メディはアイリーンやエルメダと共に山にっていた。カイナ村近くの山には魔が生息しているが、山菜や薬草の寶庫でもある。

メディもつい最近まで知らなかった。村長の好であるオルゴム草も、この山で採れたものだ。

メディはオルゴム草を食べすぎた村長に薬を出した時を思い出す。あの時がカイナ村での生活のスタートだったと一人で思い出に浸っていた。

「メディ、危ないぞ」

「ひゃっ……！」

地面から出した木のに躓いたメディをアイリーンが支える。本來はメディのようなが考え事をしながら歩ける場所ではない。

戦う力があってもポンドとウタンは迷った挙句、魔との戦いで怪我をした。山の中は天然の迷宮となっていて、カイナ村の狩人も探索には慎重になる。

特に最年長の狩人である人はこう脅す。

「山は人を食うらしいからな。決して私達から離れるな」

「は、はい。でもここはすごいですね……。オルゴム草どころか、ウリダケがありますよ」

言ったそばからメディがウリダケに近づく。

メディから離れないよう、アイリーンとエルメダは気を使っていた。

天然の迷宮とはいえ、この二人がいれば森林浴のようなものだ。バロンウルフが討伐された今、魔の等級はほとんど四級以下だ。

「メディ、ウリダケってなんなの？」

「豬の子どもに似ている事からそう呼ばれているんです。これは環境がいい場所にしか生えないので驚きました」

「食べたらおいしい？」

「香ばしくてエルメダさんなら気にりますよ」

「よっし！　じゃあ、張り切って採ろうか！」

「あ！　待ってください！」

エルメダが周辺に生えているキノコを次々と採り始めた。得意気だがメディは申し訳なさそうに殘酷な事実を告げる。

「よしよし、今日の夕食が楽しみ！」

「そ、それはウリダケではなくてバクタケです……。食べたらお腹が発したかのような激痛に襲われます」

「ゲェッ！？　なんで！　似てるっていうか同じだよね！」

「笠の形とが似てるので間違えやすいです」

「そうなのか？」

メディとエルメダが見た先には、バクタケをおいしそうに頬張っているアイリーンがいた。二人は聲も出ない。

自分には気をつけろと忠告したアイリーンが、とメディは突っ込みたくて仕方がなかった。

「ピリリとした食がたまらんな」

「ア、アイリーンさんなら平気ですよね」

「魔だってもうし慎重になると思うんだけどなぁ」

エルメダは見境なくバクタケごと採り始めた自分を棚に上げていた。

アイリーンを見て、メディはふと疑問が湧く。バクタケには有毒分が含まれているが、それは味とは無関係だ。

つまり毒さえ取り除けば、おいしく食べられる可能がある。山で採れる薬草や山菜は間違いなくカイナ村特有の資源であり、活かさない手はない。

宿で提供する料理としてどうかと考えたのがメディだ。

「アイリーンさん。そんなにおいしいんですか？」

「絶品だぞ」

「そうですかー……」

メディは考え込んだ。バクタケの毒を取り除いて料理の一品として加えられないか。

しでも資源を多く活かせるなら、メディは手段を選ばない。

「オルゴム草、ウリダケ、そしてバクタケ……。この山は本當に素晴らしいです」

「バ、バクタケも？」

「エルメダさん。バクタケも採取してください。毒を取り除けば立派な食材になります」

「そ、その発想はなかったなぁ」

オルゴム草に続いてヌノハナ、ジンネ、ビラワ。メディは改めて山にした。

中にはカノエが喜びそうな毒草もあるが、メディは當然のように見抜く。素手でると危険なものはさすがに採取しない。

採取の手間がかかっては意味がないので、ひとまずバクタケだけにとどめた。

「ア、アイリーンさん。あ、よかった……。さすがに毒草は食べてないよね」

「エルメダ。私が野草を食べるような人間に見えたか？」

「え、さっきキノコは食べてたよね」

「キノコは草ではない」

アイリーンの拾い食いにも基準がある。しかし常人に理解できるものではない。

ウリダケであっても生食は危険であり、もしアイリーンが食べているところを外部から來た者が目撃してはまずい。

真似をされてはたまらないが、それを注意するのはさすがに失禮かとメディは迷った。

「アイリーンさん。他の人が見てる前でそうやって食べないでね。子ども達が真似したら大変だからね」

「それもそうだな。気をつける」

言いにくい事を言うのがエルメダだ。模擬戦を通じて親睦を深めただけあって、互いに忌憚のない意見を出せる。

たまに危機をじる時がない事もないのだが。メディが調子よく採取している時、アイリーンが何かを発見した。

「む、あれは！」

「キ、キラービーの巣……。群れだと三級に匹敵する魔だよ。でも確かは高額で取引されているって……あ」

「エルメダ、気が合ったな」

「え、いや、別にそういう意味での『あ』じゃなくて」

キラービーのは高級食材として知られている。そのせいでキラービーの養蜂に手を出す者が出てくるが極めて難しい。

手に負えずに増えたキラービーが人間を襲う事件が起こる事もあった。

さすがのメディも魔相手では手を出せない。アイリーンに頼むなど図々しいとじていた。

「メディ、あれのも絶品だ。食べさせてやろう」

「い、いいんですか？」

「巣の場所を把握しておけば、いつでも採りに來る事ができる。また一つ、村の資源が増えたな。エルメダ、メディを頼む」

アイリーンならば問題なく採取できる。堂々と巣に近づくとキラービー達が襲うが、アイリーンには何もできなかった。

飛びうキラービーの攻撃はアイリーンにかわされて、巣を手づかみするとそのままを採取する。

その素手を狙ったキラービーだが、かすりもしない。キラービーが風か何かで翻弄されているかのように、アイリーンの周囲を飛び回っていた。

悠々と戻ってきたアイリーンが採取したを見せつける。

「どうだ、メディ」

「す、すごいですね……」

「か、拡散線(レーザー)！」

アイリーンを追ってきたキラービーをエルメダが討伐する。ただし全滅させてしまってはの採取が不可能になる為、手加減していた。

は黃金に輝き、メディの目をくぎ付けにする。栄養価はもちろん、舐めるだけで腰が抜けそうになるほどだ。

「おいふぃいい……」

濃厚な甘さと癖がない香り、とても野生のものとは思えなかった。メディはまた一つ、世界を知る。

「そうだろう？　山は人を食うというが、私達も山を食えるのだ」

「それアイリーンさんだけだからね……」

さすがに數が多く、エルメダは疲れを見せていた。キラービーを殺さずにを持ち帰れる人間など、アイリーンしかいない。

多くの冒険者はキラービーと激しい戦いの末、手していた。つまり彼がいれば、生かさず殺さずでの採取が可能だ。

「これも宿の名料理にどうだ？」

「いいですけど、採取できるのはアイリーンさんだけですよ？」

「構わないぞ」

警備隊や狩人、街道の整備。その上、の採取まで引きけてしまうのだからメディとしても気が引ける。

この日、誰も持ち帰った事がないキラービーのに村中が盛り上がった。

狩人達もキラービーだけはれないようにしていただけに、我こそはと意気込む者も出てくる。

そうであればとアイリーンが志願者を特訓するが、誰一人として一日と持たなかった。

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