燃費の悪いスキルの同時発で。

ロロイは、その場にへたり込んでしまった。

仕方がないので抱き寄せて…抱き上げた。

「あれ…」

ロロイのが思ったよりも軽く持ち上がってしまったので、ちょっと驚いた。

「うぅぅ…超！空腹なのです」

「しだけ我慢してくれ、ロロイ。後でモーモーをたらふく食わせてやるから…」

とにかく、今は早急にここを離れるべきだ。

周りの店の店主たちは、商売仲間をぶちのめした俺たちを見て、次第に殺気立ち始めているようだった。

「ぐぅっ…」

そして、ガンドラと呼ばれた骨董屋の店主が早くも目を覚ました。

だが、まだ地面に橫たわったまま何人かの店主に介抱されている。

そして…

「そいつらを逃すな！　盜賊団『黒い翼』の関係者だ！」

そうんだ。

「はぁっ！？　なんだよ、その『黒い翼』って…」

どうやら。

俺には聞き覚えのないその盜賊団との関連を疑われたことが、骨董屋の店主が俺を襲った理由のようだ。

腕の中のロロイにも視線を向けたが。

ロロイも『わからない』というじで弱々しく首を振った。

だが、その言葉を聞いた周りの店主たちの雰囲気は一変した。

目つきが変わり、すでに武を構えているものまでいる。

「待て待て待て！　俺たちは、そんな盜賊団は知らない！　いきなり襲われたから、応戦しただけだ！」

「うるせぇっ！」

「こいつら、ボコボコにしてやる！」

「にひん剝いて。それから磔（はりつけ）だ」

俺の言葉は全く聞きれてもらえなかった。

「お腹…空いたぁ…」

とりあえず倉庫にっていた「モーモーの焼串」を取り出して、ロロイに渡した。

ロロイはそれを貪り食ったが、まだまだそんなものでは空腹は治らないようだった。

ロロイがこの調子じゃ、逃げることもままならない。

そしてマナで解決できるような雰囲気でもない。

つまりは絶絶命だ。

その時。

「自警団が到著したぞ！」

「ガンツとオレットだ！」

銀のパートメイルを著込んだ。自警団と思しき一団が、俺たちの前に走り寄ってきた。

「助かった。意味がわからないままいきなり襲い掛かられて、その上盜賊団に間違われて困っていたんだ」

そう言って俺が事を説明しようとすると。

「父さん！？」

「お義父様(おとうさま)！？」

その一団のトップと思しき2人の男が、骨董屋のガンドラに走り寄って行った。

「貴様ぁっ！？」

「お義父様(おとうさま)をこんな姿にするなんて…、ただ者ではありませんね！？」

「そいつらは、盜賊団『黒い翼』の関係者だ…」

「なにぃっ！？」

「我ら『キルケット西部地區自警団』の名にかけて、ここで必ず引っ捕えます！」

完全に走った目で、剣を構える自警団の面々。

「……」

マジで勘弁してくれ。

自警団ですら話が通じないのかよ。

こうやって、も葉もないところから噂が回って、いつの間にか完全にそういうことにされるんだろ？

これで俺とロロイが冤罪で磔（はりつけ）とか、火炙りとか、死刑とかにされて。

後で『すみません、間違いでした』なんて話になっても、どうせ誰も責任取ってくれないんだろ？

なんか…

マジで腹立ってきたな。

「倉庫取出（デロス）」

ロロイを下ろして、俺がそう唱えると。

自警団の2人が一気に飛び退った。

普通は、戦闘中に「倉庫」から取り出すのは武か魔導書の類だ。

だから、彼らのその反応は正しい。

だが、俺が取出したのは「布切れ」だ。

俺は戦闘力ゼロだからな！

「とにかく、これを見てくれ」

そう、俺が出したのは『大商人グリルの手紙』だ。

「俺が、これを骨董屋の親父に見せたら。いきなり毆りかかられたんだ。それで、なぜか盜賊団との関係を疑われている」

みをかけて。

とにかく俺は事の説明にった。

「これは、俺が正當な方法で手にれただ。盜賊団だと疑うのであれば、きちんと理由を話してくれないか？」

『跡荒らし』が正當な方法かどうかは微妙に評価が分かれるところではあるが、古代跡のトレジャーハントは普通に認められているのだから、いいはずだよな？

「正當な方法だと！？　いいか！　その手紙は明らかに特級のだ。その布も、インクも、現代は使われていない代だ。俺には見ればわかる」

『理由を話せ』という俺の言葉に対し、ガンドラは本當に理由を話し始めた。

何気に律儀なおっさんだ。

「古代文字が読める狀態で殘っている2000年前の手紙。そして…差出人『グリル』。伝説上の人が書いた2000年前の手紙なんざ。その辺の商人が持ってるような代じゃねぇ」

「だからといって。それで俺たちが盜賊団と繋がってるなんて話にするのは、ちょっと突拍子もなさすぎやしないか？」

「はっ！　まだしらばっくれる気か？　いいか。この辺でそんなを発掘できた可能があるのは勇者ライアンのパーティだけだ！　だから、今それを持っている可能があるのは2年前にアース跡を攻略した『勇者パーティ』もしくは、1年前にその勇者パーティから所持品の大半を盜みだしたという盜賊団『黒い翼』の関係者だけだ！」

「いや、待て！　ライアン達がアイテムを盜まれたって？」

「もう、これ以上話すことはねぇっ！！」

そう言って、ガンドラが武を構えた。

俺が『その勇者パーティの元メンバーだ』とか言っても。この狀況では信じてはもらえないだろう。

ライアン達がアース跡を攻略した時。

実は、國王より魔界ダンジョンの攻略を命じられている道中だったため、跡攻略はいわば寄り道だったのだ。

そのため、ゆっくりとキルケットに戻ってを売るようなことはせず、俺たちはそのまま西へと向かったのだ。

その後、モルト町ギルドにて。

ライアンが『青紋剣サミラス』をはじめとするアース跡からの出土品を披した事で『勇者パーティが跡を攻略した』という噂が各地に広まった。

そしてアース跡群の最下層で手にれたは、そのままずっと俺の倉庫の中にあって。魔界ダンジョン攻略後にヤック村でライアン達に返すことになった。

その後ライアンたちが丸ごとアイテムを盜まれたとすれば…

ライアンたちが発掘したアース跡群のは、ガンドラの言う通り通常のルートでは世に出回っていないことになる。

いやいやでもさ。

「仮にそうだとしても、勇者パーティか黒い翼から流れた品が、回り回って通常ルートで俺のところに來たって可能も…」

「勇者パーティがを売り出したって話は聞いていない。そして、黒い翼は盜品を売らない。だから、黒い翼に盜まれたは2度と表の世界には戻ってこない！」

知るかそんなこと！

そんなアホみたいな盜賊団がいるのかよ！？

「そもそも、そんな言い訳じみたことを言い出す時點で、あんたは真っ黒だ！？」

自警団の面々は、

皆一様に武を抜き、構えをとっていた。

もう、言葉による説得は無理そうだった。

ロロイが戦えない狀態では。

もはや勝ち目どころか、逃げることすらできないだろう。

それでもとにかく。

ロロイだけでも、危害が及ばないようにしなくては。

「あんたら。こんな小さなの子まで磔（はりつけ）にするって！？　そんなの悪黨と変わらねえだろ！？　いい大人が寄ってたかってそんなことして、楽しいのかよ！？」

ここはもう、常識に訴えかける渉をしようとしたが、店主達の目つきは全く変わらない。

「そいつも盜賊団だろう！？」

「くっ…」

いつの間にか『関係者』から『盜賊団そのもの』にされてる。

何か、ほかにこの場を切り抜ける方法はないのかよ！

俺が全力で思考を巡らせている、その時だ。

「アルバスとロロイじゃねーか。そこで何やってんだ？」

そう聲がして。

振り向くと、バージェスとクラリス（男裝バージョン）がいた。

「バージェス…」

どうやら、クエスト帰りに商店街に立ち寄ったところのようだ。

さて。

話が余計にややこしくなるのか。

はたまた救いの一手となるのか。