《お薬、出します!~濡れを著せられて治療院から追放された薬師さんが辺境で薬屋を開きました。極めたポーションは萬能薬と呼ばれて回復魔法を超えるようです~【書籍化コミカライズ企畫進行中】》イラーザの嘆き
イラーザは連日、寢不足だった。ストックしてあった酒も底が盡きて、暴れ回った。
室の家はひっくり返って、調度品の類は破壊の跡が著しい。風呂にもらず、寢付けず。
イラーザの頭の中は自分の不穏な未來で埋め盡くされている。
それもそのはず、メディの殺害を依頼した者達の大半が捕まったのだ。デッドガイとサハリサだけは取り逃がしたと聞いたが、イラーザにとっては危機的狀況だ。
捕まった者達は洗いざらい喋るだろう。しでも自分達の罪を軽くするために、大袈裟に事を語る可能すらある。
なぜこうなった。どうして。自分の何がいけないのか。保ばかりが先行して、本的な原因に辿りつかない。
「こんな時に治癒師協會は何をしてるのよ……! レリック支部長だって協力してくれたのに!」
治癒師協會の『氷』のレリックは若くして支部長の座に上り詰めた異才だ。
王都の支部長となれば、治癒師協會がこの國の代表として選抜した人材である。
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その回復魔法は切斷された部位を接合してしまう。近年では失った部位の再生研究まで行なっており、この國どころか各國からの注目を集めていた。
そんな人が自分に味方したという事実だけがイラーザの心のよりどころだ。
「學院に通っていた頃……中等部でも私に敵う生徒はいなかった。高等部なんて時間の無駄、私は一早く社會で輝くべき人間……レリック支部長だって見抜いていたはずよ……」
績は常にトップで、教員達も手放しでイラーザを稱賛した。
今の治療院に勤めてからも誰も彼に口出しできず、牙城を築き上げたという自負がある。
その牙城が今、崩壊に向かっているなどと認めたくなかった。イラーザはベッドの上で頭を抱えて悶える。
その原因を突き詰めれば、やはりメディだ。
「あのクソガキさえいなければ……! あの無能ロウメルがヘラヘラしてあのガキを雇った時からおかしくなったのよ!」
髪をぐしゃぐしゃにかきして、イラーザは必死に考える。
まだ手はないのかと思えば、やはりこの長い待機時間だ。これだけ時間がかかっているのならば、町長も証拠を集めきれていないのではないか。
そう、結局は証拠だ。それさえなければ自分は潔癖でいられる。誰がどう喋ろうが関係ない。
殺人依頼にしても、いくらでも言い訳は立つ。殺せなどとは言ってないと、イラーザは今から口実を考えていた。
デッドガイとサハリサがどうしているかは知らないが、仮にしくじっても同じだ。功すればの字、都合よくイメージする事によってイラーザは何度も神安定を図ってきた。
「フフ……。そうよ、私は何も悪くない。あの町長だって結局、何もできない」
イラーザはベッドから下りて窓の前へ立った。警備兵達が家の前で何かを囁き合っている。
暇すぎて立ち話でも始めたのかと、イラーザは勝ち誇った。このまま逃げ切ればいい。
何をどう相談しようと無駄だと思いつつも、その會話容が気になった。イラーザは窓をしだけ開けた。
「……しかし驚いたな。俺の慢の腰痛が一瞬で治ったんだからよ」
「俺の腕の痛みも消えたぜ」
イラーザはその會話容に違和を覚えた。治療院は今、閉鎖しているはずだ。
イラーザの妄想からはだいぶかけ離れている。治療院を閉鎖した事によって、この町の連中は困っているはずだ。
そうなればいずれ彼らが決起して町長を非難しかねない。しかし今の今までそうはならなかった。
実際には町長はその辺りにも手を打っており、今は他の町から派遣された者達が醫療を擔當している。
「今、行列がすごいらしいぜ」
「そりゃ治療院があんな狀態じゃな」
「ありゃ回復魔法なんか問題にならんぜ」
イラーザの目が見開く。自のアイデンティティともいえる回復魔法を貶されただけではない。
なくとも治癒師ではない者が醫療行為を擔當しているという事実が判明してしまった。
居ても立っても居られなくなり、イラーザが家を飛び出すと警備兵達に捕まってしまう。
「コラッ! 勝手に家を出るな!」
「回復魔法が問題にならないですって!? どこの誰に治してもらったのよ!」
「落ちつけ! 知ってどうする!」
「この目で確かめるのよ! 回復魔法じゃなけりゃ何なのッ!」
屈強な警備兵達に取り押さえられてもイラーザは抵抗した。
そんな中、目の前を數人が駆けていく。
「走れ! お前の持病も治るかもしれないぞ!」
「そんなに凄い人が來てるの?」
「あぁ! 前にこの町にいた薬師だ! この町に來てくれたんだよ!」
腕がいい薬師。これほどまでにイラーザの神経を逆なでするフレーズもない。
前にこの町にいた薬師。イラーザが心の底から見下していた存在だ。何をするにも素材が必要となり、一から作らなければならない。
そんな手間を回復魔法はすべてすっ飛ばせる。しかし彼が目の仇にしたは瞬く間に治療院で果を上げてしまった。
イラーザにとってはけれがたい現実だ。何か落ち度がないかと探るも、なかなか見つからない。
そこで目をつけたのが、理的にあり得る事故の造だ。人の手で薬を作るならば、間違える可能がある。誤って毒を作ってしまう事もある。
そんな前提を元にイラーザは決行した。薬師のに毒製造の容疑をかける事で、自らの地位を確固たるものにしたのだ。しかし――
「君達、何をやっている」
「町長! このが暴れたので取り押さえてます」
町長が護衛を引き連れてイラーザの前に現れた。
その表は険しく、イラーザもの側から冷える覚を覚える。
「そうか。だがすぐに暴れる自由すらなくなる」
「と言いますと?」
「イラーザを詰め所へ連行しろ。明日、すべてが片付く」
イラーザは顔面蒼白だった。町長の表の意味がわかってしまったのだ。
彼はすべてを握っている。自分の運命を決斷できる何かを持っている。
そう確信した時、イラーザは力の限り吠えた。その奇聲を耳障りに思う者達はいても、誰一人として心を揺さぶられない。
「あのクソガキィィィ! 何をいけしゃあしゃあと戻ってきてんのよ! ふざけんじゃないわよ! ねぇ! 聞いてんのッ!」
「大人しくしろ!」
「うるせぇぇぇぇ! あぁぁぁクソクソクソクソクソォォォォ! キィーーーーーーーーーーーーーッ!」
「ホントうるせぇ……」
取り押さえられながらもイラーザはぶ。ただし言葉は誰にも屆かない。
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