《お薬、出します!~濡れを著せられて治療院から追放された薬師さんが辺境で薬屋を開きました。極めたポーションは萬能薬と呼ばれて回復魔法を超えるようです~【書籍化コミカライズ企畫進行中】》その名が屆いた先

「レリック支部長。第二治療院のベレル病患者への治療の救援要請がきています」

「捨て置け。助からん命だ」

王都の治癒師協會支部にて、レリックは雑務に追われていた。書類に目を通しながら、書の報告を耳に通す。

この反応に書も特段、かさない。いつもの事だからだ。

レリック、弱冠二十六歳にして治癒師協會からこの國の王都支部長の座に任命された若き異才。

その特殊な治癒魔法は切斷された部位をも接合する事で、王都でも腳を浴びている。

ただし彼自が治療に當たる事は滅多にない。一方で彼は氷の異名を持っていた。

「ベレル病は早期発見が鍵だ。中期にまで病が進んでしまえば助かる可能は大幅に下がる。それもわからず救援などと、第二治療院の院長は學院からやり直すべきだな」

「あちらにはなんとお伝えしますか?」

「適當な投薬でもいいと伝えろ」

「了解しました」

レリックは合理を尊重していた。治癒師には助かる命と助からない命の見極めが必要だと考えている。

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見極めが不十分であれば無駄な労力を費やし、助かる命が助からない命に早変わりだ。

限られた時間の中で何人の命を救えるか。それこそが自分のステータスとなり、労力がかかる患者など平然と切り捨てる。

いわばタイムアタックのような覚だ。合理に欠いた者に醫療に攜わる資格などない。レリックは自分だけではなく、同業者さえ厳しい基準を課していた。

「次の報告です。以前、訪れた治療院のイラーザ院長に有罪判決が下されました」

「そうか」

「彼に利用価値があったので?」

しは期待した。だから赴いた」

そう報告をけつつも、レリックは早期に手を打っていた。手紙をよこす事で関與を否定して、暗にイラーザを切り捨てるとの意思を示している。

レリックから見ればイラーザは途中までいい線をいっていたのだ。無能と判斷した者を引きずりおろすのは利己的であるが、野心は人に必要だと考えている。

野心がなければ何もせない。イラーザは野心に満ち溢れており、それが力となって最良の結果を生み出す。

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彼自、そうしてきたからこそ力に対する信仰があった。

「彼に野心はあっても力がなかった。だから終わった」

「力、ですか」

「人と力は接だ。生活力、腕力、腳力、力、生命力……。力とつく言葉は多い。醫療においても無関係ではないだろう。助かる者は生命力がある。死ぬ者はない。我々はそこを見極めなければいけない。勝つのは病の力か、はたまた生命力か。ベレル病の多くは予防できる」

「免疫力でしょうか」

「そうだ。免疫力も力、生まれもった者が生きる。もしくは日々の生活習慣などでどうとでもなるだろう。私はね、そこが嫌なのだよ」

レリックがデスクから離れて、窓の前に立った。王都の風景が一できるこの高さは彼も気にっている。

すべてを見下ろせる自分こそがこの位置に相応しいとほくそ笑んでいた。

「自墮落で不健康な生活を送っておきながら、病にかかると治癒師に泣きつく。己を磨く事を怠った墮落者どもが私は嫌いなのだ。多くの病は己の努力次第で予防できる。例えば私は毎朝、必ず野菜ドリンクを摂取する。間食は一度もない。どんなに忙しくとも八時間以上の睡眠時間は確保する」

「敬服いたします」

「患者を見ただけでわかるのだ。そういう患者は本來、視界にもれたくない。あの治療院を調査した際にもそういった患者が目立ったよ」

イラーザの治療院の患者を視界にれつつ、レリックは心で呆れていた。

王都のみならず、こんな僻地のような町にも墮落者が多くいる。だからこそいつまでも治癒師が必要とされる。

呆れつつも、レリックは彼らをに見立てた。その上に自分が立っている。彼らなど、レリックにとっては踏み臺に過ぎない。

王都を眼下に収めつつ、レリックは笑った。

「しかし嘆いたところで何も変わらない。墮落する者がいるならば利用する。それこそが合理だ」

レリックにとって醫療とは自分という存在を証明する概念でしかない。再生治療の研究も自分の為だ。

もし完させれば各國から絶賛されるだろうという狙いだった。レリックは席に戻り、仕事を再開する。

「今頃、あの町では墮落者で溢れかえっているだろう。気の毒な事だな。イラーザに力があれば、そうはならなかった」

「その件……とは違いますが妙な話を耳にれまして」

「話せ」

「例のあの町では患者が激減したそうです。中にはベレル病患者も完治したとか」

書のやや申し訳なさそうな報告に、レリックは眉をかした。今しがた、自分が見切りをつけた病の患者だ。

「早期発見であれば不思議はない。とはいえ、優秀な治癒師が派遣されたようだな」

「いえ、それが……。あの治療院に勤めていた薬師だそうです。とてつもない腕の持ち主で、その薬の効能は治癒魔法以上だとか」

「薬師、だと?」

「あの町から來た商人や冒険者が王都で話題にしたようです。ところがその薬師は金の話には乗ってこなくて勧にはことごとく失敗しただの……ハッ!?」

書は喋り過ぎたと後悔した。レリックの形相が凄まじく変化している。

彼は野心や力がある者を好むが、それはあくまで自分以下の人間限定だ。

書は命拾いしたとも思っていた。薬師に治された患者のベレル病は後期にまで進んでいたという噂を話せば、どうなっていたか。

「……そんな薬師があの治療院にいたというのか?」

「イ、イラーザ元院長が毒事件の濡れを著せて追い出したようです」

「しかし、戻ってきて逆襲した。違うか?」

「そう、なりますね……」

レリックはがざわついている。こと醫療に関して、自分は上に立たなければいけない。

自分の倍近く生きている治癒師も數多くいるが彼らすら鼻で笑い、出世街道を突き進んだ。

イラーザのように自分の下位互換であれば手駒に加える事もしてきた。ただし今回はどうか。

「薬師、か。その薬師の名前は何だ」

「メディ、十五前後のと聞いております」

薬師こそ治癒師の下位互換と信じてきた彼にとって、見過ごせない話だ。

彼の息がかかっている王都の治療院にも薬師はいるが、待遇はよろしくない。

薬師など働かせてやっているだけでもありがたく思えと、レリックは見下していた。その薬師がベレル病を完治させたのだ。

「ヘーステイ。報を集めて、その薬師の居場所を特定しろ。こちらも日程を調整する」

「かしこまりました。白十字隊(ヘルスクロイツ)の手配を?」

「二名、よこせと言え」

書のヘーステイは頷く。レリックは自分以上に目立つ存在がいれば、ことごとく手駒としていた。

それが葉わぬならば、何らかの形で潰す。それこそが彼を出世に至らせた訣でもある。

レリックはあらゆる未來を思い描いている。メディというを従わせて踏み臺とするか、或いは――。

「ヘーステイ。私は治癒師協會の頂點へ上り詰める。頭が固い年寄り連中をいつまでも座らせておくわけにはいかんのだ」

「存じております」

特にイラーザの前任のロウメルなど、彼にとって嫌悪の対象だった。

年功序列とばかりにいつまでも院長の席に座る。そういった者を引きずりおろして、に花を咲かせて出世街道を歩く。

自分こそが最強の治癒師だと証明する為に。

第二部です! いきなり不穏ですがたぶん大丈夫かと!

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