《お薬、出します!~濡れを著せられて治療院から追放された薬師さんが辺境で薬屋を開きました。極めたポーションは萬能薬と呼ばれて回復魔法を超えるようです~【書籍化コミカライズ企畫進行中】》村の宴 3
メディに化されて、移民達の意識もしずつ変化する。彼らの中にはかつて専門職として働いていた者もおり、中には料理人がいた。
その者の名はリーシャ。かつては有名飲食店で料理人として雇われていたが、我の強さから喧嘩騒を起こして解雇されていた。
それから町から町へ渡り歩き、様々な飲食店で働いたが長く続かない。このままでは潰れると見越した店のオーナーに新メニュー等を提案したが、突っぱねられた事もあった。
このままでは飽きられるとじた店へのアドバイスも無駄だった。
「あんた、メディっていうんだね。薬師みたいだけど、オルゴム草の巻きはどこで覚えたんだい?」
「あなたは?」
「あぁ、悪かった。アタシの名前はリーシャ。ただの料理人崩れさ」
「りょーりにん!? そんな方までここに!」
「そんな大したもんじゃないよ。それよりオルゴム草の巻きについてなんだけど……」
「どこでと言われましても……。栄養バランスと食的に相がいいと思っただけです」
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メディの口振りからして、以前から知っていたわけではないとリーシャは悟った。
メディの知識が土臺となっているのは確かだが、更に底にあるのは彼の類まれなる発想力だ。
型に捉われない自由な発想にリーシャは親近を抱く。
「確かにいい味だよ。シンプルながら完されている。料理ってのは作り込めばいいってもんじゃないからね」
「それわかります! お薬も簡単な調合ですごいものが完する事があるんですよ!」
「ししょー! それは本當なのです!?」
「ロロちゃん、ししょーは恥ずかしいです……」
メディ呼びだったロロを窘めたのがアイリーンだ。教わる立場である以上、相手に対する禮儀を忘れてはいけないとアドバイスされた。
メディさん、メディちゃん、メディお姉ちゃん。これだけ選択肢がある中でロロが選んだのがししょーだった。
「メディ、ロロをしっかり頼むぞ」
「アイリーンさん、ししょーはちょっと……」
「何を言う。お前はどこへ行っても師匠としてやっていけるぞ。ならば相手も敬意を払う必要があるし、しはを張ってほしい」
「でもぉ……」
メディ自は父親という高い壁を意識しているせいで、分不相応な呼び方とじていた。
アイリーンの理屈も間違ってはいないが、やはり師匠呼びは許容できない。
「ロロちゃん。私の事はお姉ちゃんでいいですよ。それでもアイリーンさんが言う敬意は十分に払ってます」
「んむー、それじゃメディおねーちゃんと呼ぶのです」
「それでいいのです」
メディにとって師匠呼ばわりは重すぎたかとアイリーンは反省した。
そこでふと、のオルゴム草巻きを噛みしめているリーシャを見て気づく。
「リーシャ、だったか。失禮だが一つ尋ねていいか?」
「なんだい?」
「あなたはあの流浪の鉄人リーシャか?」
「……不名譽極まりないけど、アタシ以外に該當する奴が思い當たらないね」
「やはり……」
アイリーンの発言に村長を含めて、エルメダすらを固くした。
この事態についていけないのはメディとロロだけだ。村長の隣でメイド服姿のカノエも意外そうな顔をしていた。
「國各地、數々の店を渡り歩いた料理人……。一か所には留まらず、決して己を曲げない事から鉄人の異名がついた」
「なんだい、喧嘩を売ってるのかい? 確かに否定できないけどさ」
「鉄人が去った店からは客のほとんどが消える。店潰しのリーシャと同業者は蔑む」
「あのさぁ……」
「しかしその一方で、國一の料理人としての呼び聲もなくない。今でもあなたを追いかけ回す者もいると聞く」
アイリーンの口から語られた事実にメディは息を飲む。
雰囲気で只者ではないと薄々気づいていたものの、想像の上をいく人だった。
「この様子からしてアタシは知らない間に有名になっていたんだね」
「あの、リーシャさん。それほどの腕があるならどうしてお店を開かなかったんですか?」
――のお前が店なんかとんでもねぇ!
――あんたの末な下処理でも、男ってだけで店を持てるのかい!
――なっ! なんだと! てめぇもし店なんかやってみやがれ!
――やったらなんだっていうのさ!
――俺の息のかかった連中なんていくらでもいるって事よ!
「料理の世界ってのはとんでもない偏屈の巣窟でね。のアタシが店を持つ事を許さない連中が多いのさ。雇われで生きた事もあったけど、ダメだね。どいつもこいつも……」
リーシャが腰を下ろすと、ロロがやってきてバクタケを差し出した。
料理人の彼が毒キノコに気づかないはずはない。やや躊躇したが、メディを見た。
そして口にれると、思考すら停止するほどの味わいをじる。
「……これ、やばいね。さすがのアタシも、これは思いつかなかった」
「メディおねーちゃんの仕業なのです!」
「なんか嫌な言い方だね……」
バクタケの毒の処理など、さすがのリーシャも思いつかなかった。
凝り固まっていたのは自分のほうかと思い直す。
――この店の伝統もいいけどさ! 古いんだよ! このままじゃ飽きられる!
――の分際で俺の店の品に口を出すんじゃねぇ!
「いやいや、アタシも古いって……」
「リーシャさん?」
リーシャは村長のところへ行って深々と頭を下げた。何事かと戸う村長だがすぐに察する。
「村長、アタシをこの村で働かせてほしい。変な尾ひれがついちまってるけど、腕には自信があるつもりさ」
「フフ、禮を言いたいのはワシのほうだ。この村に馴染んで、そう決意してくれたのだからな」
「じゃあ……」
「あそこに見える宿では不服か?」
「不服なもんかい! あんなすごいところで腕を振るえるってんならさ!」
途端に村人が沸いた。懸念事項の一つだった宿の料理人が決まったのだ。
ここからは怒濤の勢いで、他の移民達も次々と働き手として名乗りを上げる。
宿とカイナ湯、街道整備。中には村の料理やリーシャに銘をけて、それこそ弟子りする者もいた。
そしてメディの薬屋には小さな弟子が加わる。移民達との流を経て、カイナ村はまた一つ進化するのであった。
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