《お薬、出します!~濡れを著せられて治療院から追放された薬師さんが辺境で薬屋を開きました。極めたポーションは萬能薬と呼ばれて回復魔法を超えるようです~【書籍化コミカライズ企畫進行中】》魔避けのお香を作ろう 1
「メディ、街道整備について相談がある」
街道整備はアイリーン達であれば問題ないと考えていたメディが面食らう。
アトリエにて、調合の手が止まった。
エルメダとカノエも揃っており、より迫に拍車をかけていたのだ。
「ま、まさか……アイリーンさんでも討伐できない魔がっ!?」
「ある意味、そうかもしれないな」
「そんなぁー!」
言葉足らずのアイリーンのせいで、メディが卒倒しかけた。
冒険者事に明るくないメディだが、アイリーンの実力は信頼している。
彼に勝てる者などいないと信じていただけに、力が抜けてしまった。
エルメダに支えられて椅子に座らされて、ロロがなぜかポーションを持ってくる。
「アイリーンさん。ちゃんと説明してあげて。メディね、これきっと疲れてるんだと思う」
「む、それはすまない。メディ、実は……」
アイリーンが改めて説明すると、メディはひょこっと元気を取り戻す。
街道の魔を完全に殲滅するのは難しい事、その上で魔を寄せ付けない薬はないか。
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説明を聞いてメディはこつんと自分の頭を叩いた。
「そうですねぇ! 私、護用として作ってたんですけど皆さんも必要ですよねぇ! そーですよねぇ!」
「そーなのだ。どういう薬かわからないが、それを街道に使用する事はできないか?」
「私が使ってるのは香水ですよ。一人用な上に効果範囲も狹いです」
「香水か。気づかなかったな」
「人間にはほとんど気にならない香りですから。それに魔の種類によって異なるので難しいんです」
そもそもそのような香水など、アイリーンですら聞いた事がない。
もしそんな香水が一般的に知れ渡れば、と考えてしまった。難しいどころでは話ではない。
高い報酬を支払って護衛依頼を頼む者が減り、護衛を生業としている者達にも支障がでる。
しかし無駄に命を落とす者が減るのは事実だ。
エルメダ達が魔導列車で出會った冒険者達のように、愚癡を言う者達は増えるが得られるものは大きい。
アイリーンだけではなく、カノエとしても命を優先すべきだと考えている。
「じゃあさ、香水を売ったら?」
「エルメダ、それをどこでどうやって売る?」
「それはこの薬屋で……あ」
「そうだ。この村に訪れる者の危険を減らしたいのだ」
メディは香水の販売を考えていた。
怪我や病気を治すだけではない。
メディリンのように、それらを回避する薬があればいい。
メディはすでに頭の中でレシピを考えていた。
しかし、香水ではせいぜい一人用だ。
街道の平和を守るには、もっと発想を転換させなければいけない。
考え込んでいると、暇を持て余したロロが傍らで勝手に調合を始めていた。
「ロロちゃん、何を作ってるのですか?」
「魔が嫌いな臭いを出す薬なのです! これをこーして……んぶっ!」
「くっさぁ!」
ロロが調合として使ったのは料用の牛の糞だった。
牛の糞を調合釜にれてはいけないという言いつけは守ったものの、凄まじい臭気を放つ。
「ちょ、窓を開けよ!」
「もう、ひどい臭いねぇ」
「まったくだな」
「どうして平然としてられるの、お二人さんはさぁ」
下水を凝したような魔と戦った経験があるアイリーンと、死の中で過ごした事もあるカノエである。
ロロの失敗作は早急に処分されたものの、臭いだけはかすかに殘っていた。
メディが花の素材を集めて、調合釜で煮詰める。
調合段階ですでに花特有の香りがアトリエを満たしていく。
ハーブ系をしだけ煎じて、小さな容をいくつか用意して小分けした。
「しばらくこれを置いておきます」
「いい香りだな。心が落ち著く」
「リラックスハーブティーの応用です。あちらよりも鼻によく効くんです」
「これは人にとっても心地ちいい香りだな」
ロロは困り顔でなぜ失敗したのか考えていた。
メディの下で著実に基礎知識や技をにつけているものの、腕は未もいいところだ。
ただし失敗してもメディは怒らない。むしろなぜ失敗したのか、考えさせるように教えていたのだ。
「魔もくさいなら人間もくさいのです……」
「ロロちゃん、魔が嫌いな臭いという発想はよかったですよ」
「そーなのです?」
「次はそれを改善して、より広く……広く?」
メディは気づいた。
より強く広がる香りで、魔にとっては不快な香りとなればいい。
「お香です! 街道に置けばいいんですよ! 今みたいに、一つだけでも強烈な香りを漂わせればいいんです!」
「メ、メディ。強烈な香りってまさか、あんな酷いうん」
「はしたないわ、エルメダちゃん」
「うん……ふぎゅっ!」
カノエによってエルメダとロロの口が塞がれた。
「メディ、まさかうんこの臭いを振りまくのか?」
「いえ、人間にとって不快がないものにします」
「うんこではないのか。なるほど」
「カノエさん! アイリーンさんの口を塞いで!」
アイリーンにその隙はなく、カノエとしても人がその単語を口にするのを面白がっていた。
理不盡に憤りをじながら、エルメダはメディの話に耳を傾ける。
「例えばリラックスハーブティーの香りも、魔の中には嫌う個もいます。この辺に生息している魔なら、そう難しくはないはずです」
「必要な素材はあるか?」
「今から考えますっ!」
「では待機していよう」
「アイリーンさんは居座ってリラックスハーブティーが飲みたいだけだよね」
カノエも當然のように食事の準備を始めていた。
まるで我が家のようなその振る舞いに、さすがのエルメダも呆れる。
しかしやがて漂ってくるチキンのハーブ焼きの香りのせいで、エルメダもすっかりとくつろいでしまった。
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