《お薬、出します!~濡れを著せられて治療院から追放された薬師さんが辺境で薬屋を開きました。極めたポーションは萬能薬と呼ばれて回復魔法を超えるようです~【書籍化コミカライズ企畫進行中】》絶風とブラッドニュース

「ここは素材を保管している倉庫なのだが何か用か?」

深夜、メディが借りていた素材の保管庫にてアイリーンが二人の侵者に呼びかける。

一人は黒い斑點が目立つの獣人、もう一人は獣人ではないがウサギ耳のヘアバンドをつけただ。

アイリーンは二人の正と目的が何なのか、すでに理解している。

しかしなぜ二人なのかという疑問はあった。

「勘がいいッスねぇ。うちもやりたくてやってんじゃないッス」

「な、ニトちゃんよぉ。言った通りだろぉ? 極剣相手なら何人いても足りねぇってよ」

獣人は暗闇で目をらせて、アイリーンに対して好戦的だ。

尚も余裕を見せて壁によりかかるアイリーンに、ニトと呼ばれたは不満そうに小指で耳をほじる。

「あんた極剣ッスよね。なんだってあんな子どものボディガードなんかしてるッスか? いくらで雇われてるッスか?」

「侵者の分際で質問が多いな。しかも保管庫荒らしすら一人で出來ない様子と見える」

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「こっちの獣人パンサールがあんたを警戒したッスよ。やっぱり待ち構えていたんスよねぇ」

「なにせ極剣がいるんだぜぇ! が踴らねぇわけがねぇよ!」

アイリーンはドクマークの金払いに呆れた。

ドクマークの護衛にニトと獣人パンサール。

どちらも名が知れた二人だからだ。

実際に見るのも會うのも初めてだが、その姿には名が通るだけの特徴がある。

黒い斑點の獣人パンサールは絶風と呼ばれる傭兵だ。元々は一級冒険者だったが依頼主とめて冒険者ライセンスをはく奪されている。

數百の敵部隊に一人で突撃して指揮を殺したことから、戦場に吹く風が不吉と捉えられる風さえ生み出した張本人だ。

「絶風にブラッドニュース、傭兵に飽き足らず保管庫荒らしとはな。傭兵稼業がよほど儲からないのか?」

「うちらの正がわかっていながら余裕ッスね。さてはあんた、負けたことないッスね?」

「幸運なことにな」

負けたことはないが挫折を味わったことがある。

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メディによって救われる前のことはアイリーンもあまり思い出したくなかった。

重圧に潰されそうになり、結果を出せる自信すらなくなって怪我が多くなったあの日々を。

低級の魔にすら苦戦するほど、が重かった日々を。

そう考えれば、敗北しなかったのはまさに幸運だとアイリーンは皮抜きで思っていた。

「俺は護衛長パンサール! ここ最近は紛爭一つもなくて退屈でな! つまらねぇ護衛だが極剣がいるならこりゃ楽しいわぁ!」

「あいにくだがお前の相手は私ではないぞ」

「あ?」

「こんばんはー」

保管庫に登場したのは夜食のサンドイッチを貪っているエルメダだ。

二人はアイリーンはチェックしていたが、エルメダはノーマークだった。

エルフはそう珍しいものではなく、高い魔力を保有するものの実力的にはそう恐れるほどではないと思っていたからだ。

二人は戦場でも魔道士を山ほど殺しているのだから。

「また夜食を食べているのか。メディに怒られるぞ」

けばだいじょーぶ、だいじょーぶ! あーチキンサンドおいちぃ」

「で、あの賊だがやれそうか? 獣人は相當な実力者だぞ」

「たぶんね」

エルメダの未練がましく指をなめている仕草が、パンサールの神経を逆なでした。

彼に正々堂々はない。試合開始の合図もない。

勝てばいい。その勢いでエルメダに襲いかかった。

あっという間もなく距離を詰めて爪を振るえば終わる。

ましては魔道士など、すべてこれで片付いたとパンサールは高をくくっていた。

「がっ……!」

エルメダの拳がパンサールの顔面にヒットするまでは。

激しく回転した後、床に打ち付けられて気絶した時にはすでに終わっていた。

だらしなく舌を出したまま白目をむいて倒れるパンサールと拳を突き出したままのエルメダをニトは見比べる。

「えるふぱーんち。こちとら誰と模擬戦してると思ってんのさ。魔道士だから接近戦できないとか偏見だよ?」

「一撃か。次にエルメダと戦う時は油斷できないな」

「またまたー」

パンサールを一撃、見る者が見れば夢だと疑うだろう。

ニトも例外ではなく、パンサールは同じ傭兵として実力を認めていた。

そんな所業を果たしたというのに、アイリーンとエルメダは井戸端會議のテンションだ。

ニトことブラッドニュースはすぐ様、敵の戦力をより正確にじ取った。

戦場にを置いていた時ですら、彼はこの時ほど寒くじたことはない。

「やべぇのは極剣だけじゃなかったってわけッスね」

「怖気づいてくれたか?」

「極剣、うちは一度あんたとやってみたかったッス」

「ほう?」

ブラッドニュース、ニト。

ニトを敵に回した勢力は必ず最高戦力を失ったという報告がることから、そう呼ばれるようになった。

十代でありながら、彼が戦場で奪った命の數は計り知れない。

ニトはい頃に両親をなくして以來、傭兵部隊に拾われた。

傭兵部隊の隊長は彼に徹底して戦闘を叩き込み、戦闘が生業となるように教え込む。

が生きた世界は勝つか負けるかではない。逃亡も許されない上に生きるか死ぬかだ。

危なくなれば逃げられる冒険者とは違う。敵前逃亡は容赦なく殺される世界だ。

明日の飯を食べるには殺さねばならず、飯を食えばまた戦場が待っている。

そんな日々を生きるうちに、ニトの耳に極剣の話が飛び込む。

冒険者にしておくにはもったいない人がいると聞いていた。

「冒険者にうちが殺れるわけねぇッスよ。お気楽に探検して適當に魔を殺すだけで飯が食えるような連中じゃねえッスか」

「偏見はよくないぞ。それではエルメダに負けたパンサールと同じ目にあう」

「どうっスかねぇ。戦爭を知らない冒険者に負ける気はしねぇッスね」

「よほど自信とプライドがあるようだな。それならばなぜ今はドクマークの護衛をやっている」

ニトは答えに窮する。

戦場に嫌気が差して逃げ出したなど口が裂けても言えなかった。

滅多にない休日で、家族や友人同士が楽しそうにしているのを目にして張の糸が緩んだ。

ふと自由を求めてしまったことなど、自分でも認めたくなかったのだ。

なぜなら彼の人生は戦場で埋め盡くされているのだから。

それを否定すれば、今までの努力と浴びたに背くことになる。

楽しそうに話すアイリーンとエルメダを見て、一瞬でも羨ましいと思ったなど認めたくなかった。

「あんたには関係ねぇッスよ」

ニトは無意識のうちにうさぎ耳のヘアバンドにれた。

とある町の子どもがつけていたのを見て、なんとなく買ってしまったのだ。

これをにつけることでしでも日常というものを味わえるなら、と淡い夢を抱いてしまった。

そしてニトが両手に備え付けた魔道連銃(ガトリング)をアイリーンに向ける。

「ハチの巣ッスよ!」

魔道、魔道連銃(ガトリング)は自らの魔力をしずつ削って弾丸を嵐のように放つ魔道だ。

目視は不可能な速度であり、無數の弾は人の原型を軽く失わせる。

アイリーンが萬が一にでも回避すれば、後ろにある素材が犠牲になると踏んでいた。

それでいて剣での防は不可能だと知っている。

どれだけ優秀な技を持つ者だろうと、これ一つで簡単に葬ってきた。

優れた技は優れた武裝の前では無力であると、ニトは師匠に當たる人から徹底して教え込まれたのだ。

「面白い裝備だな」

「じょ、冗談じゃねえッス……」

アイリーンはすべての弾を叩き斬っていた。

保管されている素材には一つも命中しておらず、何事もなかったかのような様相だ。

「クソったれッスよ! これでどうッスか!」

今度はニトが両肩に裝著していた手裏剣のような回転刃が飛んだ。

魔道、不日。不規則な刃のきは練の者ほどわされ、かすり傷ですら傷口が塞がらずに致命傷となる。

が、ニトはその不規則なき込みでアイリーンに斬り込む。

続けて出したのは魔道、死縛鞭。しゅるりと回転するきでアイリーンを囲む。

不日と死縛鞭の二段構えでニトは今度こそアイリーンを仕留めたと確信した。

かつて戦場に乗り込んできた名うての一級冒険者がすすべなくこれで散ったからだ。

「あ……」

不日はカラカラと音を立てて、保管庫の床に転がった。

死縛鞭はアイリーンの剣に巻き付いている。

チャンスと見たニトだが間もなく強烈な力で引き寄せられる。

し痛い目にあうといい」

アイリーンの剣の柄がニトの頬に直撃した。

ニトは薄れゆく意識の中で悟る。

極剣が戦場に興味を示さなくてよかった、と。

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