《お薬、出します!~濡れを著せられて治療院から追放された薬師さんが辺境で薬屋を開きました。極めたポーションは萬能薬と呼ばれて回復魔法を超えるようです~【書籍化コミカライズ企畫進行中】》宿料理の品評會 3
「では皆の者。意見を出し合おうか」
村長が真面目な口調で切り出す。誰もが靜まり、これまで出された品の優劣を決めるのだ。
ここで不評であれば、宿の料理としては出せない。或いは改善の余地がある。リーシャは重くけ止めていた。
並みの料理人であれば、この瞬間は張するがリーシャは落ち著いている。
自分の腕に絶対の自信を持っていないようであれば、そもそも客に品を出すべきではない。出した以上はおいしいと確信している。
それは決して慢心ではない。料理人としての揺るぎない矜持だ。
そんなリーシャの表を見たアイリーンは親近を覚える。
「リーシャは私と同じだな。勝負の瞬間は堂々としていなければならない」
「勝負なの?」
「エルメダ、これもリーシャにとっては戦いなのだ。客においしく味わってもらわなければ、料理人としての敗北を意味する」
「でもさすがに心配ないよ。文句のつけようがないくらいおいしいもん」
「私もそう思う。だからこそ、だ」
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勝つ。そう確信しなければならない。リーシャは腕組みをして、皆の言葉を待った。
最初に口を開いたのはメディだ。
「あの……。今更、こんな事を言うのもちょっとどうかと思ったんですけど……。別にこれでいいんじゃないでしょうか?」
「メディ、それはどういう事だい?」
「私はすごくおいしいと思いますし、ぜひお客さんにも味わってほしいです」
「それはありがたいけどさ。アタシは正直な意見が聞きたいんだ。あんたも気を使う必要なんかないよ」
「いえ、えーとですね……」
メディは困った顔をしながら、全員を見渡した。誰も未だに発言しない。村長もあえて誰かの発言を待っている。
彼としてはすでに結論は出ているが、村長である自分が口火を切れば結論を急がせるようなものだ。
先ほどの己を棚に上げて、彼はどっしりと構えていた。
「皆さん、あんなにおいしそうに食べてました。だからおいしいんですよ」
「いや、だからね……」
「皆さん、幸せそうでした。私は傷や病気を癒やせますが、あんな顔をさせられるでしょうか。だから、それだけで十分ですよ」
「でも、それじゃ意味ないじゃないか。アタシは料理の質の向上を……」
「食べるのは村の人達だけではありません。お客さんですよ」
この品評會の意義を覆す発言だった。
リーシャも自分の中で何かが砕けた覚がある。
他人に評価してもらう事も重要だが、誰が食べたか。
それもまた大切だとリーシャは気づいた。
「私、お母さんの顔はほとんど覚えてないんですけど……。故郷の卵料理の味は今でも覚えてます。それが皆さんにとっておいしいかはわかりませんけど、私にとっては一番です」
アイリーンやエルメダも初めて知るメディの過去だ。
彼の生い立ちを気にした事はあったが、母親については考えてなかった。
どんな品であろうと、食べる者次第だ。すべてを判斷するのは客であり、必要以上に品について議論する必要もない。
何よりメディが言いたいのは、必ずしも質で結果が左右されるわけではないという事だった。
「しかし、だ。このまま何も言えないのではリーシャさん達に対して失禮だ」
「確かにな。せっかくの品評會だ。言いたい事を言わせてもらおう」
やがて村人達が聲を上げる。リーシャの表は尚も変わらない。
この流れでエルメダはおかわりを要求したい衝を堪えている。メディの言う通り、品評會などと大袈裟だとじていた。
「私もね、言いたい事を言わせてもらうよ」
「エルメダちゃん。どうやら志は同じのようだな」
「じゃあ……おいしかったに決まってるでしょーーーーーー!」
エルメダの思わぬ聲量に一同は驚く。
「うまい! それだけだ!」
「そうそう! 大、オレ達は料理の評論家でも食家でもない! うまいものにはうまいとしか言えん!」
「そーだそーだ! おかわりを所する!」
「エルメダちゃん! まだ食べるつもりか!」
村人達が口々にリーシャ達の料理を絶賛する。調理補助の者達は呆然としていた。
品を考案して作り上げたのはリーシャだが、彼らも厳しい修業を積んでいる。
嵐のような廚房にて、料理の世界を知ったのだ。しかしその上で品を完させて、褒められた。
作ったものを食べてもらえて褒められる。しかもこの場にいる者達からの稱賛だ。しないわけがない。
「そっか……。俺達、いや。リーシャさんのおかげで認められたんだな」
「この村に來るまではひどい扱いをけていたから、こんなの忘れてたよ……」
巻き起こる拍手が彼らの涙腺を緩ませる。村長はあえて何も言わなかった。
品評會などと稱したが、彼自も最初から厳正に判斷するつもりはない。
個人的にリーシャと勝負のようなものを勝手に想定していただけだ。
ただ一つ、この村に誕生した宿というものを全員に知ってほしかった。
そんな中、エルメダは待ちきれずにリーシャにすがりつく。
「ね! ね! おかわりお願い!」
「う、嬉しいけどさ。さすがにそれはダメだよ。今日はあくまでお試しだからね」
「エルメダ、無理を言うな。これは本來、お金を出して食べるものだ」
アイリーンにエルメダが首っこを摑まれて引きずられた。エルメダも自分の意地汚さを恥じる。
しかしそれだけおいしかったという証拠でもあり、リーシャとしては悪い気はしなかった。
「アタシは今まで余裕がなかった。自分の店すら持てず、雇われをやっては喧嘩をして追い出されての繰り返しだった。腕さえ認めさせたらアタシだって……そんな風にギラついていたけどさ。今思えば、自分の居場所を求めていたんだと思う。だから、こいつらと同じだよ」
「リーシャ料理長……」
「アタシなんかの下で働いてくれてありがとな。あんた達もこの村も……ア、アタシは……」
リーシャは誰にも見られないように全員に背中を見せた。誰もが察する。
「そ、村長! 品評會は終わりかい!? それならアタシは廚房に戻らせてもらうよっ!」
「う、うむ。皆の者も、今日はこれでお開きという事でいいか?」
全員、異論はなかった。リーシャの腕はとっくに誰もが認めている。
この村がしでも彼のような人間のけ皿となったのであれば、禮を言いたいのは村人のほうだった。
メディもその一人であり、一日たりとも謝を忘れた事はない。リーシャの境遇も自分と遜ないとじており、だからこそ気になる。
流浪の鉄人の詳しいルーツを知る為に、お開きとなった後でこっそりとリーシャの下へと向かった。
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