《お薬、出します!~濡れを著せられて治療院から追放された薬師さんが辺境で薬屋を開きました。極めたポーションは萬能薬と呼ばれて回復魔法を超えるようです~【書籍化コミカライズ企畫進行中】》工業都市の影に

は整理整頓されておらず、いわばゴミ屋敷に近かった。

歩けば何かを踏む可能があるので、メディ達は細心の注意を払わなければいけない。

アイリーンはこの景に驚きを隠せず、メディ達を無視して奧の部屋へとっていくエクリを呼び止めた。

「エクリ。師匠が亡くなってから、ずっとこの調子なのか?」

「なに」

「整理整頓がいい仕事への第一歩だと師匠はお前に教えていたはずだ」

「はぁ……」

うるさいと言った裝いを見せて、エクリはアイリーンを無視して奧の部屋へと消えた。

メディも整理整頓について心の中で同意した。

私生活でだらしない行を取れば、仕事にも影響が出る。

薬の保管場所や日付、徹底して管理しなければいざという時に間違える可能があるからだ。

調合の際に必要なを選択する際にも、いちいち手間取るはめになる。

その數秒の遅れのせいで、助かる命が助からない。

村にいた時、父親に何度も注意されたことだった。

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「まずはお片付けしましょう」

「え、メディ。そんな勝手に……」

うエルメダをよそに、メディは片付けを始めた。

を勝手に処理するわけにはいかないので、ゴミと判別したものとそうでないものを分ける。

その上で足の踏み場を確保した後は、テーブルなどの汚れを徹底して落とした。

その熱意たるや、アイリーン達の手を止めるほどだ。

薬以外のことで熱中するメディの姿が新鮮に見えたのだ。

メディとしては同じ作り手としてしでも手助けをしたかった。

「ひとまずマシになったわね」

「けほっ、けほっ……。すごい埃だよ」

カノエが家政婦のように掃除の仕上げを行う。

殘飯で溢れていたキッチン、何かがこぼれた床も新築に近い狀態となった。

カノエはカイナ村でもメイド服を著て、民家に赴いては家事の仕事をしている。

その仕事ぶりが、ただの道楽ではないことを全員に知らしめたのであった。

「カノエさん、ちゃんと仕事するんだね」

「私をなんだと思ってたの」

「いや、てっきり……なんか、その」

いかがわしい、と言いかけてエルメダはやめた。

エルメダはカノエの正を知らないが、アイリーンとは違った匂いをじているからだ。

一息ついたところで、ロロが新たなゴミを発見していた。

「ビンがたくさんなのです!」

「ロロ、それは?」

「まっじぃぃのです! ぺっ! ぺっ!」

「こらっ! 勝手になんでも口をつけちゃいけません!」

ロロがビンを傾けて、わずかに殘ったを飲んでしまった。

呆れたメディだが、ふと香ったその匂いを嗅いで表がわずかに強張る。

エルメダもビンを手にとって不思議そうにしていた。

「なんのビンだろうね? 果実酒か何か?」

「ゴルイ師匠は酒など飲まない。エクリも同じだ」

「じゃあ、ジュース? こんなに大量にあるのはすごいね。あ、ポーションとか?」

「それならメディの専門だな……ん? メディ?」

アイリーンとエルメダは強張るメディの表を見て一瞬だが凍りついた。

猛者の領域にいる彼達すら戦慄させたメディの靜かな怒り。

それは個人的なものではなく、薬師としてのものだとすぐに理解した。

アイリーンが剣の道を極めたように、エルメダが魔法の使い手として誇りを持っているように。

メディの薬師としての実力と誇りからくる怒り。

どの道の達人であるほど、それをじ取れる。

「エクリさんは奧の部屋にいるんですね。ちょっと聞いてきます」

「メ、メディ! また勝手に!」

エルメダの靜止も聞かず、メディはエクリがいる部屋へとっていった。

そこは工房となっていて、あらゆるが壁に吊るされている。

何かの素材らしきものが所狹しと床一面に散らばっていた。

そんな中、エクリは機に向かって一心不に作業をしている。

「エクリさん。あの部屋にあったビンにっていたものを飲んだのですか?」

エクリは返事をしない。作業に沒頭していて、額には點々とした汗の粒がついている。

メディが再び話しかけようとした時、エクリがふらりと倒れかかった。

「あ、危ない!」

「う……」

小柄なエクリだが、同じく小柄なメディでは支えるのもやっとだった。

呼吸が荒く、ただ事ではないと判斷したメディがアイリーン達の助けを借りてベッドへと運ぶ。

ベッドに寢かせた後もエクリは起き上がろうとした。

「仕事……」

「ダメです。今、あなたはとても危険な狀態なんです」

「邪魔」

「寢ていてくださいッ!」

メディの怒聲が室に響いた。

予想してなかったメディのそれに、エクリは思わずぱちまちと瞬きをしてからパタリと再び上を寢かせる。

メディがこれほど怒りをあらわにする事態だ。

アイリーン達も薄々だが原因に気づいている。

「あのビンにっていたものはなんですか? どこで手にれましたか?」

「ドラゴンエナジー」

「どらごんえなじー?」

「元気いっぱい」

言葉足らずの説明だが、メディはどうにか解釈しようと努力する。

ドラゴンエナジーと呼ばれる何かをエクリは飲んだ。それは元気になる薬か何かだと彼は思い込んでいる。

しかし當然、メディはそう見立てていない。

薬師メディを見てきているアイリーン達も同じ思いだった。

「エクリさん。そのドラゴンエナジーは危険です。もう絶対に飲まないでください」

「嫌」

「嫌、じゃなくてですね。誰が作ったのかはわかりませんが、元気になったように錯覚させているだけです」

「噓」

「噓じゃないんです。それを飲む前のエクリさんはもっと元気だったはずです」

人見知りの気質があるエクリにその言葉が屆くのか。一同は不安だった。

薬の知識など何一つない彼達だが、ここにいるメディの言葉こそが真実だと確信している。

メディの真摯に患者と向き合う心をもって助けられたからこそだった。

「エクリ、メディを信じてほしい。師匠の二番弟子だった私の願いだ」

「破壊……」

「それはすまなかった。しかし今のお前の姿をゴルイ師匠が見たらどう思う?」

「おじいちゃん……」

エクリの目に涙が浮かぶ。

何のも見せないと思っていたの変化に全員が安堵した。

冷たいだがきちんと人の心がある。

それならばメディの言葉も屆くはずだと、改めてアイリーン達はメディに託した。

「お話を聞かせてもらえますか?」

メディは言葉こそ丁寧だが、底知れぬ力強さをじ取ったエクリは靜かに頷いた。

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