。どうすれば苦しめられるか。
そんな事ばかり考えていたせいで、魔法が回りくどいのだ。そんな意識が、彼の魔法を鈍らせる。
これが拷問対決であればサハリサに軍配が上がっただろう。彼が自分の魔法と向き合って出した答えがそれなのだから。
「こ、このブスエルフがッ! こうなったらこんな村ごと」
彼がセリフを言い終える事はなかった。エルメダの鉄拳がサハリサの頬にめり込んでぶっ飛ばす。
アイリーンとの模擬戦を立させた魔力による強化だ。歯を飛び散らせて、サハリサは道端にだらしなく倒れた。
「言ってなかったっけ? 私、すごい怒ってるってさ」
エルメダが気絶したサハリサの足を摑んで、引きずって歩き出す。
その一部始終を家から覗いていた村人はこの日を境にエルメダに対する印象が変わってしまう。今度からはもっと食べをあげようと決意した。
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