《お薬、出します!~濡れを著せられて治療院から追放された薬師さんが辺境で薬屋を開きました。極めたポーションは萬能薬と呼ばれて回復魔法を超えるようです~【書籍化コミカライズ企畫進行中】》宿料理の品評會 1
「これより宿のオープンに向けた料理の品評會を行う」
宿の開店日が迫る中、アバインは宿のオーナーとして料理の品評會を行う事にした。
宿の関係者の他は村長と村のリーダー格の者達。ドルガー他、アイリーンと頼まれる前に名乗り出たエルメダ。
そして品の完に一役買ったメディだ。更に今回はロロも參加させている。
薬師として味覚を養うのも修業の一環であると言い聞かせたが、本人にそのつもりがあるのか。
すでに涎を垂らすロロを見てメディは不安だった。
「本日の品はすべて宿で提供されるものです。この日の為にリーシャ他、調理擔當が試行錯誤して開発しました。
カイナ村の資源や山で採れたものなどを取りれつつ、主軸に置いているのはもてなしです。
目で見て味わい、舌で味わう。そしてに取りれた後も優しくもてなす。つまり當宿の品は栄養価とバランスにおいて、他の追隨を許さないでしょう」
「じゅるり……じゅるるり……」
「あぁ、あっ、あっ……」
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「アバインさん。すみません、ロロちゃんとエルメダさんが限界なのでそろそろ始めてもらえるとありがたいです」
「う、うむ」
ロロは涎を引っ込めて、エルメダは我慢の限界を迎えて自我が崩壊しつつある。なんて慘狀だと誰もが思う。
やがて宿の元移民である従業員達が最初の品を運んでくる。一品目はバクタケのクリーミーグラタンだ。
毒抜きをしたバクタケは甘味と歯ごたえがあり、ホワイトソースとよく混ざり合う。
絶妙な焼き加減で調整されたおかげで、表面のわずかな焦げが食をそそる見た目となっていた。
「バクタケはご存知の通り、メディによって毒抜きが功しました。猛毒と恐れられていたバクタケで皆さんも抵抗があるかもしれません。そこでまずは私が」
「うんんまぁぁぁいっ!」
「エ、エルメダ?」
「アバインさん! んまいっ!」
「そ、そうか」
堅苦しいアバインの調子がエルメダによって崩されつつある。
次々と誰もが食べ始めて嘆した。
「このホワイトソースの濃厚なこと! リーシャさん! さすがだよ!」
「ダメなグラタンはだらしのないホワイトソースが原因だからね。いいものが作れたのはポールさんが育てている牛のおかげさ。質がいいミルクで助かったよ」
「バクタケとホワイトソースを絡めて……熱うまいっ!」
熱いせいで冷ましながら誰もが食べる中、アイリーンとエルメダは完食していた。
「これは絶品だな。濃厚であり、それでいてしつこくない」
「ねー!」
「あら、アイリーンさんに笑ってもらえたなら安心ね。いつもは『いける』『うまい』しか言わないのにねぇ」
「カノエ。私はこれでも昔は料理人を目指していた。コメントはシンプルでも、味覚には自信がある」
カノエが著を著込んでおり、その妖艶な姿に見惚れる者は多い。
鼻の下をばした男衆の中には妻に突っつかれている。そして二品目の配膳の為に姿を消して、すぐに戻った。
その早業について突っ込む者など、ここにはいない。
「二品目は山菜かき揚げです。に包む事によって山菜の旨味を閉じ込めて、食を楽しめます」
「さくっとうまいのです!」
「は、早い……。もう食べてる……」
メディがロロを優しく諭す。口の周りを拭いてあげてから食べると、ロロと同じ想を抱いた。
「油で水分を蒸発させて旨味を閉じ込める料理ですね。これは癖になりそうです」
「皆さんお馴染みのメディもこのように述べています。単品での栄養バランスは油過多でありますが、品を組み合わせる事によって十分にバランスを取れます」
山菜揚げは素材の良さを活かして、あえてそのまま食べてもらう。
小さな山菜をまとめて揚げることによって、小さなものでも歯ごたえと共に味わえる。
品自は珍しくはないが、素材込みであれば王都の高級宿でも食べられない品だ。
三品目のカイナネギの薬膳スープは、これまでのどっしりとした料理の後に清涼をもたらす。
今回は二品のスープが運ばれてきた。
「なるほどな。暖かいものと冷たいものか」
「はい、村長。カイナネギの薬膳スープはご存知の通り、お馴染みの溫かいスープです。もう一つはカイナイモの冷製スープです。つまり冷たいのです」
「つ、冷たいスープだって!?」
誰かが聲を上げた。スープといえば溫かいという村人の常識を覆している。
さすがのメディもやや驚いた。この発想の主はリーシャであり、改めて彼の腕を認める。
しかし、ただ冷たいだけではない。流浪の鉄人の本領はもちろんその味で発揮された。
「つ、冷たいのにしっかりとおいしい!」
「むしろこちらのほうがより風味をじられるな!」
「溫かいスープよりこちらのほうが好みかもしれん!」
冷たいおかげで溫かいスープよりも食のペースが早い。エルメダは吸い上げるように飲みつくす。
「これならいくらでも飲めるね!」
「エルメダさんだけですよ」
「いや、いけるな」
「アイリーンさんを忘れてました……」
アイリーンは溫かいスープでも冷ます事なく水のように飲む。
熱さをじない質なのかとリーシャは珍獣にでも出會ったかのような覚だ。
熱さも料理としての大切なスパイスと考えているので、アイリーンのような人間にはそこを味わってもらえない。
考えた末にリーシャは一度、アイリーン専用の料理を作ってみたいと燃え上がった。
更にアイリーンはともかく、一部で冷製スープが異様に評価されている。
「こりゃいい! あっついのは冷まさなきゃ飲めたもんじゃねえからな!」
「某は知る。ドルガーは貓舌だと……」
「ね、貓舌……。そうか、こりゃ難題だね」
人間やアイリーンはともかく、獣人となればドルガーのような者もいる。そこで一つ、アイリーンは思いついた。
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