《お薬、出します!~濡れを著せられて治療院から追放された薬師さんが辺境で薬屋を開きました。極めたポーションは萬能薬と呼ばれて回復魔法を超えるようです~【書籍化コミカライズ企畫進行中】》宿料理の品評會 2

「じゃあ、冷製スープとの選択制にするかね」

ドルガーのような獣人だけでなく、いわゆる貓舌の客もいる。メディもそこは盲點だった。

熱さも味のスパイスとしてリーシャは重要視しているが、邪魔になる時があるのも事実だ。熱いせいでなかなか食べられない、もどかしい。

そんな惜しい料理を見てきた事もあって、一考の余地があった。そんな提案にエルメダが挙手する。

「でも二つとも食べたい人はどうするの?」

「そんなのエルメダさんだけですよ。と思いましたが確かに惜しいですね」

「そうだよね? 誰だってしでもおいしいものを多く食べたいよね?」

メディは考えるが、リーシャの答えは決まっていた。エルメダのような者がいるのも事実だが、それを許容すると弊害が生まれる。

「いや、あくまで選択制だね。張りたい気持ちはわかるけど、選択する悩ましさってのも大事さ。それも娯楽の醍醐味の一つだと思うね」

「そうかなぁ?」

「エルメダみたいな食いたがりは殘念に思うだろうけど、商売として十分ありなんだ」

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「どゆこと?」

「今日はこっちを選択するけど、次に來た時はこっちにしよう。一人の客が二度、訪れてくれる可能が生まれるのさ」

「て、鉄人が汚い……」

宿のオーナーであるアバインにも、その発想はなかった。自分自、客であった時に度々足りなさをじた事がある。

しかしそれはサービスが行き屆いており、ある程度の満足を與えた証拠でもあるのだ。

それに創業當初のやり方を継続しなければいけないわけではない。客からの要次第で、サービスの変更や追加の余地もあった。

アバインは思う。一番最悪なのは悪い意味で記憶に殘る宿だ。もちろん冒険者として活している以上、最低限の寢泊りができれば不満はない。

そこで不衛生であったり質の悪い食事を提供する宿があれば、次からは訪れる選択肢から外れてしまう。

あの町の宿はひどいからルートを変えようと心変わりしたのは一度や二度ではなかった。

「リ、リーシャ。その……」

「なんだい、オーナー。前から思ってたけど、そのオドオドした態度はよくないよ。もっとシャキっとしな」

「す、すまない。いい案、あ、ありがとう……」

「まぁオーナーの分かりがよくて仕事がやりやすいよ。さすがは元一級だ」

が自分の指揮下にいるというのは彼にとって試練だ。特にリーシャはカノエと並ぶスタイルの為、接する際は気を使う。

ましてや良くも悪くもリーシャは思った事をすぐに口にする。褒められたとなっては、まともに目を合わせられるはずもなかった。

「理屈はわかりますがしだけ殘念ですね。栄養バランスなら私が何とかしますよ」

「メディ。依頼したアタシが言えたものじゃないけど、あんたは働きすぎだ。後はアタシ達に任せてくれよ」

「そうですよね。よく言われます……」

落ち著いたところで最後の品が運ばれてきた。デザートであるキラービーのロイヤルゼリーには誰もが目を奪われる。

き通るような質でいて、果実のホイップで彩られたしさは村の者達にとってはまるで寶石のようだった。

「あーーーーーーっ! 匂いが激しいのです!」

「ロロちゃん、靜かにしなさ……」

メディも思わず言葉を詰まらせるほどだ。

見た目だけではない。どこか野生をじさせる甘い香りは、誰もがここが宿の大広間だという事すら忘れかける。

そんな中、アイリーンは違った観點でそれを見ていた。

「もしこれが何らかのであれば、私にも隙が生まれていたかもしれないな」

「でもアイリーンさん、負けないじゃん」

「一瞬の隙を侮るな、エルメダ。だからお前は負けるのだ」

「泣きそう」

提供されたものの、誰も手をつけない。どう手をつけていいのかわからず、食べるのが惜しいと思わせていた。

カイナ村で上品なデザートを作った文化がないので、スプーンを持ったままだ。

そこで先陣を切ったのが村長だ。元國王として様々な品を味わってきた自信があるだけに、品に押し負けない気迫があった。

ところがスプーンをゼリーに差し込んだところで、違和に気づく。

「……らかすぎる!」

國王であった時代を思い出す。他國のパーティに出席した際、彼は表かさずに一流の宮廷料理人の品を味わった。

そして、これはかなりの品ですななどと無難な想を述べていた。誰もが想笑いという仮面の下に邪念と謀を隠していた世界だ。

彼は気丈な姿勢を崩さず、侮られないように律していた。それがたとえ絶品だったとしても変わらなかった。

當時を思い出した村長はリーシャとの対決に臨むつもりでいたのだ。ところが食べる前からすでに第一聲を発している。

ゼリーと共に村長の手も震えている。口にれた時、甘な香りが鼻腔を抜けた。

「ふむぐぅッ!」

「村長!?」

「んはっ……」

ゼリーがを通った。だらしなく口を開けて何の言葉にもならない。

そのらかさと甘味は今まで味わった事がないものだった。

もしこれが國王であった時に提供されていれば、と考えるだけで彼は恐ろしくなる。

「リーシャよ……」

「な、なんだい?」

「ワシの負けだ」

「……なんだって?」

各國、様々な品との勝負に挑んでいた彼の敗北は引退後だった。

もしこれが會席の場で出されていたら、勢は変わっていたと村長は中で語る。

ほがらかな村長の笑顔だが、リーシャにとっては得が知れないものとして映った。

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