《お薬、出します!~濡れを著せられて治療院から追放された薬師さんが辺境で薬屋を開きました。極めたポーションは萬能薬と呼ばれて回復魔法を超えるようです~【書籍化コミカライズ企畫進行中】》薬師ドクマーク
「ドクマーク先生。ドラゴンエナジーの売り上げ、今月もアップしました」
「ブフォフォフォ……良い、実に良い」
書から手渡された売上表を見て、ドクマークはご満悅だ。
工業都市プロドスで事業を展開してからというもの、ドクマークは毎日を生きるのが楽しくて仕方なかった。
ドクマークに薬師の下での修行経験はない。
治癒師が過剰に持て囃される背景には、人々の健康意識の高さがある。
そこに目をつけたドクマークは一から獨學で薬學を學んで、獨自の理論を完させた。
最初こそ薬師達は鼻で笑っていたが、彼の理論はやがて多くの人々を魅了する。
誰でもできる薬の作り方や簡単な治療薬など、甘い宣伝文句で人を集めては講座などで金を儲けていた。
今やその弟子の數は百人を超えており、薬師どころか一部の治癒師達すら気をんでいる狀況である。
「さすがはドクマーク先生。たった二ヵ月でこのプロドスでも知らぬ者はいない狀況ですよ」
「ブフォブフォ……當然でしょう。あのドラゴンエナジーがあれば、あらゆる問題が解決するのですからな」
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「しかし、現役の薬師は今頃どうしているのでしょうな。先生のようなニューウェーブの臺頭とあっては、まともな商売もできないでしょうね」
「古きものは淘汰される。新陳代謝のようなものです。致し方ないのですよ。ブフォフォフォ……」
ドクマークは薬師という存在を完全に軽んじていた。
何せ長年かけて薬學を學んだ薬師よりも、今や自分のほうが果を上げている。
薬學など、自分の頭にかかれば簡単に取りれられる安いものだと笑っていた。
「しかしここ最近はし騒になってきましたな。どこの同業者かわかりませんが暗殺を企てるなど、大膽なことをする」
「そのための彼らでしょう。そのうちの一人、闇の世界では名が通った彼がいるのです」
「それに戦場で魔師を含めて百人近く殺したという伝説の傭兵、通稱ブラッドニュース……。以下総勢三十人の護衛、守りに抜かりはありませんよ。ブフォブフォ……」
「治癒師協會のように白十字隊(ヘルスクロイツ)などいませんからね。を守るのも仕事といえるでしょう」
ドクマークと書が談笑する近くには二人の人が立っている。
黒ずくめでを固めた老齢の男にウサギ耳のヘアバンドをつけてマフラーで口元を覆う小さな。
ドクマークはこの二人を雇えたことが最大の幸運の一つと思っている。
「ふぁぁ……退屈ッスねぇ。せんせー、出番とかこねえッスか?」
「ブフォフォ、申し訳ない。しかし早々、事件が起こってはこちらも困るのですよ」
「じゃあ、ちょっと寢るッス。有事の際はきっちり起きるんでだいじょーぶッスよ。スゥ……」
は立ったまま寢ってしまった。
老人のほうは気がつけばソファーでくつろいで、ティーカップに口をつけている。
「マイペースですね……。見た目だけじゃとても強そうには見えませんし、ドクマーク先生には恐れりますよ」
「私とて、無條件であの二人を雇ったわけじゃありませんよ。それまで雇った護衛全員と戦わせるまではね……」
ブラッドニュースの名に疎いドクマークは、と當時の護衛十三人を戦わせてみたのだ。
一級の冒険者を含めた護衛全員がだらけになるのにものの一分もかからなかった。
「まさかあんなが噂に聞くブラッドニュースとはねぇ。人は見かけによらないものです。ブフォフォフォフォ……」
「あちらの老人は夜禍(やか)でしたっけ。暗殺歴七十年……まったく理解しがたい」
商売柄、敵が多いドクマークは臆病であり用心深い。
命を守るためならいくら金をつぎ込んでも足りないとさえ考えている。
それだけに、二人の護衛をつけたことで日々の機嫌はすこぶるよかった。
* * *
「さぁさぁさぁ! 今日も一日! ドラゴンエナジーで日々の労苦を吹き飛ばしましょう! ブフォフォフォ!」
プロドスの中心部、マーケット通りで一際目立つのがドクマークの店だ。
路面へむき出しになった店舗に大量のドラゴンエナジーを並べて、堂々とアピールする。
労働者達はこぞってドラゴンエナジーを買い求めて、中にはその場で飲みきる者までいた。
今日も開店と同時に人々が殺到して、ドラゴンエナジーが売れていく。
「ブフォフォ! 押さないでくださいよ! 慌てなくても在庫はたくさんあります!」
「そうです! 怪我でもされては労働者の味方である我々としても心苦しいのですから!」
ドクマーク以下、數人の店員達が口々に甘い言葉で購買意を掻き立てていた。
陳列されたドラゴンエナジーが売れて消えていく中、ドクマークの視界に一人のがる。
離れたところでぽつんとたたずむに彼は見覚えがあったのだ。
人一倍、買いをしていくそのだが今日は微だにしない。
「そちらのお嬢さん! 今日もドラゴンエナジーを買っていきませんか?」
「いらない」
「へ?」
「あっち」
が指したところにもう一つ、何かがったビンを並べている店がある。
まさか同業者かとドクマークは訝しんで観察した。
「なんだあいつらは……?」
「ドクマーク先生、どうかされたのですか?」
「あんな店なんかありましたかな?」
「なるほど、ドクマーク先生。あれは同業者ですよ。どうせ先生のドラゴンエナジーの人気に便乗した三流薬師でしょう」
のその店に目を奪われたドクマークだが、すぐに自分の商売に戻る。
すると先程のが気がつけば、ビンを一つ持ってきていた。
「おいしい」
ドラゴンエナジーで群がる客の後ろで、は対岸の店にある薬を飲んだ。
そしてもう一人、メイド服をきたにドクマークはまた目を奪われる。
「あぁん……。おいしい……はぁ……」
その艶めかしい振る舞いに、人々は次第に興味を移す。
ドクマークも例外ではなく、スカートからびる太ももから目が離せなかった。
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