《お薬、出します!~濡れを著せられて治療院から追放された薬師さんが辺境で薬屋を開きました。極めたポーションは萬能薬と呼ばれて回復魔法を超えるようです~【書籍化コミカライズ企畫進行中】》処刑人
年が生まれた國では公開処刑が娯楽だった。竊盜犯や殺人犯だけではなく、中には無実と疑わしい人も含まれている。
しかし人々は彼らを等しく非難した。口汚く罵り、日頃の鬱憤のすべてをぶつける。
高い稅、徴兵制度、隣國との絶えない戦爭。一向に暮らしが良くならないのでは犯罪が増えるのも道理だった。
年もまた娯楽を待ちんでいた。今日はどんな奴が死刑になるのか。自分の罪を棚に上げて何を喚くのか。
犯罪者は生きるに値しない。殺した方が世の中の為だ。早朝から深夜まで働いても日々の暮らしがやっとなパン屋ではストレスも溜まる。
年は死刑執行の瞬間がたまらなく好きだった。
死刑執行人が罪人に対して問いかける。見苦しい命乞いも虛しく、ギロチンの刃が罪人の首を刎ねる瞬間こそが何よりの快楽だった。
年の將來の夢は死刑執行人だ。この手で犯罪者を冥府に落としてやりたい。自分が大衆の前で正義を執行するのだ。
年の夢はすぐに儚く消える。ある日、斷頭臺にかけられたのは自分の父親だった。
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民家に押しって強盜殺人を犯したとの事だったが、年は噓だとぶ。雑な狀況証拠から適當に容疑者としてでっちあげられたと知ったのは、年が人してからだった。
後に真犯人が処刑されたからである。もちろん國からの謝罪もない。年はこの時になって気づいた。
真の正義とは定められているものではない。正義とは不定形であり、場合に応じて姿を変える。
それならば、自分が正義を執行しても問題ないのではないか。年だった男は目覚めた。
命は誰のものでもない。好きな時に終わらせてもいい。その時、決意した心こそが正義なのだ。
男は善人、悪人問わず裁いた。最後に言い殘す事はあるか。死の間際、そう囁く事で己を満たした。
かつて無実の罪で父親を処刑したあの時の死刑執行人は何も悪くない。あれもまた正義だ。
* * *
処刑人と呼ばれた男はカイナ村の最寄りの町にて、とある一行を嗅ぎつけていた。
デッドガイやサハリサに遅れて、彼もまたメディの存在に辿り著いている。
表の世界では許されない存在だが、彼を雇いたがる権力者は多い。裏の世界にて、処刑人は數々の暗殺を功させた。
どれだけ権力爭いの決定打となったか。彼自、そんなものには興味ないが金と処刑のワードさえ揃えば何でもやる。
王國ので暗躍する最強の殺し屋、通稱処刑人。が、彼はその姿を現すのに躊躇しない。
気が向けば誰であろうと手にかける。正義は己の中にあると信じて、何一つ疑わなかった。
町の酒場でただ一人、果実水を飲んでいる彼を近くの席に座っている男達が冷やかす。
「見ろよ、あのコート野郎。恰好もおかしいが、ジュースだぜ」
「おーい! 俺達が酒でも奢ってやろうか?」
処刑人は耳を傾けない。その態度が気に障った男達がカウンターに座る彼の下へきて、肩を摑んだ。
「おい、人が奢ってやるって言ってんだ。その態度はなんだ?」
「遠慮する」
「喋れるんじゃねえか。だが遅ぇ。表へ出な」
処刑人は男達によって路地裏に連れ込まれた。彼らの仲間はメディ達に絡んで、警備隊にお縄についている。
その鬱憤を晴らすべく、一人に対して三人。男達は拳を鳴らして処刑人を威嚇した。
「イラつかせんじゃねえよ。まぁ出すものさえ出してくれりゃ許してやるけどな」
「金か?」
「わかってんじゃねえか。ほら、とっとと出しな。そのだせぇコートはいらねぇからよ」
「これは便利だ」
「あ?」
処刑人が腕を振るった時、男達が袈裟斬りにされた。飛び散ったがコートにかかるが、付著する事なくするりと落ちていく。
男達の息はあった。呼吸がままならず、地に伏してぐ。
「あ、あひ……」
「あぁ、い、でぇ……」
処刑人が男の一人の前でゆっくりとしゃがむ。その頭をおしそうにでて囁いた。
「最後に言い殘す事はあるか?」
「は……いでぇ、たすけ、て……」
「死刑を執行する」
男の首が転がった。その慘劇を目の當たりにした男達がぼうとするが、聲が出ない。
続いてもう一人、同じ問いかけをしては首を斬る。そして最後の一人を処刑人は見下ろした。
「最後に言い殘す事はあるか?」
男はすでに死んでいた。処刑人はみじろぎせず、そして男の死を切りにする。
縦斬り、橫切り。みじん切りのごとく、死は原型を留めなかった。
「フーッ……フーッ……。この、この処刑人である私の問いかけに答えないとはッ! 罪人の分際でッ!」
「そこで何をしている!」
警備兵達が駆けつけて、処刑人は睨みつける。不穏な雰囲気をじた酒場の客が予め通報していたのだ。
が、警備兵達が二の句を継げる事はない。全員の首が灣曲する刃によって刎ねられたからだ。
「執行の……邪魔をするな……。私は執行人だッ! 私が正義だ!」
呼吸を荒らげて、処刑人は警備兵の死を同じように切り刻む。塗られた路地裏にて、処刑人がいた。
なぜこんなにも満たされないのか。自分は何を目指していたのか。その時、思い出した。
彼がこの世界にを投じた時、同じく正義を執行していた闇の住人の名だ。
「あのお方だ……。あのお方もまた正義……」
「こんにちは」
直前まで何の気配もない。その人は処刑人の背後に立っていた。
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