《お薬、出します!~濡れを著せられて治療院から追放された薬師さんが辺境で薬屋を開きました。極めたポーションは萬能薬と呼ばれて回復魔法を超えるようです~【書籍化コミカライズ企畫進行中】》予防接種
予防薬メディリンの開発に功してから、メディは村人に合わせた量産を開始した。
調合の手順さえ指示すれば、カノエでも役立てる。ただしどさくさに紛れて毒薬を調合しようとしないか、メディは目をらせていた。
幸い、さすがのカノエもそんな真似はしない。それでなくとも、薬の調合でメディの目をごまかせるはずがなかった。
完したメディリンは順次、村人に渡していく。まずは村長を始めとしたお年寄りからだ。村の集會場に集まった彼らはメディリンを絶賛する。
「ポーションよりもさっぱりとしておるな。口當たりならば、こちらが好みだ」
「よかったです。それさえ飲めば伝染病の心配はありません」
「む、なんだか力が湧いてくるようだ。気のせいか?」
村長が突然、上著をいで何らかの構えを取った。その奇行にメディはびくりと震える。
「良い! 実に良いぞ! 若い頃はこうして拳法を學んだものだ!」
「そ、そうなんですかぁ」
「そりゃ! うりゃ! きぇぇーーーーーー!」
Advertisement
「村長、調子に乗ってると管が切れるわよ」
カノエが村長を落ち著かせた後、殘りの老人達がメディリンを飲んだ。
また上著をぎだすのではないかとメディは構えたが、老人達は穏やかだった。
「心地いい」
「風呂上がりの一杯よりも格別だな!」
「メディちゃん、おかわりはないのか?」
「ありません! お薬ですよ!」
念の為、メディは數日間のみ彼らの調に気を使う。
調合釜のお墨付きとはいえ、何せ初めてらせたのだ。未知數の薬が人にどう作用するのか、なからず不安はあった。
次に呼び寄せたのは中高年や若年層だ。ロウメル、ブラン、ポール、オーラス。エルメダやアイリーンが待っていたとばかりに登場した。
「メディ君、とんでもないものを作ったな。これが表に出れば、君は王宮に招かれるかもしれん」
「それはちょっと……。ロウメルさん、予防薬はどうですか?」
「良薬、口に苦しとは言うがこのメディリン、口當たりがもはや薬のそれではないな」
「メディリンで定著しちゃったんですかー……」
名前はどうでもよかったメディだが、メディリンは気恥ずかしい。だからといって他に思い浮かぶはずもなく、集會場ではメディリンの呼び名が浸していた。
特に後からってきた子ども達がメディリン連呼をしている。
「メディリン! メディリーン!」
「メーディリンっ!」
「緩急つけて呼ばないでください……」
村の薬屋さんという事でメディは子ども達からも慕われていた。しかし、周囲を周られては困する。
一方、ロウメルは言葉以上にメディリンに驚愕していた。この場にいるのが自分だけであれば、額の汗を拭っていい意味で頭を抱えていただろう。
複數の伝染病への免疫がつくといったものの、その中には未だに確かな治療法が存在しないものもある。
治癒師達もこれには右往左往しており、染してしまえば回復魔法で病の進行を遅らせるのが一杯だ。
もしそんな病への予防薬ができたなどと外部にれてしまえばどうなるか。ロウメルは決斷した。
「皆、聞いてほしい」
決して大きな聲ではないが、誰もがロウメルに注目する。後からってきたアイリーンやエルメダもすぐに空気を読んだ。
「今回、我々が接種したメディリンが世間に知れ渡れば、メディはこの村にいられなくなるかもしれない。それほどのものなのだ。このメディリンに関しては他言無用でお願いしたい」
「なんだよ、そんな事か」
「ドルガー君、いつの間に……」
「そんなもん最近やってきたオレらでさえわかってる。今更だよなぁ?」
ドルガーの呼びかけに全員が頷く。村長は本來であれば自分が言うべき事だと己を恥じた。
ロウメルの橫に立ち、今からでも彼に代わって注意を促す。
「遅れたがワシからも頼む。メディは確かに優秀な薬師だが、それ以前にこの村の大切な仲間だ」
「村長さん……」
村長が大袈裟に頭を下げた。そこまでしなくても、と一同は思ったがそれほどなのだ。
そんな事があってはならない。エルメダとアイリーン、カノエ。ドルガー達。村人達。何も言わなかったが無言の了承だった。
「皆さん、その、私……。なんて言っていいか……」
「メディは薬師としての実力以上にすごいものがあるんだよ」
「エルメダさん?」
「それは相手を思いやる事。どんなに腕がよくても、気持ちがないと私もここにいなかったよ」
アイリーンも同じだ。そしてメディリンを手に取って一気に飲む。
「うまい。毎日でも飲みたいくらいだ」
「ア、アイリーンさんなら問題なさそうですけど……」
「どんな商品を手掛けても、そこに宿るのは職人の魂だ。汚れていれば相応のものにしか仕上がらない。だが、メディリンは生産者の顔が見える」
「職人を目指していたアイリーンさんが言うならそうなんですね」
「そうだ。石工職人を目指していた時を思い出した」
アイリーンの無數の夢と年齢を結びつける者は多い。しかし彼の実年齢はメディしか把握していなかった。
年齢を聞く勇気がある者など、ここにはいない。
「メディ。誰もがお前の顔を見ている。お前もまた皆の顔を見ている。そうでなければり立たない」
「なんだか恥ずかしいですよぉ……」
「全員の接種が済んだらゆっくり休め。あまり寢てないだろう?」
「なんでそれを?」
「さっきからずっと目をこすっている」
アイリーンもまたメディを見ていた。溜まっている疲労は無視できない。
いくら優れた薬師であろうと負擔を分散すべきなのだ。メディを椅子に座らせて、殘りの接種を続行する事を提案した。
「メディ。指示を出してくれ。私達がメディリンを渡していく」
「はい……ではお言葉に甘えます」
「私達って何気に私も? いや、いいんだけどさ」
エルメダがアイリーンに肩を抱かれていた。年齢別、個別に配るだけなので難しくはない。
アイリーンとエルメダはメディに代わって殘りを手伝った。村人全員が接種を終えたのは夕刻であり、集會場を出る頃には――。
「メディ、寢ちゃってるよ」
「私が背負っていこう」
アイリーンにおんぶされたメディが薬屋に送り屆けられる。ベッドに寢かせて布団をかけられたメディが寢返りを打った。
「お薬……出しますぅ……むにゃ……」
メディは誰かを治せるが、メディを治せるとしたら誰か。アイリーンは自分達が支えてやらねばならないと、いつまでも寢顔を見続けた。
応援、ブックマーク登録ありがとうございます!
「期待」「面白い」
などと、ほんのしでも思っていただけたならすこぶるモチベーションに繋がりますので
ブックマーク登録と
ここから下の広告の更に下にある「いいね」と☆☆☆☆☆による応援のクリックかタップをお願いします!
【第二部完結】隠れ星は心を繋いで~婚約を解消した後の、美味しいご飯と戀のお話~【書籍化・コミカライズ】
Kラノベブックスf様より書籍化します*° コミカライズが『どこでもヤングチャンピオン11月號』で連載開始しました*° 7/20 コミックス1巻が発売します! (作畫もりのもみじ先生) 王家御用達の商品も取り扱い、近隣諸國とも取引を行う『ブルーム商會』、その末娘であるアリシアは、子爵家令息と婚約を結んでいた。 婚姻まであと半年と迫ったところで、婚約者はとある男爵家令嬢との間に真実の愛を見つけたとして、アリシアに対して婚約破棄を突きつける。 身分差はあれどこの婚約は様々な條件の元に、対等に結ばれた契約だった。それを反故にされ、平民であると蔑まれたアリシア。しかしそれを予感していたアリシアは怒りを隠した笑顔で婚約解消を受け入れる。 傷心(?)のアリシアが向かったのは行きつけの食事処。 ここで美味しいものを沢山食べて、お酒を飲んで、飲み友達に愚癡ったらすっきりする……はずなのに。 婚約解消をしてからというもの、飲み友達や騎士様との距離は近くなるし、更には元婚約者まで復縁を要請してくる事態に。 そんな中でもアリシアを癒してくれるのは、美味しい食事に甘いお菓子、たっぷりのお酒。 この美味しい時間を靜かに過ごせたら幸せなアリシアだったが、ひとつの戀心を自覚して── 異世界戀愛ランキング日間1位、総合ランキング日間1位になる事が出來ました。皆様のお陰です! 本當にありがとうございます*° *カクヨムにも掲載しています。 *2022/7/3 第二部完結しました!
8 145【書籍化】婚約者が明日、結婚するそうです。
王都から遠く離れた小さな村に住むラネは、五年前に出て行った婚約者のエイダ―が、聖女と結婚するという話を聞く。 もう諦めていたから、何とも思わない。 けれど王城から遣いがきて、彼は幼馴染たちを式に招待したいと言っているらしい。 婚約者と聖女との結婚式に參列なければならないなんて、と思ったが、王城からの招きを斷るわけにはいかない。 他の幼馴染たちと一緒に、ラネは王都に向かうことになった。 だが、暗い気持ちで出向いた王都である人と出會い、ラネの運命は大きく変わっていく。 ※書籍化が決定しました!
8 103凡人探索者のたのしい現代ダンジョンライフ〜TIPS€ 俺だけダンジョン攻略のヒントが聞こえるのに難易度がハードモード過ぎる件について〜【書籍化決定 2023年】
現代ダンジョン! 探索者道具! モンスター食材! オカルト! ショッピング! 金策! クラフトandハックandスラッシュ! ラブコメ! 現代ダンジョンを生き抜く凡人の探索者が3年後に迫る自分の死期をぶち壊すために強くなろうとします。 主人公は怪物が三體以上ならば、逃げるか隠れるか、追い払うかしか出來ません。そこから強くなる為に、ダンジョンに潛り化け物ぶっ倒して経験點稼いだり、オカルト食材を食べて力を得ます。 周りの連中がチートアイテムでキャッキャしてる中、主人公はココア飲んだりカレーやら餃子食べてパワーアップします。 凡人の探索者だけに聞こえるダンジョンのヒントを武器に恐ろしい怪物達と渡り合い、たのしい現代ダンジョンライフを送ります。 ※もしおはなし気に入れば、"凡人ソロ探索者" や、"ヒロシマ〆アウト〆サバイバル"も是非ご覧頂ければ幸いです。鳥肌ポイントが高くなると思います。 ※ 90話辺りからアレな感じになりますが、作者は重度のハッピーエンド主義者なのでご安心ください。半端なく気持ちいいカタルシスを用意してお待ちしております。
8 183雪が降る世界
高校一年生の璃久は両親に見捨てられた不治の病をもつ雙子の弟、澪がいる。偏差値の高い學校で弓道部に入り、バイトもたくさん。どれだけ苦しくても澪には言えるはずもなく。そして高校生活に慣れた頃、同級生の瑠璃に會う。戀に落ちてしまうも瑠璃はつらい現実を背負っていた…。 他方、璃久は追い討ちのごとく信じられない事実を知る──
8 149魔法科高校白百合學園底辺クラス1年C組〜実力で示してみろよ〜
魔法が使える世界、"魔界"に設立された『白百合學園魔法科高校』。 主人公、千葉 晴生《ちば はるき》は白百合學園1年C組という底辺のクラスに配屬される。 擔任の片岡 日寄《かたおか ひより》から、 底辺から脫出したければ実力で示せと言われるが、クラスの仲は徐々に悪くなっていくばかりであった。 そんな中、クラスを一致団結させようと篠原 盟《しのはら めい》が晴生に協力してほしいと頼まれるが…? ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー お気に入りやコメント、いいねなど小説を書く上でとても勵みになります!少しでも良いなと思ったら、お気に入りやコメント、いいねよろしくお願い致しますm(__)m 同時連載中の作品...『勝ったら賞金10億』ゲーム依存者がデスゲームに參加した結果。 暇があれば是非!
8 110蒼空の守護
蒼総諸島が先々帝により統一されてから百十余年、宮家間の軍拡競爭、対立がありながらも「蒼の國」は戦いのない平穏な日々が続いていた。危ういバランスの中で保たれてきた平和の歴史は、1隻の船の出現によって大きく動き始める。激動の時代の中を生きる、1人の姫の數奇な人生を描く長編大河小説。
8 141