《お薬、出します!~濡れを著せられて治療院から追放された薬師さんが辺境で薬屋を開きました。極めたポーションは萬能薬と呼ばれて回復魔法を超えるようです~【書籍化コミカライズ企畫進行中】》村の宴 1

メディが近づいても、は顔を上げない。膝を抱えたまま、料理にも手をつけなかった。

心ここにあらずといったは十歳前後、病はないが栄養不足が際立つ。この調子でものを口にしなかったとメディは推測した。

「食べないんですか?」

メディが話しかけても反応がない。顔の前に手を往復させても視線すら変わらない。

常に一點を見つめており、メディには彼の空間ごと周囲から切り取られているように見える。

はともかく、食べさせなければ死んでしまう。長旅についてこられたのが不思議なほどだった。

メディは作戦を練る。隣で焼けたウリダケをわざとらしく頬張ってみた。

「厚くて噛み応えがあっておいしいですねぇ!」

それとなく香り漂うウリダケをに近づけてみたが結果は同じだ。

すらも心の底に沈んでいる。メディはれていいものかと悩んだ。

アイリーンの時は意思疎通が可能だったが、このは取りつく島がない。

ただの余計なお世話であればメディもこれ以上は構わない。彼としてはの栄養不足を見過ごせなかった。

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「その子は両親がいないんだ」

「ラクレイさん……」

「こっちへ來てくれるか?」

ラクレイと共にメディは村人達が盛り上がる場から離れる。

「あの子の名前はロロ。詳しい事は知らないが、親をなくしてからは親戚に引き取られた。なんでも治癒師の修業をさせてたらしいんだが……」

「ち、治癒師!? じゃあ、あの子は魔力持ちなんですか?」

「いや、それが全然魔力に恵まれなくて見放されたらしいんだ」

「そんな……」

メディはロロの様子に合點がいった。彼はメディを拒絶しているわけではない。何も見ないようにしているのだ。

自分よりもい子どもが大人に見放される絶など想像できなかった。

治療院で濡れを著せられて、悔しさと喪失がいっぱいだった頃を思い出す。

カイナ村に辿り著かなければどうなっていたか。メディは自分とロロを重ねた。

「ロロちゃんは治癒師になりたかったんでしょうか?」

「生きる道がそこしかないとくれば、死に狂いで頑張るだろう。選択肢なんかないだろうな」

薬師になりたくてなった自分。何者かになるしかなかったロロ。

認められず、自分は何者ですらないと悟ってしまったのかもしれないとメディはちらりとロロを見た。

話を聞いた後では未だ一點を見つめるロロが痛々しく見えて、目を逸らしそうになる。

しかしそんな様ではロロに同する資格すらない。きちんと見て、目を合わせなければいけないのだ。

「ラクレイさん。ロロちゃんは私がなんとかします」

「難しいぞ? 私も何度かコミュニケーションを試みたんだがな。會心のに目も向けないのだ」

「それは厳しいですねぇ……」

アイリーンやエルメダがいれば確実に突っ込んだだろう。メディはというと深く考えずに同意していた。

再びロロの下へ行くと隣に座る。相変わらず何の反応も示さない彼をどうするか。ラクレイは黙って見守った。

メディはロロの前に皿とトングを差し出す。

「あちらの網の上に野菜とを乗せてもらえますか? あそこにいるエルフのお姉さんが次々と食べるので追いつかないんです」

メディの呼びかけにロロは顔を上げた。初めて目を合わせると、ロロは不思議そうに首を傾げる。

「あ、間に合わないかもしれません! しかもドリンクまでがぶ飲みしてます!」

「ぷはぁーっ! 湯上りの一杯はたまらんねぇ!」

「エルメダさん、おじさんみたいです」

エルメダがふらりとやってきてメディに絡んできた。酔っているかのように絡みついて、メディを翻弄する。

ロロは珍獣を発見したかのように目を離さない。

「あの、あのあの! どんどん乗せてもらえますか!?」

ロロはしの間、戸った。ぴくりといて立ち上がると、おぼつかない手つきで野菜とを乗せ始めた。

焼けるの香りと音がロロの鼻腔を刺激する。先程から嗅いでいた香りのはずだが、なぜかそれを強くじるようになっていた。

「あ……」

「助かりました! あ、エルメダさん! また!」

「んまぁーいっ!」

「ロロちゃん、お願いします!」

これではエルメダに餌を與えているようなものだが、メディはこの機會を利用した。

必要とされてないと思い込んでいるのなら、お願いすればいい。自分が何かをせば誰かの為になる。まずはそう自覚させる事が大切だと思った。

「もういくらでも食べられちゃう!」

「焼かなくても問題ないな」

「アイリーンさん! 生のまま食べないでください!」

メディとエルメダ、アイリーンがじゃれ合う隣でロロはをぱくんと口にれた。

「あっづぃです!」

初めて聞くロロの聲に三人が驚いた。メディだけではなく、彼の事は二人も気にかけていたのだ。舌を出しているロロにメディが水を差し出す。

「あ……」

「おいしいですか?」

「う、うん……。うまいです……」

「うまいですかー」

水をごくごくと飲んでから、ロロはまた俯いた。また元通りかと心配したメディだが、震えていると気づく。

「う、うっ……」

「ロロちゃん?」

「ロロは、い、いる子です……?」

予想しなかった言葉にメディは何も返せない。その悲痛な面持ちだけでは、これまでの苦労のすべてなど察せなかった。

凍り付いていた心が氷解すると、今度は現実を思い出す。一筋縄ではいかないと、アイリーンもかける言葉を見つけられない。

どうしていいかわからなかったメディだが、彼の頭に手を置く。父親が自分にそうしてくれたように、こうされると落ち著いた。

「私はですね。ロロさんにお願いがあるのです」

「お願い……?」

「この宴で出ている料理をたくさん食べてください。そしてもっと想を聞かせてほしいんです」

「かんそー……」

「ここにある料理の一部はあちらに見える宿で出す予定の料理なんです。外から來た人の意見は貴重ですし、お願いします」

メディはロロに頭を下げる。メディらしい、アイリーンとエルメダは思った。

相手が自分よりも年下だろうが、決して軽んじない。必要だと思った事は何でもお願いする。

もちろんロロに自分の存在意義を認識し始めてもらう狙いもあったが何より、食べてもらわなければいけない。食べて栄養をつけてもらうのだ。

「わかり、ましたのです……」

やがてロロは小さく頷いた。

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